第3話 公爵家2

「お帰りなさい! アネルマお姉さま! 大好きです!」


 なかなかの突進力をみせて抱きついて来たスヴィをアネルマは軽く受け止める。


「ありがとう、スヴィ! 私も大好きよ!」


 スヴィは一番下の妹で十歳。十歳下となると可愛くて仕方がない。


「スヴィはいつ見ても可愛いわ!」


「アネルマお姉さまも可愛いです!」


 えへへと笑うスヴィは天使のよう。くりっとした目に丸みのある頬、少しウェーブがかった髪。

 簡素なクリーム色のワンピースでさえ高級感が溢れてくる。


「いつまでそんなことしてんだよ」


「ほんとほんと。もう十歳だろ」


 そこに水を差すのは十二歳の双子の弟ラウリとサカリ。

 爽やかイケメンになりそうな二人はそっくりだが、目の色が少し異なっていた。二人とも茶色だけれど、ラウリは右目、サカリは左目の方が濃い茶色をしている。


 スヴィはラウリとサカリを振り向き「いいでしょ」と睨み付けて魔力を叩きつけた。

 そして、「ぐっ」と後ずさる双子を不思議そうに見るアネルマに笑顔を向ける。


「ね? お姉さま?」

 

「もちろん! ほら、ラウリとサカリもおいで!」


 アネルマにとっては双子も可愛い。スヴィを離して両手を広げる。


「おっ、俺たちは別にいいから!」


「ほらほら」


「いらないって、言ってるだろ!」


「ほらほらほらほら」


 ばっと逃げ出す二人。鍛えているのですばしっこい。

 それをアネルマは軽々と捕まえて抱きしめた。


「逃げなくてもいいでしょ」


「俺たちはそんな歳じゃないし!」


「えー、小さい頃は飛び込んできてくれてたのに」


「小さい頃だろ! もう大きくなったんだ!」


「そっかそっか。ところで明日から帝都にいってくるから。しばらくいなくなるけど仲良くしててね」


「えっ?」


「お姉さまが帝都に?」


「どうして?」


 疑問符を浮かべる三人にアネルマがザックリと説明する。


「ってことで皇子様の婚約者候補になったから急いで行かなくちゃいけないの」


「行っても無駄なんだから行かなくていいだろ」


「あれ? 私が行ったら寂しい?」


「違う! 婚約者になれるわけないから無駄だって言ってんの!」


「私はお姉さまが選ばれると思うので反対です! お姉さまにはずっといて欲しいです!」


「ありがとうスヴィ。でも行くのは仕方ないから。帝都で少し観光したら帰るから大丈夫よ」


 リーハス公国はアハマヴァーラ帝国で最強とも言える戦力を持っている。

 というよりも公爵家の者が強い。

 ただ、リーハス公国全土を公爵家だけで守ることはできず、圧倒的に数が多い帝国に攻められると壊滅することは目に見えている。

 ただ行くだけで済むならその方がいい。


「お姉さま……」


「それにね、その皇子って、歴代最強らしいのよね」


「お姉さま? まさか……」


「皇子様と戦う気じゃ……?」


「そこまでしないって。でも一目見れば強さがだいたいわかるでしょ?」


「それで強かったらどうするつもり?」


「それはまぁ……ね?」


「絶対手が出るやつだ!」


「お姉さまは行っちゃダメです!」


「冗談よ! それじゃあ騎士の皆にも挨拶してくるから! じゃあね!」


 アネルマはピューと走り去るのであった。

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