第2話 公爵家1
「アネルマ。アハマヴァーラ帝国皇子の婚約者候補に選ばれた。すまないが急ぎ帝都に行ってきてくれ」
戦いの翌朝、公女アネルマは町を出発し、意気揚々と公爵家の城に帰り、言われたのがこの言葉だった。
帝国から皇子の嫁探しをするので令嬢を送れという勅令が来たからだ。
「え?」
目をパチクリさせて固まるアネルマ。
そんな彼女を見て父親が心配そうに言う。
「どうした? 嫌だといってもこればかりはどうしようもないぞ」
「お父様。私を皇子の婚約者候補として送り出すなど気は確かですか? 筋トレのし過ぎで脳まで筋肉になりましたか?」
「ほう? 今、筋肉を愚弄したな?」
「いえ、愚弄したのはお父様を、です」
「なるほど。やはりアネルマとは肉体言語でしかわかり合えないようだな」
「やめなさい!」
母親がフライパンを全力でぶんまわし、スッと立ち上がった父親の頭にクリーンヒットさせる。
「ふはははは! 効かん! 後頭部でさえも鍛え上げ、フライパンすら弾きかブベッ!」
母親はフライパンを顔面に直撃させて黙らせる。
強烈な一撃だがこれくらいしないと効かないのだ。
「あなたを指名してきたのよ。というより、帝国に属する国々で婚約していない全ての令嬢に対してね」
アネルマ20歳。
貴族としてこの歳で婚約していないのは珍しい。貴族でも平民でも20歳といえば結婚して子供がいるレベルだ。
アネルマは公女として当然、婚約者がいた。
四年前、婚約者だった隣国のマンテュニエミ王国の第一王子は逃亡してしまい、婚約をなかったことにしてほしいと国王直々に謝罪に来ている。
アネルマは逃亡するほど酷いのかとさすがにショックを受けて、さらに剣の道に進むことになった。
実際のところアネルマによって王国軍が乗っ取られることを恐れた国王が婚約破棄させたのだが、どうあれ婚約がなくなったことに変わりはない。
「そうだぞ。ただ呼ばれただけだ。帝都を観光して帰ってこい」
「そうよ。別に婚約者を目指さなくていいからね」
両親の暖かい言葉にアネルマは、ふぅと息をつく。
「まっ仕方ないですね」
「それに、帝国皇子はかなり強いらしいぞ。歴代最強という話だ」
アネルマの目がキランッと光った。
「それはお父様よりも?」
「俺は剣で負けることはないが、魔法を使われると厄介だな。皇子は魔法も得意らしい」
「それはお母様よりも?」
「私は魔法なら負けることはないわ。剣は使えないけど」
二人とも負けず嫌いである。
けれど、皇子が強いことはわかった。
「楽しみになってきました。いつ出発ですか?」
「すぐにでも出発しないと間に合わんが、準備もあるからな。まぁ明日の朝でいいだろう。いけるか?」
ここは東端の国。知らせが届くのも遅ければ、帝都に行くのも時間がかかる。
「はい。すぐに準備します。武器庫の鍵を開けてください」
「アネルマ。あなた何をしに行くつもり?」
じとっとした目を向ける母親にアネルマは満面の笑みで答えた。
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