速攻の救出劇
「聞こえたか?」
「聞こえたのじゃ! 『助けて』と言っておったのじゃ!」
「マスター、どうするデス?」
「それは……」
どうやら今の声は、俺の幻聴じゃないらしい。ならばこそ俺はゴレミに問われて考える。
ここで助けを呼ぶなら、誰かが襲われてるのは間違いなくビッグスパイダーだろう。ゴレミとの相性は最悪だが、逆に俺とローズなら簡単に倒せる。仮に乱戦になったとしても、俺の剣も普通に使う分には数戦したところで問題はない。なら――
「よし、助けに行く! ただし状況を見て駄目そうだったら無理はしない。いいな?」
「了解デス!」
「わかったのじゃ!」
ダンジョン探索は自己責任。襲われてる誰かを見捨てても罪にはならないし、自分が見捨てられても文句は言えない。
だからこそ、助けられる余裕があるなら助ける。その精神性こそが、巡り巡っていつか自分を助ける縁となるのだ。
ということで、俺達は声のした方へ警戒しつつも走り出す。ここで急ぐあまりに俺達まで蜘蛛の巣に引っかかったらマヌケもいいところだが、幸いにしてそんなアホなことにはならず、現場に到着。するとそこでは俺と歳が変わらないであろう三人組のパーティが、ビッグスパイダーを相手に苦戦していた。
「くっそ! おい、ピートを離せよ!」
――状況確認。一人目は赤毛の少年剣士。怪我をしてる様子はなし。ただし仲間を糸に巻かれてかなり焦っている様子。俺から見てすら動きが雑で危なっかしい。
「ちょっとカイ、そんなに動き回らないでよ! 魔法の狙いが定まらないでしょ!」
――二人目は金髪の少女。先端に魔石っぽいもののついた杖を持っているので、おそらくは魔法士。剣士の男がちょろちょろ動いているせいで魔法を撃てないようだ。
「カイ君、シルちゃん、助けてー!」
――三人目は深緑の髪をした少年。首から下を緩く糸で巻かれているので詳細は不明。涙目で仲間の名を呼ぶ辺り、既に自力での脱出は諦めてるのかも知れない。
そしてその少年のすぐ側で、ビッグスパイダーが尻から出た糸を長い手足で器用に操り、緑髪の少年に巻き付けていっている。赤髪の剣士の攻撃をいなしながらなので作業速度は遅いが、あれが口まで届いて塞がれたら、短時間で窒息する可能性あり。
――総合判断。嘘の悲鳴で騙して、やってきたお人好しを襲うという罠の可能性は極めて低い。加えて状況はやや切迫しているものの、今すぐ介入すれば十分に助けられる。であれば……
「探索者パーティ『トライギア』だ! 助けはいるか!」
「っ!? 頼む! 手を貸してくれ!」
「仲間が捕まってるの! お願い、助けて!」
赤髪の少年と金髪の少女が、俺の声に即座に答える。たとえこんな状況であろうと、助けを求められないならこっちから手を出してはいけないというのが探索者同士の暗黙のルールであるが、確認を取れたなら迷う必要はなし!
「ゴレミ、まっすぐ突っ込んで人質に抱きついて、そのまま走り抜けろ! そしたら俺とローズで燃やす! お前達は蜘蛛から離れろ! 一緒に燃えるぞ!」
「えっ、それじゃピートが……」
「馬鹿、早くこっち来なさいよ!」
俺の指示に赤毛の少年が迷うような声をあげたが、金髪の少女がその手を引っ張って移動してくれる。それを確認すると、ゴレミが全速力で緑髪の少年に向けて走り出した。
「ゴレミのハグはマスター専用デスが、今日だけ特別なのデス! ゴレミタックル!」
「うひゃぁぁぁ!?」
糸に巻かれた少年を抱えたゴレミが、そのまままっすぐ走り抜ける。その結果自分も大量の糸に巻かれてゴレミが少年ごと地面に転がったが、その時には既に蜘蛛とゴレミ達の間にはいい感じの距離が開いていた。
「マスター!」
「おう! ローズ!」
「いつでもいいのじゃ!」
「決めるぞ! 食らえ、バーニング歯車スプラッシュ!」
俺の投げた歯車が、炎を纏ってゴレミを追いかけようと体を動かしたビッグスパイダーに命中する。するとその身が激しく燃え上がり、程なくして奴の残した糸と共に、その存在がダンジョンの霧へと変わった。
「うっし、完全勝利!」
「やったのじゃ!」
「大丈夫デスか?」
「ふぇぇ、クラクラする……」
「「ピート!」」
ガッツポーズを決める俺とローズの前を通り抜け、二人の男女が仲間の元へと駆け寄る。すると糸から解放された少年が、目をパチパチさせてから仲間達の声に答えた。
「大丈夫かピート!?」
「怪我してない? 平気?」
「う、うん……大丈夫だよ」
「当然なのデス! ゴレミのレスキュースキルは天下一品なのデス! こってり一筋五〇年なのデス!」
「こってり……? って、え、ゴーレム!?」
「嘘、何でゴーレムがこんな流暢に喋ってるの!?」
「あー、待て待て。お互い色々あるだろうけど、まずは落ち着こうぜ」
ゴレミの存在に驚く二人に、俺はそう声をかける。それから一端場を仕切り直すと、俺達の前に三人が綺麗に横並びになって頭を下げた。
「まずは礼を言わせてくれ! 仲間を助けてくれて、本当にありがとう!」
「ありがとうございます」
「ありがとう! 感謝するわ!」
「はは、いいってことよ」
「そうなのじゃ。困ったときはお互い様なのじゃ」
「さっきの失態を返上できたので、ゴレミ的にはむしろご褒美まであるデス!」
素直に感謝を伝えられたら、こっちも気持ちいいばかりだ。笑顔でそう答える俺達に、彼らがそれぞれ名乗りをあげる。
「俺は探索者パーティ『チャイルドフッド』のリーダーで、カイだ。よろしくな!」
「ぼ、僕はピートです。さっきは本当にありがとうございました」
「私は偉大なるエルフの末裔たるシルヴィア・フォレストノーツよ! よろしくね」
「お、そうか。俺は……って、ん? エルフ?」
「家名があるということは、貴族なのじゃ?」
俺達の方も自己紹介を返そうと思ったのだが、金髪少女のあまりにも気になる名乗りに、俺とローズが首を傾げる。するとカイと名乗った赤毛の少年が苦笑しながらその口を開いた。
「あー、悪い。シルの言うことは聞き流してくれ」
「あと、シルちゃんは貴族でもなんでもないよ。『シルヴィアフォレストノーツ』っていう長い名前なの。というかそれも自分で言ってるだけで、本名はシルヴィなんだよ」
「ちょっと二人共、何言うのよ! 私は――」
「わかったから落ち着けって。別にシルがどう名乗ろうと自由だけど、初対面の相手にはちゃんと言っとかないと駄目だろ?」
「そうだよ。一〇歳くらいまでなら笑って聞き流せたけど、成人したあともそれを通すのは流石にちょっとキツいよ」
「ふぬぬぬぬ……いーわよ、貴方達はそうやって正論を通して、つまんない大人になればいいじゃない! 私は絶対諦めないんだからね! フンだ!」
「あー……えっと?」
「おっと、ごめん。色々突っ込みたいことはあると思うんだけど、先にそっちの名前を聞いてもいいか? じゃないとどう呼んでいいかわかんないし」
戸惑う俺に、カイと名乗った少年がそう言ってくる。
「お、おぅ、そうだな。俺は探索者パーティ『トライギア』のリーダーで、クルトだ。で、こっちは……」
「ワタシはゴレミデス! ゴレミまでが名前デス!」
「妾はローズなのじゃ!」
「クルトに、ゴレミに、ローズだな。って、呼び捨てだと駄目か? 俺達のことは呼び捨てで全然いいんだけど……いいよな?」
「勿論いいよ」
「私も構わないわ」
「なら別に俺達も呼び捨てで構わねーよ。歳も近いっぽいし……こっちもいいか?」
「妾は問題ないのじゃ」
「ゴレミだってオッケーデス! ゴレミはいつでも友好度がマックスなのデス!」
「だそうだ。それじゃカイ、改めてよろしくな」
「こっちこそ! よろしくな、クルト!」
俺が伸ばした手を、カイがしっかり掴んで握手する。こうして俺達は、なかなかに癖のありそうなパーティとひとまず友誼を結んだ。
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