第4話 ミッケリ1
「それじゃあ行ってきまーす!」
「行ってらっしゃーい!」
「筋トレ、休息、忘れるな!」
「わかってるよ!」
「気をつけてねー!」
アネルマは両親と妹弟たちに手を振って走った。
ちなみに次女は他国に嫁いでおり、その下の長男は帝都の学園にいる。
当主になる者は全員帝都の学園に通う義務があるからだ。
そして、アネルマが走るのは馬車を使っていたら間に合わないから。
馬車は道しか進めない。山や川は迂回することになるし、国境を通る度に止められる。
アネルマなら走って山を越え、川を跳び越え、道も国境も無視して突き進む方が早い。
「ガァアアア!」
「ギィエエエ!」
「グゥオオオ!」
「ゲェエエエ!」
「ゴォアアア!」
山や森はいろんな魔物がたくさん出てくるので危険。
普通は通らない。
でもアネルマはザクザク適当に倒しながら進む。
誰かが見ているならポーズを取りつつ倒すが、今観客はゼロだ。
弱い魔物は無視するに限る。
「あっ! 見えた!」
走って走って着いた大きな要塞都市ミッケリ。そこで休憩する計画だった。
「そこで何をしている!」
ミッケリを守る立派な壁の上から警備隊が叫んだ。
何をしていると言われても走っていただけのアネルマは「走ってます!」と答える。
「早く中に入れ!」
「はーい!」
大きな門は閉まっていたため、小さな門から入り、審査を受ける。
もちろん公爵令嬢なのですんなり通った。
「先ほどは失礼しました!」
公爵令嬢とわかり、急にかしこまる騎士。
「お仕事ご苦労様。なにかあったの?」
(それにしてもなかなかの肉体美ね。大会に出ればいい線いくわ)
「昨日レッサードラゴンが現れて隣国との国境は封鎖されているのです。今日は討伐隊が向かっているはずですが、もう終わっているのでしょうか」
「いやーどうだったか。ちょっと違う道を通ったから、う"ぅん……コホン。では宿を探すので」
アネルマはスッと逃げ出す。
中は煉瓦が多く使われた綺麗な町並み。一部は鍛冶屋の煙がモクモク立ち上っている。
そんな町並みをキョロキョロしながら、宿屋に入る。
そして、お金を払おうとして気づいた。
「お金、忘れた!」
リュックには適当に決めて突っ込んだドレスと水、食料だけ。
あと持っているものは剣。
「まぁ仕方ないか」
とりあえず宿を出て町を歩く。
そう、アネルマには強靭な肉体がある。
体で稼ぐのだ。
(いくつもの大会で殿堂入りした実力を見せてやるわ!)
筋肉協会でこのボディを見せればお金を借りることくらいできるはず。
そう思って町で筋肉協会を探し歩き、探し周り、探し走り、広場のベンチに座った。
「なんで? なんで筋肉協会がないの……?」
どれだけ探しても筋肉協会がなかった。誰に聞いても「聞いたことがない」の一言。
リーハス公国では最もメジャーな競技会、筋肉大会を取り仕切る筋肉協会。
小さな村でさえ出張所があるほどだ。
「まさか無いなんて。はぁ、なんて町なのよ。ちゃんと筋肉協会がある町にいかないと。でも、次の町に行くとなると着くのは夜中になるだろうし。筋肉協会も閉まるだろうし」
いい筋肉はいい睡眠から。当然のことだが筋肉協会は夜閉まっている。
「どうしよ。準備なしの野宿はやだなぁ。筋肉に悪そう」
その時「カンカンカン!」とけたたましい音が鳴り響いた。
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