暴露大会

「お、おいおいゴレミ、何言ってんだよ。ジルさんが魔物って、冗談にしちゃたちが悪い……」


 あまりにもあり得ないその発言に、俺は引きつった笑みを浮かべながら言う。だが当のジルさんは恐ろしいほど真剣な形相でゴレミを見つめ……いや、睨みながらその口を開く。


「……いつから気づいていた?」


「いつからと言うなら、最初からなのデス。ゴレミは本来そっち側・・・なので、魔物は見ればわかるのデス。


 ただ、あまりにも魔物としてあり得ないことばかりだったので、なかなか確信が持てなかったのデス。でもこれではっきりしたデス! スッキリさっぱりデス!」


「それだけか? ただ自分が納得するためだけに、この私を貴様等の……幼子や人間共の敵に回したかったのか?」


「うっ!?」


 まるで物理的に風が吹いたかのように、ジルさんの体から強烈な殺気が放たれる。別に一流でも何でもない俺ですら感じられる気迫に、俺は勿論ローズやカイ達もひるむなか……しかしゴレミだけは平然と笑顔で首を横に振る。


「そんなわけないのデス。ゴレミの目的は、ここでみんなの秘密を大暴露しちゃうことなのデス! スッキリするならみんな一緒なのデス!」


「…………?」


「いいデスか? ゴレミの……ワタシの経験上、その手の秘密は時間が経てば経つほど言いづらくなったり、変なところでこじれて誤解を生んだりするのデス。だからこそ今! 別に教える必要もないし、切羽詰まったりもしていないこの状況で話すのが一番いいタイミングだと踏んだのデス!


 ということでカイ、ピート、シルヴィ! まずはみんなが聞きたがっていたゴレミの秘密を大公開しちゃうのデス!」


 怪訝そうな顔で首を傾げるジルに無造作に背を向け、ゴレミがカイ達に笑顔でそう告げる。とはいえ告げられたカイ達の方は戸惑ったままだ。


「お、おぅ。でも、いいのか? 秘密なんだろ?」


「そうよ。無理しなくても、私達言いたくないことまで聞いたりしないわよ?」


「いいのデス。というか今を逃すと、きっと脱出後は色んな事を色んな人に聞かれてわちゃわちゃし始めて、結局話すタイミングがなくなってしまうと思うデス。


 勿論、それで誰かが困ったり、何かが失われたりするわけではないデス。でもシルヴィ達のなかには、きっとゴレミの秘密が気になったままの状態で残ってしまうデス。その上で万が一他の誰かからゴレミの秘密を又聞きしたりしたら、きっと寂しい気持ちになると思うのデス。


 それはよくないのデス。だからここで教えちゃうのデス! それにぶっちゃけ、ゴレミの秘密の本質は一言で言い表せちゃうのデス!」


「えっ、そうなの?」


 ピートに問いかけられ、俺はゴレミの顔を見る。するとゴレミは笑顔のまま頷いて返し……はは、なら俺がもったいぶることもないだろう。


「まあな。ゴレミは俺がダンジョンで見つけたゴーレムで、実は誰かが操ってるわけじゃなく、人格のあるゴーレムなんだよ」


「ジャジャーン! 実はそうだったのデス! ゴレミは中の人などいない、ゴレミオリジナルだったのデス! 甘くてクリーミィな味わいは特別な存在なのデス!」


「じ、人格のあるゴーレム!? え、嘘だろ!? ものすげーお宝じゃんか!」


「す、凄い! 一体どうなってるの!? うわー、調べてみたい……」


「ふふふ、ゴレミを売って大儲けしたり、分解して調べたいデス?」


「「あっ……」」


 興奮するカイとピートにゴレミが笑いかけると、ハッとした表情をしたカイ達が途端に意気消沈する。


「わ、悪い。そうだよな、お宝とかそういうことじゃねーよな」


「僕もごめん。そうだよね、そういうのじゃないよね……」


「別にいいのデス。ゴレミがゴーレムであるという事実は絶対に変わらないのデス。でも同時に、ゴレミはゴレミなのデス。だからこれからも仲良くしてくれると嬉しいのデス」


「勿論だよ! なあ?」


「うん! これからもよろしくね、ゴレミちゃん」


「あーよかった。もし反省しないようだったら、その頭をボコボコになるまでひっぱたいてやるところだったわ。私もよろしくね、ゴレミちゃん」


「はいデス!」


 秒で反省したカイ達と、幼馴染みをフルボッコにしなくて済んだとホッと胸を撫で下ろすシルヴィに、ゴレミが最高の笑顔で返事をする。するとその光景を見て、今度はローズが勢いよく声をあげた。


「なら次は妾なのじゃ! 妾は別に秘密にしているわけではないのじゃが、多分知らないと思うから教えておくのじゃ! 実は妾は、オーバード帝国の第二八皇女、ローザリア・スカーレットが本名なのじゃ!」


「「「えっ!?」」」


 元気に手を上げながらのローズの告白に、カイ達の体がビシッと固まる。そこに広がった動揺は、ゴレミが純粋なゴーレムであると告げた時より更に酷い。


「だ、大帝国の皇女様!?」


「ひぇぇ!? ぼ、僕凄く失礼なことを……」


「こっ、かっ、ひゃう……っ」


「あー、いいのじゃいいのじゃ! そういう風になると思うから普段は聞かれぬ限り名乗っておらぬのじゃ。というか、シルヴィ殿? 大丈夫なのじゃ?」


 あたふたするカイとピートはともかく、シルヴィは地上に打ち上げられた魚のように目をグルグル動かし、口をパクパクしている。その尋常ではない様子にローズが声をかけると、割と強めに自分の胸を叩いたシルヴィが、漸くいくらかまともな言葉を口にした。


「んぐっ!? ゲフッ…………こ、こうにょ……こうにょ……皇女でんきゃに……っ」


 ……訂正。あまりまともではなかった。その挙動不審ぶりに、流石のローズも困った顔で優しく声をかける。


「おぉぅ……その、普通に話してくれてよいのじゃ。というか、むしろ普通に話して欲しいのじゃ。仲良くなりたいからこそ名乗ったのじゃし、それで他人行儀にされたら悲しいのじゃ」


「…………い、いいの? ローズちゃんって呼んだら、怖い騎士の人が飛んできて首を刎ねられたりしない?」


「シルヴィ殿のなかで、妾は一体どんな存在なのじゃ!? 大丈夫じゃから普通に話して欲しいのじゃ! 勿論カイ殿とピート殿もそうじゃぞ。本気で立場を問われるような公的な場以外では、今まで通りのローズなのじゃ!」


「よかった……俺絶対口滑らすから、駄目って言われたら今後口きかない予定だったぜ」


「それは流石に極端じゃない? 気持ちはちょっとわかるけど……正直緊張はしちゃうよね」


「ねえ、本当に平気なの? お貴族様の無礼講って、本当に無礼講なわけじゃないんでしょ? そう言われてお貴族様のハゲ頭をひっぱたいたら、そのまま首を刎ねられたお調子者の話とかあるわよ?」


「大丈夫なのじゃ! じゃが確かに無礼講というのは細かい礼儀作法を気にしないというだけなので、対等だという意味ではないのじゃ。シルヴィ殿のそれはよくある笑い話じゃが、そこを勘違いすると大変なことになるというのはあり得るのじゃ。


 でも妾は本当に問題ないからいいのじゃ! 普通に仲良くしてくれないと、むしろ寂しくて泣いてしまうのじゃ!」


「ふふ、わかったわ。じゃ、改めてよろしくね、ローズちゃん」


「となると、次は…………」


 どうやらゴレミに引き続き、ローズの話も綺麗にまとまったらしい。そこでカイ達の視線が俺に向かってくるが……え、俺?


「いや、俺は何もねーよ? その辺の田舎町で生まれた普通の平民で、普通の人間だから」


「またまたー。何かあるんだろ? 実はどっかの国の王様の隠し子とか?」


「もしかしたら人間に見えるだけで、体の中に歯車が入ってるとか?」


「クルトだけ何もないなんて不自然よね」


「そんな無茶ぶりされてもなぁ……」


 ニヤニヤと笑うカイ達に、俺は猛烈にしょっぱい表情をとる。俺の父親は<木こり>のスキルを持っており、「もしこれが<斧術>だったら、俺も探索者になったんだがなぁ。魔物は木と違って動き回るのが駄目だぜ!」と豪快に笑う髭親父であり、母親は<細工>のスキルを持っていて、父の切った木の一部を加工した木工細工を村に来る行商人に売って、ちょっとした収入を得ていた。


 その伝手があったので俺が自分の村からエーレンティアに行く時は割と楽ができたのだが……まあとにかく、どちらもバリバリの村人であり、間違いなく俺の親だ。王家の血筋とか引いてねーし、森で拾った赤子だったり、謎の人型ゴーレムだったりもしない。両親と顔そっくりだって言われるしな。


「とにかく、俺は何もねーよ! ほら、次だ次!」


「どうするデス? カイ達の話を聞いてもいいデスけど……?」


 俺が投げやりにそう言うと、ゴレミがそっとジルさんの方をみる。すると今までずっと黙って話を聞いていたジルさんが、観念したようにため息を吐いた。


「ふぅぅ……まさか幼子やゴーレムに気を遣われる日が来るとはな。いいだろう、知られて困ることでもなし……私の話を聞かせてやろう」


 俺達全員が注目するなか、そう言ってジルさんがゆっくりと自分の事を話し始めた。

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