デリカシーなし男
「さてっと、それじゃ早速聞きたいんだが……何であんなことになってたんだ?」
一応互いの自己紹介を終えたということで、俺は早速カイにそう問う。歳も実力も同じくらいのパーティということであれば、その失敗談には下手な成功体験よりよほど価値があるからだ。
だがそんな俺の問いに、カイは何ともばつが悪そうな顔で頭を掻く。
「あー、それな。正直そんな大した理由じゃないぜ? クルトお前、メダルイーターって知ってるか?」
「ん? ああ、ボスのメダルを食べるっていう、ちっちゃいトカゲの魔物だろ? 見たことはねーけど、話だけは聞いてる」
「なら早いな。実はそいつに俺が持ってたメダルを食われちまってさ。みんなで慌てて追いかけて取り返そうとしたんだけど……」
「その途中で、僕がよろけてうっかりビッグスパイダーの巣に突っ込んじゃったんです」
「おかげでメダルイーターには逃げられちゃったし、ピートはやられかけちゃうしで散々よ! まったくもー!」
「うぅぅ、面目ない……」
「ははは、そいつは災難だったな」
しょげるピートと頬を膨らませてそっぽを向くシル……シルヴィでいいのか? の態度に、俺も合わせて苦笑をしておく。ビッグスパイダーが俺の知らない奇襲手段を持っているとかじゃなかったのは幸いなんだろうが、流石にこれは今後の参考にはならなそうだ。
「じゃあボスメダルは取られちゃったデス?」
「そうなのよ! まああと一〇日くらいで消えちゃうパンキーモンキーのメダルだったから、大した被害じゃないけど……でも明日から、あのトサカ猿が普通に出てくるのよね? あー面倒くさい!」
「ごめんねシルちゃん。僕のせいで……」
「いいわよもう! 取り返しのつかない失敗ってわけじゃないし、ピートもいつまでもウジウジしてないでシャキッとしなさい!」
「そうだぜピート。元はと言えば俺がメダルを食われちまったからだし、それに全員無事だったなら安いもんだ」
「何で自分で言うのよ!? まあいいけど。確かに誰も怪我してないなら上々よね」
「二人共……ごめんね、ありがとう」
「ふふ……仲の良さそうなパーティじゃな」
そんなやりとりをするカイ達に、ローズがそう言って小さく笑う。実際誰かの失敗を責めるのではなく、みんなで肩を叩き合う姿は見ていてとても安心できる。人の振り見て我が振り直せと言うが、俺達もこうありたいものだ。
「仲良し具合なら、ゴレミ達だって負けてないのデス! 特にゴレミとマスターのラブラブ具合は、年一で部屋にちっちゃいベッドが増えていくペースなのデス!」
「お前は俺を石工職人にでもしたいのか……?」
「一〇年くらい経ったら、ちょっとした軍隊ができそうなのじゃ」
腕を絡ませてアホな事を言うゴレミに、俺とローズで突っ込みを入れる。すると今度はそんな俺達を見て、カイの方が口を開いた。
「なあクルト。俺の方も聞いていいか?」
「ん? 何だ?」
「そのゴーレム……ゴレミ? って、何? めっちゃ普通に動いて喋ってるけど……」
「そうだよ! ゴーレムって普通、そんな風に動かないよね!? なのに何で!?」
若干眉をひそめているカイとは対照的に、ピートが身を乗り出して問うてくる。ここはいつもの誤魔化しをしておく場面だろう。
「ああ、ゴレミの中身は、ダンジョンの外にいるんだよ。病気というか体質というか、そういうので部屋からでられねーんだけど、幸い<人形遣い>のスキルがあったから、こうして遠隔で操作してるんだ」
「へー。<人形遣い>ってそんなことができんのか」
俺の説明に、カイはごく普通に感心して頷く。だがピートの方はそうではないらしい。
「えっ、それはおかしいよ! <人形遣い>は確かに人の形をしたものを動かすスキルで、熟練すれば人間みたいに動かすことも、多少離れたところから操ることだってできるだろうけど……でもゴレミちゃんはもの凄く遠くから操ってるんだよね? これだと操ってるっていうより憑依の方が近くない?」
「へ!? いや、それは――」
「それにゴレミちゃんを操ってる子の実際の体は、今どういう状態なの? 一、二時間くらいならともかく、ダンジョンに潜ってるってことは一日中身動きも取れない状態でいるってこと? 食事とかトイレとかは?」
「お、おぅ!? えっと、あー……」
今まで想像もしていなかった深い突っ込みに、俺は思わず言葉に詰まる。するとゴレミがスッと俺の背後に隠れ、モジモジしながら言葉を発した。
「あの、ゴレミは歴とした女の子なので、そういう話題はちょっと恥ずかしいデス……」
「ピート! バカ! バカピート! 貴方女の子になんてこと聞いてるのよ!」
「ひぇっ!? 痛い、痛いよシルちゃん!」
その態度に、目を吊り上げたシルヴィが手にした杖でピートの頭を割と容赦なく叩く。そうして痛そうな音を響かせつつ、シルヴィがゴレミに申し訳なさそうな顔を向けた。
「ごめんねゴレミちゃん。ピートは興味があることを見つけると、他が何にも見えなくなっちゃうバカだから……」
「そうだぞピート。生死に関わる場面でもないのに、他人のスキルを深く追求するのはマナー違反だぜ」
「私が怒ってるのはそっちじゃないわよ! バカカイ! ほんっとにもう、うちの男共はデリカシーの欠片もないんだから!」
「痛い! 痛いから! わかった、反省するから!」
「えっ、何で俺まで怒られたんだ?」
「とーにーかーくー! その話はもうおしまい! いい?」
「「わ、わかったよ……」」
ギロリと睨むシルヴィに、カイは引きつり笑いで、ピートは涙目でそう告げる。すると漸くシルヴィの手が止まり、ピートは痛そうに頭をさすった。
「うぅぅ、また酷い目に遭った……」
「自業自得よ! 本当にごめんね、ゴレミちゃん……というか、ゴレミちゃんでいいの? 本名……じゃないわよね?」
「あ、はい。この体の時はゴレミでいいのデス。そういう風に切り分けをしておかないと、逆にごっちゃになっちゃうのデス」
「あ、そうなんだ。なら遠慮無くゴレミちゃんって呼ぶわね。私のことはシルって呼んで」
「はいデス!」
どうやら俺がまごまごしている間に、何かいい感じに話が決着したらしい。うむ、何とかなったならよし。しかし次からはもっと詳細な設定も考えておくべき……なのか? そこまでいくともう作家か何かにでもなったような気分になりそうだが、一応検討くらいはしておこう。
「じゃあシル。質問があるデスけど、いいデスか?」
「ええ、いいわよ。何を聞きたいの? この私の美しさの秘密かしら?」
そう言うと、シルヴィは自分の手で髪をかき上げ、何故か耳を見せるような仕草をした。だがゴレミはそれを意識することなく言葉を続ける。
「あー、それも気になるデスけど、今はそれより、さっきシルが言っていた『エルフの末裔』ってやつの方が知りたいデス。あれはどういう意味デス?」
「お、それは俺も聞きたかった」
「妾もなのじゃ!」
ゴレミの質問に、俺とローズも乗っかって問う。するとカイとピートは何故か渋い表情をしてその場から一歩下がり、逆にシルヴィは得意げな笑みを浮かべて胸を張った。
「あら、それが聞きたいの? いいわよ、教えてあげる。私の生まれた村は<
で、そのエルフが村人と恋に落ちて生まれたのが私のひいひいひい……ずっと昔のご先祖様で、私はその血を引いてるってわけ! どう? 凄いでしょ?」
「おー、それは…………」
「凄い……のじゃ?」
フフーンと笑っているシルヴィの話を信じるならば凄いの一言なのだが、その背後でカイとピートが激しく首を横に振っている。なので俺はとりあえず、曖昧な笑顔でそう答えておいた。
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