第5話 ミッケリ2

 カンカンカン!

 鳴り響く警鐘にアネルマはキョロキョロと町を見渡す。


「何が起こったの? まさかドラゴンが襲ってきた……?」


 リーハス公国の都で警鐘がなるのはドラゴン級が現れた時。

 魔法が使えないアネルマは空を飛ぶことはできないため、ドラゴンとは相性が悪かった。


 魔法使いである母親の血を受け継いで膨大な魔力を持って産まれ、ゆくゆくは大魔法使いか大聖女かと言われて育ったアネルマ。

 しかし、十歳になっても魔法を放つことができず、十二歳で諦められる。


 ただ、体内で魔力を使うことはできるため超怪力、超回復、毒だって効かない。

 なので、騎士団に入団してメキメキ力をつけ、十五歳で最強となったのだ。

 公女や令嬢というには男らしく育ち、婚約も破棄されたが、優しい家族がいたので元気に過ごしている。

 

 それでも、ドラゴンなどと相対する時は魔力が使えないことを悔しく思ってしまう。


「それに、ドラゴンを追い払えば報奨金がもらえるかもしれないし……」


 そして、今は切実な理由もあった。


 町の人は全員家の中に入り、静まり返っている。

 そんな中、アネルマはポツンと取り残された。


「はぁ、どうしよう。誰も見てないし、筋トレして考えるしかないかなぁ」


 アネルマはドラゴンを倒すことは困難だが、ドラゴンがアネルマを倒すこともできない。

 アネルマに危機感はなかった。

 そして、体を動かせば名案が浮かぶと聞いたこともある。


「おい、大丈夫か!?」


 走って来たのは門で見た騎士。

 ちょうどアネルマが腕から鍛えようと地面に手をついたところだった。


「あっ、その、大丈夫だから」


「公爵令嬢様ではありませんか! すぐに救護室へ!」


「本当に大丈夫なんだって」


「いえ、ここは危険です! 南門の要塞に救護室があります! そこへ急ぎましょう!」


「えっ? ドラゴンが来るんでしょ? 嫌だよ」


(建物に入って外から火を吹かれたりしたら逃げ場がなくて熱いし)


「何を言っておられるのですか! もうレッサーレッドドラゴンの群れがそばまで来ております! 北門が破られる可能性があるんです! 早く南門へ!」


(群れかー。それは厳し……レッサーレッドドラゴン?)


「今、レッサーレッドドラゴンって言った?」


「はい! わかっていただけましたか! さぁ早く南門へ!」


「いえ、北門に行くわ!」


(やったー! レッサーなら飛べないし群れでも余裕じゃん! これ危機なのよね!? 今日の宿が確保できるかも!)


「話を聞いていましたか!?」


「北門はどっち!?」


「危険です! 南門に行きましょう!」


「南門がそっちなら北門はあっちね! いい情報ありがと!」


「公爵令嬢様ー!!!」


(今日の運動! 宿! ご飯!)


 テンション爆上がりのアネルマは騎士が追い付けない圧倒的な速度で走り去るのであった。

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