卒業の餞 ——大切な彼女へ——

ヒゲ虎

 3月16日。

 俺は、この中学校を卒業する。

 特別、卒業自体に大した意味は見出してはいない。

 ただ、俺らの旅立ちを祝す場。

 それだけ。


みなみ優樹ゆうき

「はい」


 俺は呼ばれて席を立った。

 練習通り、ただビシッと立ち上がった。

 一連の流れを、作業するように行った。


 歌も歌った。

 感極まって泣いてしまった人もいた。

 俺はというと、淡々と覚えた歌を歌うだけだった。


 ———


 卒業式が終わった。

 体感時間はとても速く、短く感じた。

 仕方ない事だと思う。


 周りには色んな人がいた。

 泣きながら抱き合う女子達。

 笑いながらはしゃぐ男子達。

 それを温かい目で見る親達。

 

「今日もずっと無表情だったね、南」


 それと、相も変わらず、ずっと俺に喋りかけてくる女子、荒木藍あらきあい

 

「卒業式ぐらい、泣いてみたら?」

「泣けないよ。泣ける理由がないんだから」


 そう、泣けない。

 いつしかの、そう、昔の事故以来から。

 俺は、表情を失った。


 ———


 いつしかの交通事故で、俺含めた家族全員が病院に運ばれた事があった。

 妹、兄、父、母。

 その交通事故で、皆死んだ。

 俺だけが無駄に生き残った。

 その日から、表情を失った。

 感情はきっと、多分、おそらくある。

 でも、その日から何故か、誰かの為に涙ぐんだり、面白いことがあっても笑えなくなった。

 家はというと、祖父母の家に引き取られた。

 でも、なんかもう、どうでもよくなった。

 

 それから幾日経ったある日。


 『なんでお前、泣いてねえんだよ......?』


 クラスメイトが自殺した。

 クラスの中心になるような、明るくて優しくて、面白くて、良い人だった。

 その訃報を先生から知らされた朝礼時、皆が唖然として、しばらくして泣き始めた。

 当たり前だ。

 みんな、仲が良かったんだ。

 みんな、関わりがあったんだ。

 それほど、慕われていたんだ。


 でも、俺は泣かなかった。

 泣けなかった。


 その日からイジメは始まった。

 泣かない、笑わない俺は、幾度となくイジメられた。


 水を浴びせられ、

 物を隠され、

 殴られ、

 蹴られ、

 ハブられ、

 貶され。


 でも、それでも泣けなかった。


 そんな日々が続いていたある日。


「一緒に帰らない?」


 校門前で待っている女の子がいた。

 荒木藍だった。


「いいよ」


 クラスメイトの中でも、イジメに加担していない少数派の人だった。

 でも、信用してない。

 どうせ、また何かされると思った。

 でも、断る気力もなかった。


 しかし、想定していた事は起こらなかった。

 何も起きず、荒木の駄弁りを聞きながら帰った。


 ———


「卒業式も、一人ぼっちだね」

「いつも通りだよ」


 羨ましい、なんて思いはなかった。

 目の前で泣き笑う人達は、全員、人をイジメるようなロクデナシばかりなのだから。

 奴らは、クラスメイトの死から、何も学ばないのだから。


「ねえ、辛くない?」

「辛いよ」


 答えた。

 感情は多分まだある。

 だから、一応答えた。


「寂しくない?」

「寂しいよ」


 答えた。

 誰からも愛されてないのは理解していた。

 だから、一応答えた。


「そういえば、私達、同じ高校だね」

「そうだな」

「楽しみだね」

「そうだな」

「私がいるし、寂しくないね」

「......そうだな」


 答えた。

 喋りかけてくれる善意に気づいてた。

 だから、一応、答えた。


 ———


 高校生活はすぐに始まった。


「よろしくね、南」


「よろしく」


 同じクラス、右隣の席に荒木は座っていた。

 いつもの通り、挨拶だけして俺は座った。

 この日から、俺と荒木は、席が隣同士の『友達』になった。


 ———


 8月。

 高校生活の出だしは順調だった。

 イジメはなくなった。

 成績も問題はなかった。

 面倒くさいのは、荒木の遊びに付き合う事、ただそれひとつだった。


 『ピロンッ』


 そんなことを考えいると、スマホの通知音が鳴った。


「ねえ南。夏祭り、一緒に行かない?」

「......いいよ」


 やることもないから、仕方なく了解した。


 ———


「りんご飴、美味しいね」


 ぺろりと一舐めして、ニコリと笑って荒木は言った。

 着物が軽く、笑顔と一緒に揺れている。


「うん、美味しい」


 俺も合わせて一舐めした。

 俺の袴も、夏風に靡いて揺れた。


「ねえ、もうすぐ花火の時間だよ。

 見に行こうよ」

「そうだな、見に行こう」


 俺らはりんご飴片手に、花火が見えやすい場所へと歩いていった。

 人混みの中、騒がしい音の中、淡々と。


「ここら辺でいいんじゃない?」


 辺り一面草に塗れた場所に辿り着いた。

 周りには、家族や友達で集まって、草地に寝たり座ったりで空を見上げている人達でいっぱいだった。


『ヒュ〜......』


 花火が上がる音がした。


『パンッ!......』


 綺麗な火の花は、赤色を散らしながら空を鮮やかに彩った。


「綺麗だね、」


 左手に持ったりんご飴を右手に移して、荒木が俺の右手を掴んだ。

 温かった。

 久々に、人の温もりを感じた気がした。


「すごいね、花火」

「うん、すごい」


 なんだか落ち着かなくて、りんご飴を舐めた。

 さっき舐めた時よりも、なんだか甘く感じた。


 ———


 10月。

 学校に慣れ、勉強も充分。

 出来ないと思っていた友達も出来た。

 廻木純めぐりぎじゅん、それが新たに出来た友達の名前だ。


「なあ南、お前って何が好きなの?」

「何が好き?」

「ほら、ゲームとか、サッカーとか、そーゆうのだよ」


 思えば考える事もなかった。

 考える必要がなかったから。

 昔はサッカー、してたっけ。

 でも、別に今したい事とか、好きなことは特にない。


「特にない」

「えーまじー?じゃあさじゃあさ、今度俺の家来てゲームやんね?ぜってぇハマるからよぉ!」


 ありのまま答えると、遊びの誘いが返ってきた。


「いいよ」


 用事も特にないので、遊ぶことにした。


 ———


 廻木の家には、俺と廻木、そして荒木が集まっていた。


「ほい、菓子」

「えーポテチー?手が汚れちゃわない?」

「嫌なら食わなけりゃいいんだぜ、藍」

「......食う」


 俺は知らなかったが、二人は仲が良いみたいだった。

 互いを下の名前で呼ぶ仲、といえば、分かりやすいだろうか。


 ———


「オラッ!ワンパン!!」

「ちょ、ちょっと!それずるでしょ!?」

「隙あり」

「あっ!?テメェ南!やりやがったな!」


 パーティー格闘ゲーム。

 通称スマ◯ラ。

 初めてやるゲームだったのだが、案外才能があるのかもしれない。

 結構やっているはずの廻木を、あっさりと場外に出してボコボコにしている。

 荒木はというと、そもそも才が足りない。

 ようは、ゲームが超下手だった。



 ———


「んじゃ、またなー!」

「また遊びに来るよ、じゃあねー!」

「またね」

 

 俺らは廻木の家から出た。

 時刻は夜7時。

 秋なので、空はもうすでに暮れていた。


「あー楽しかったー!ね、南」

「うん、楽しかった」


 煌びやかな笑顔で聞いてきた。

 あの花火を見た日とはまた違う笑顔。

 満足そうな、はにかんだ笑顔。

 それを見てると、少し嬉しくなった。


「あれ?もしかして南、ニヤついてる?」

「え?」


 言われて、俺はそっと指を口元にやった。

 口角が上がっていた。

 中学時代、一度も上がることのなかったこの口元が、だ。


「へへへ、なんだ、笑えるじゃん!」

「......うん、」


 無表情だった俺は、この時、久々に笑顔を顔に作った。


 ———


 1月。

 新年が明けた。


「明けましておめでとう」

「あけおめ〜!」

「あけおめ」


 荒木が挨拶すると、廻木が気分良く挨拶を返した。

 それを追いかけるように、俺も挨拶した。


「いやー、一年あっという間だね」

「そうだな。出来ればもっと一年が長くあって欲しいぜ」


 目の前で二人は駄弁る。

 10月頃よりも、なんだか距離が縮まっているように感じる。


「それじゃ、行こっか」

「あ、うん」


 俺らは神社に来ていた。

 初詣というやつだ。

 思えば、初詣なんて何年振りだろうか。

 あの頃は、一緒に行く人なんていなかった。

 一年、あっという間に色々と変わったなと、心から常々思う。


 ———


「おみくじ引こうぜ!」

「私も引こうと思ってた!南は?」

「俺も引くよ」


 俺らはおみくじを買って、一度その場を離れた。


「よし、せーので開けるぞ」

「うん」


「せーのっ!」


 言われた通り、せーのでおみくじを開けた。

 二人の表情が、一気に変わった。

 この荒木の表情を見るに、多分、大吉だ。

 それに対して、廻木は......


「お、俺......大凶......」

「私大吉〜!!」

「おい!それ交換しろよ!」

「嫌だよ!それ見てみなよ、待ち人なしだよ?そんなのいらないよ!」

「待ち人、なし......?そんなバカな......」


 二人が一喜一憂する様が、なんだか微笑ましくてたまらない。


「南、お前はどうだ?」


 そいえば忘れていた。

 俺の結果は......


「中吉、らしい」

「うーん......普通!」


 元気よく親指を立てて荒木が言った。

 ......なんだか少し、心が痛んだ気がする。


 ———


 3月。

 もう卒業の時期が来た。

 卒業と言っても、今の3年のだが。

 椅子に座らされ、ただもてなすだけ。

 俺の役割は、ただ拍手するだけだ。

 中学と違って、歌を歌う事も、何か言葉を贈ったりもないらしい。

 楽で助かる。


「中嶋............三谷.............」


 先生が淡々と名前を呼んでいく。

 懐かしい。

 一年前は、俺も名前呼ばれていた。

 別に、一年前の卒業式に思い出なんてないが。


 ———


「終わったね、卒業式」


 卒業式を終えて、教室に帰ってきた。

 隣に座る荒木が、優しい声色で言ってきた。


「終わったな、」


 ふう、と息を吐いた。

 なんだか、当人でもないのに緊張していたようだ。

 身体に入っていた力が、吐いた息と共に抜けていくのが分かる。


「私たちも、もう2年生になるね」

「そっか、もう2年生か」

「2年生は、もっと笑えるといいね」


 そう言うと、荒木はにこりと笑った。

 俺も、それに応えるように口角を上げた。

 まだ、なんだか笑顔には慣れない。

 でも、笑顔を取り戻しつつある。

 あの10月から、なんとなくそんな気がする。


「笑ってみせるよ」

「......なんだか、南、変わったね」


 ぽつんと、呟くように荒木が吐いた。


「変わった?」

「私が中学で最初に話しかけた時は、口数ももっと少なくて、表情も硬くて、感情も読み取れなかった。

 でも、今ならなんとなく、南のことがわかる気がするよ。変わった南のこと」


 そう言うと、荒木は俺の右手をそっと優しく握った。

 温かい左手の温度が、俺の右手に伝わってくるのを感じる。

 身体が熱くなっていく。

 俺は今、どんな表情をしているんだろうか。


「今、照れてるでしょ?」

「......べつに」


 少なくとも、荒木には照れてると見られるような表情をしているらしい。

 ......仕方ないだろう。


 俺だって、これでも男なのだ。

 異性に手を握られたら、頬ぐらいは染めてしまうかもしれない。

 仕方ない、仕方ないだろう。


「へへ、図星だ」


 荒木はニヤついて、俺の手をギュッと力を込めて握った。

 この顔は、からかおうとしている時の顔だ。

 俺はまんまと、荒木の掌で踊らされている。

 それが分かっていても、なんだか、この手を振りほどこうとは思わなかった。

 心地良かったんだ。


 そう思うと、だんだん、心のうちから変な感情が込み上げてきた。

 8月、花火に見惚れていた荒木の顔。

 10月、満足気にはにかんでみせたあの顔。

 1月、おみくじに一喜一憂していたあの顔。


 今日、今、俺の手をギュッと握って、俺の目をジッと見つめてくる、この顔。

 

 気づいた。


 俺は、荒木が好きなんだ。


 見てくる目を見返して、でも気恥ずかしくて、思わず目を逸らしてしまうのは、荒木が好きだからなんだ。


 気づいたてしまった。


「南、そんな表情かお出来たんだ」

「へ?......」

「今の南、中学の奴らが見たら驚くだろーなー。ほんとに、変わったね、南」


 優しい目。

 今までのどの顔よりも、優しい目を向けられた。

 そういえば、俺は、あまり顔を見てこなかった。

 もしかしたら、今まで色んな顔をしてきたんじゃないのか。

 そう思うと、悔しいような気がしてくる。


「ねえ......優樹」

「っ!!......なに......?」


 ビクッとした。

 初めて、下の名前で呼ばれた。

 ダメだ。

 好きだと思ってから、気づいてから、

 上手く、顔を見れない。

 顔を......


「私、優樹が好きだよ」






「えっ......?」


 藍の顔を見た。

 でも、なんだか、なんだろうか。

 なんという、気持ちなんだろうか。


「えっ、あっ、......あぁ......」


 嬉......しい......。


「えっ!?ちょ、ちょちょちょっと!!」


 慌ててる荒木が見える。

 いや、見えない?

 なんだか、濁って、上手く。

 ああ、なんだか見たことある。

 この目の景色。


「お、おい!どうしたんだよ優樹!!」

「と、とりあえず保健室にでも連れて行け!」


 周りが心配する声が聞こえる。


 あー、



 俺、泣いてるんだ......。






 ———






「目、覚めた?」


 起きると、目の前にあったのは、俺の好きな人の顔だった。

 心配そうに見つめる顔だ。

 周りを見て、どこにいるのか分かった。

 保健室のベッドで、俺は寝ていのだ。

 隣に座って、心配そうに俺を見つめている荒木の顔が見える。


「ご、ごめん。俺、」

「ううん、こっちこそごめん。私こそ無粋だったよ。その、その......好きだなんて......」


 胸元をギュッと握りしめるのが見える。

 俯いて、目を背けるのが見える。

 足が震えている。

 ああ、そうか。

 苦しいんだ。


「藍......」

「えっ?......」


 そっか。

 今まで、いつもいつも、与えてもらってばっかりだったんだ。

 俺が全部無くしたあの日から、全部から嫌われたあの日から、本当は、死ぬほど苦しかったあの日から。


 じゃあ、次は、ささやかだけど、俺が贈るばんじゃないか。


「俺も、藍が好きだ......ずっと好きだった!校門で待ってくれた、あの日から!ずっと!」

「......」


「藍は俺に、無くしていたものをくれた!

 温かい友達になってくれて、無愛想な俺の隣にいてくれて!

 死んだ心を癒してくれて!

 あの日消えた表情を、取り戻してくれて!

 俺はずっとずっと、藍にもらってばっかりで、でもそれが、嬉しかったんだ......

 藍のおかげで今、今言えるよ。


 藍が大好きだ!!」


 叫んだ。

 俺の与えられる最大限の言葉と、心と、想いを全部贈った。

 でも、伝えきれないんだろうな。

 でも、伝えたい。


 好きだったんだ。

 あの日からずっと、ずっと。

 校門で初めて出会って、誘われた時に断らなかったのは、きっと、心の奥底で藍のことを好いていたんだ。


「......えへ、えへへ......」


 藍は、笑っていた。

 笑いながら、泣いていた。

 指先で何度も何度も、目元の涙を拭っていた。


「もう......泣かせないでよ.......へへへ......」


 綺麗だった。

 美しかった。

 やっぱり、好きだ。

 この好きも、藍がいなかったら気づかなかった。


 そう思うと、胸が震えるようだった。


「今までずっと、ありがとう、藍......」


 俺はそう言って、寝ていた体を起こした。

 そして、そっと、藍を抱き寄せた。


 ぎゅっと、ただ。


「へへ、これからも、でしょ?」


 藍は、俺の背中に手を回して、ぎゅっと抱いた。









 ———






 2年後。

 3月16日。

 懐かしい日がやってきた。


「もう卒業式だね」

「そうだな」

「寂しくなるね」

「そうだな」

「でも、私がいるし寂しくないね」

「......そうだな」


 俺は嬉しくて少し笑った。

 そうだ、もう、昔とは違う。


 卒業であって、

 旅立ちの日であって、

 決して別れの日ではないのだ。


「準備、しよっか」

「ああ、」


 失わない。

 そんなことは安易には言えない。

 でも、贈られた分は返す。

 一生を使ってでも、だ。

 だから、それを踏まえて言う。

 絶対に、失わない。


 ———


「——卒業生、入場」


 声が聞こえてきた。

 それと同時に、拍手の音が響く。

 ああ、卒業するのか、俺。


「おい南。去年みたいに感極まって泣くなよ?」


「ったく、泣かねーよ」


「へへ、そうだといーな」


 笑う純を見て思う。

 中学の卒業式、ニコニコ笑ってた男達。

 あいつらもこんな気持ちだったのか。


「ほら、行くぞ、優樹」

「......おう」


 言葉で背中を押されて、俺は体育館へと入った。


 ———


 何事もなく、卒業式は終わった。

 約束通り、泣かずに役目を全うして終えた。

 校門前には、色んな人達がいる。


 泣きながら抱き合う女子達。

 笑いながらはしゃぐ男子達。

 それを温かい目で見る親達。


 そして


「もう卒業だね、優樹」


 俺の大事な、大切な彼女。


「卒業式ぐらい、泣いてみたら?」

「泣かないよ、泣く理由なんてない」


 そう、泣く理由なんてない。

 俺らは、離れ離れになっても、別れるわけじゃないのだから。


「ねえ、辛くない?」

「辛くないよ」


 辛くない。

 俺には、友達がいる。


「ねえ、寂しくない?」

「寂しくないよ」


 寂しくない。

 俺には、大切な人がいる。


「私たち、離れ離れだね」

「そうだな」

「私はちょっと寂しいかも」

「......そっか」

「ワガママ、言っていい?」

「いいよ」






「私、優樹と結婚したい」






 ギュッと、俺の右手を握ってきた。

 俺も、ギュッと左手で握り返す。


「......そうだな。結婚しよう」

「えへへ、それじゃあ、どうしよっか?」

「......そうだなぁ」


 俺は、本当に色んなものを貰った。

 友達を、心を、表情を、


 そして、家族までも。


「とりあえず、キスしよう」

「へっ?んむっ!?」


 傲慢で、強引かもしれない。

 俺が与えれるものなんて僅かかもしれない。

 でも、与えれるのなら、全部。

 贈れるのなら、全部。






 俺は、藍の唇に優しくそっとキスをした。



















 卒業。

 それは、旅立ちの日。

 別れの日。


 卒業。

 それは、門出の日。

 出会いの日。


 きっと、全ての人に、色んな卒業がある。

 きっと、全ての人に、色んな旅立ちがある。

 きっと、全ての人に、色んな別れがある。

 きっと、全ての人に、色んな出会いがある。


 俺が卒業で受け取ったのは、卒業証書一つじゃない。





 俺が貰った全ての餞を、

 いつか、君へ——




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卒業の餞 ——大切な彼女へ—— ヒゲ虎 @toratora_nari

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