討伐報酬

「イエーイ! 完勝! イエーイ!」


「イエーイなのデス!」


「イエーイなのじゃ!」


 冴え渡る連携で見事ボススパイダーを撃破した俺達は、テンション高めに互いの手のひらを打ち付け合う。だが俺がそのままのノリでカイ達の方にも手を伸ばすと、何故かカイ達は全員が微妙な表情を浮かべていた。


「イエーイ! って、何だよカイ、ノリ悪いな」


「えっ、あ、すまん。いえーい……って、そういうことじゃなくてさ」


 力なくペちんと手のひらを打ち合わせつつ、カイが神妙な顔で問うてくる。


「なあクルト。クルト達ってひょっとして、スゲー強いのか?」


「は? 何だよ突然。ここまで散々一緒に戦ってきたんだから、俺達の実力くらいわかってるだろ?」


「そりゃそうなんだけど……なあ?」


 振り返って言うカイに、ピートが激しく頷く。


「そ、そうだよ! あんな大爆発が起こせるなら、この辺にいる魔物なんて全部一発で倒せるじゃないか!」


「そりゃまあ、当たれば倒せるだろうけど……でもそんなに使い勝手のいい技じゃねーぜ?」


 身を乗り出して主張するピートに、俺は苦笑しながら説明する。


「まず威力の調整ができねーから、こういう開けた場所、かつ周囲に誰もいない状況以外ではそもそも使えない。加えて普通の魔法と違って俺が直接ぶん投げてるから、あれ以上速くも、遠くにも飛ばない。


 魔力の消費もでかいから乱発できねーし、何より動く相手には当たらねーからな。もし俺達が戦ってたのがグレイウルフのボスだったりしたら、普通に爆発の範囲外まで逃げられてたと思うぜ」


「それは…………」


「はっはっは、見た目が派手じゃから凄く見えたのじゃろうが、自分達があれを使えたらと考えれば、どの程度の技かすぐにわかるのじゃ」


 口ごもるピートに、ローズもまた軽く苦笑しながら言う。すると真剣に考えこんでいたシルヴィがぽつりとその口を開く。


「そう、ね。現実的に考えるなら、こっちの存在が気づかれてない状況での奇襲に使えるくらい?」


「魔物の群れを一発で仕留められるなら、やっぱりスゲーんじゃねーのか?」


 カイの問いかけに、シルヴィが首を横に振る。


「駄目よ。そもそも奇襲ならあんなスキル使わなくても、普通に倒せるでしょ? あの爆発から想像できる魔力の消費量と結果が、どう考えても釣り合わないわ。


 それこそ何十体と敵がいる魔物の巣に放り込んで爆発する……なら凄く便利だと思うけど、ダンジョンの中だとそんな状況あり得ないし」


「そうなのか? うーん、スゲーと思うんだがなぁ」


「カイ君、それ自分もドカーンってやってみたいだけだよね?」


「うげっ、何故バレた!?」


 ピートにジト目を向けられ、カイが焦った顔になる。そんな風にカイ達がじゃれ合ってるのを見ていると、ゴレミがガチンと手を打ち合わせて注目を集める。


「ハイハイ、遊ぶのはそのくらいにして、戦利品の確認に行くデス!」


「おっと、そうだったな。んじゃ行くか」


 その言葉に、俺達は広場の中央に向かって歩き出す。流石はダンジョンと言うべきか、あれだけ渦巻いていた熱気はあっという間に消え去っており、焦げた草の地面の上を歩いていけば、ボススパイダーの消えた辺りに五センチくらいの大きさの魔石が転がっていた。


「あー、まあこんなもんだよな」


「まあまあの儲けなのじゃ」


「俺達が普通に戦ったんなら絶対見合わねー大きさだけど、クルト達の攻略法だとスゲーお得な感じがするぜ」


「わかってたことだけど、相性って重要なのね」


 ひょいと拾った魔石に、それぞれが思い思いの感想を口にする。とはいえこれはおまけみたいなもんであり、本命は……うん?


「うおっ!? いつの間に!?」


 一体どこから現れたのか、俺の足下で小さな……そうは言っても手のひらくらいの大きさはあるが……蜘蛛が、ちょいちょいとその足で俺の足をつついている。ビックリして思わず足を振り上げてしまうと、その蜘蛛もまた驚いてコロンと後ろに転げてしまった。


「あー! マスター、こんなちっちゃい子を虐めては駄目なのデス!」


「お、おぅ。悪い……? 今回メダルをくれるのはお前か?」


 その場に腰を落として問う俺に、蜘蛛が前足二本をシュバッと広げてポーズをとる。うむ、どうやらそういうことらしい。


「……何かちょっと可愛いわね」


「うむ、そこはかとなく可愛らしいのじゃ」


「ウギャー!? ラブリーなマスコット枠デス! 契約すると魔法少女にされてしまうデス! ゴレミとキャラが被ってるデス!」


「契約するだけで魔法スキルがもらえるなら、スゲー有能なんじゃねーか? まあそれはいいとして……じゃ、メダルをくれるか?」


 俺が地面すれすれにそっと手を伸ばすと、蜘蛛は上げていた前足を戻し、お腹の下から銀色に輝くメダルを取りだして俺の手のひらにのせてくれた。そして次の瞬間、足下から小さな振動が響いてくる。


「うおっ、何だ!?」


「揺れてるのじゃ!?」


「まさかまたダンジョンに何かあんのか!?」


「ちょっとピート、何とかしなさいよ!」


「無茶言わないでよシルちゃん!」


 俺達が戸惑っていると、丁度蜘蛛のいた下から何かがせり上がってくる。そうして土埃と振動が収まると、そこには俺の腰くらいの高さまで伸びた、妙に赤い石の柱が聳え立っていた。


「おぉぉ……? え、ひょっとしてこれが『石碑』なのか?」


 まじまじと見つめる俺の前で、蜘蛛がシュバシュバと前足を動かす。多分「そうだ」とか「ボス討伐ボーナスだ」とか、何かそんな感じのことを伝えたいのだろう。そうしてひとしきりキレのあるポーズを決めると、どこからともなく飛来した一枚の木の葉に尻から出した糸を貼り付け、蜘蛛が風に吹かれて飛び去っていく。


「何とも芸達者な蜘蛛なのじゃ」


「何で自分の体より小さい葉っぱで空が飛べるんだ? まあいいけど」


 細かいことを気にしない精神は、ゴレミのおかげで嫌というほど養われている。俺はフワフワと飛んでいく蜘蛛を見送ると、改めて出現した石碑に目を向ける。


「これが石碑か……もっと普通の石っぽいやつかと思ってたんだが、ゴリゴリに人工物って感じだな?」


「石碑というより石柱なのじゃ」


「マスター、石碑の上に穴が四つ開いてるデス」


「えっ、穴が四つ!?」


 何気ないゴレミの発言に、今回もピートが素早く近寄ってくる。そうして円筒形の石柱、その上部に開いた四つを穴を見ると、激しく興奮したような声を発した。


「本当だ、穴が四つある!」


「何だよピート。穴が四つあるから何なんだ?」


「いいかいクルト君、この辺で見つかる石碑に開いている穴は、普通は二つ、多くても三つなんだ。なのにこれには四つの穴が開いてる……つまりこの石碑は、本来ならもっとダンジョンの奥に出現するようなものなんだよ! ……多分」


「へー。てことはあれか? これを使えばよりレアな魔導具……『戻り笛』だっけ? それが出やすいってことか?」


「うーん、それはどうかな? 奥の石碑であっても、嵌めるメダルが同じなら出てくるものは同じ? それとも奥にあるってだけで、出現率に底上げがあったりするのかな?


 単純にはめ込めるメダルの量が多いから、そういう意味ではいいものが出やすくなってるっていうのは間違いないけど」


「そっか。ならまあ、軽く期待しておきますかね」


 俺の現在の手持ちは、猿共の融合メダルとフォレストスネークのボスメダル、それに今さっき手に入れたばかりのビッグスパイダーのボスメダルだ。


 だがせっかく確保した安全地帯の権利を放棄することになるので、ビッグスパイダーのボスメダルは使えない。となれば実際にはめ込めるのは二枚なので、穴の数が多いことには正直意味がない。最低保証の底上げというのは嬉しいが、それはただの想像というか、都合のいい予想でしかねーしな。


「んじゃ、クルト。頼むぜ? お前の力でダンジョンから出られる超絶レアな魔導具を引き当ててくれ!」


「おま、そういうプレッシャーはやめろよ! ったく……」


 手持ちのメダルの総価値が高い俺達の方が石碑を使うというのは、事前に取り決めてあった。故に俺はニヤニヤ笑いながら応援してくれるカイを尻目に、徐に懐からメダルを取りだして……


「…………なあ、カイ。カイもメダル嵌めてみねーか?」


「は?」


 そんな俺の提案に、カイのニヤけ面がマヌケ面へと変わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る