第10話 魔人族の子2
「私の名前はヴァルデマル・トゥルンクヴィスト。もしよかったら、護衛をしてもらえないだろうか」
魔人族の青年ヴァルデマルの言葉にアネルマはキョトンとする。
「私が、護衛?」
「今は大したものを持っていないが、目的地についたら必ず礼をする」
「目的地って?」
「魔人族の町だ」
「ふーん。礼ってなんでもいいの?」
アネルマの目がキラリと光った。
「なんでもいい。私にできることであれば叶えよう」
「ここからの距離はどれくらい?」
「あと二日ほどかかるはずだ」
「それならいいわ。護衛をしましょう。でも、できる限り急いでもらえる? 私も用事があるのよ」
アネルマは山を突っ切って走ったお陰で二日程なら余裕があったのだ。
「わかった。さっそく進もう」
すぐに出発となり馬車の馬が急ぎ足で進む。
走ると馬の体力がもたず、馬車も壊れやすいので、限界の速度だ。
アネルマは御者の隣で急ぎ足である。
「乗らないのか?」
御者の言葉にアネルマは「もちろん」とうなずく。
「だって歩いた方が鍛えられるでしょ? それであなたの名前は?」
御者に聞くと「トシュテン」と一言答える。
「あなた、魔人族にしては鍛えているみたいね。護衛なの?」
「そうだ」
「護衛が一人って珍しいわね」
トシュテンはアネルマをちらりと見るだけで黙った。
「トシュテン、そんなに警戒するな。こちらから護衛に頼んだんだ」
「ヴァルデマルはどうして私に護衛に頼んだの?」
「魔人族に対して偏見をもっていないこと、当然のように手助けしたこと、あとは直感だな。護衛してもらうべきだと思った」
「そうなのね。まっ引き受けたからには必ず果たすわ」
「それで、報酬は何がほしいんだ?」
「髪飾りと筋肉協会の設立よ」
「髪飾りと……筋肉協会?」
「魔人族には縁がないでしょうけど人族では有名なのよ」
ヴァルデマルは人族の町で生活したこともあったが、一度も聞いたことがなかった。
「筋肉協会とはなんだ?」
「正しい筋トレの普及と筋肉披露会の運営が主な内容よ。健康増進にも役立つわ」
「……それを設立することが、報酬、なのか?」
「えぇそうよ。できないの?」
「いや、できるが、魔人族の町で広められるかどうかは難しいな」
「魔人族は筋肉が付きにくい体質だと聞いているわ。でもね、筋肉がないなんて人はいないの。誰にでも少しは筋肉がある。それをできる限り育てることは大切よ。一度やってみなさいよ。世界が変わるわ」
「わかった。筋肉協会の普及に挑戦してみよう」
その時、ドドドドドッと地響きが起こった。
「どうした!?」
「オーガの群れです!」
十体以上のオーガが斜面を下ってくるのが見えた。
山の上からの強襲である。
「エクスプロージョン!」
爆裂魔法に巻き込まれたオーガ五体が吹き飛ばされる。
「やっぱり魔法はすごいわね! 私も負けてられないわ」
アネルマは残ったオーガに走り、一刀両断にしていく。
全てのオーガが倒されるまでわずか十秒。
「よし、こんなものね。先を急ぎましょう」
アネルマは何事もなかったかのようにそう言うのであった。
最強公女は冷酷皇子をぶっ飛ばしたい 出井啓 @riverbookG
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