気づいた時には終わっていた

「…………そこだ!」


「シャァ!?」


 わずかな草の擦れる音から敵の居場所を察知する……なんて高等技術は俺にはできねーので、時々思い出したように足を踏みならすと、今回はたまたま足下に這い寄っていたフォレストスネークの頭を蹴りつけることに成功した。フラフラするフォレストスネークの頭を剣を突き立て切り落とし……まずは一体。


「フシャーッ!」


「うおっと!? へへ、そっちは食らわねーぜ」


 そんな俺に、今度は横からフォレストスネークが跳びかかってきた。流石に空中であれば動きが見えるので、俺はそれをすかさず腕でガードする。するとフォレストスネークはカプリと俺の腕に噛みついたまま、結構な勢いで俺の腕に巻き付いてきた。


 そのまま放置すれば腕をへし折られるだろうし、片腕が封じられたうえに密着までされてるので、対処は困難。一般的なパーティだと軽い火傷くらいは覚悟して仲間に火で炙ってもらうのが一番いいらしいが……ふふふ、俺にはもっと素敵な攻撃法がある。


「俺の腕に巻き付いたのが運の尽きだったな。おら、口を開けやがれ!」


「フシャッ!?」


 俺はフリーの左腕を使って、巻き付いているフォレストスネークの頭をギュッと掴んで口を離させる。勿論そのくらいじゃ俺の腕を締め付ける力は緩まないのだが、俺に取って重要なのは、ここに大きく開けた口があるってことだ。


食らえ・・・、歯車スプラッシュ!」


 俺はフォレストスネークの口に左手を押し当て、その中にガンガン歯車を生みだしていく。元々獲物を丸呑みにする習性のあるフォレストスネークはそれをどんどん飲み込んでいくが、ならば俺はそれに負けない勢いで歯車を生み出し続けるだけだ。


「食い放題だ、遠慮すんな! ほらほらほら!」


 フォレストスネークの胎内に、歯車が満ちていく。俺の腕にもフォレストスネークの皮膚越しにゴリゴリした感触が伝わってきて、今どの辺まで歯車が飲み込まれたのかが実感として伝わってくるのが実に生々しい。


「もっとか? もっとか? 卑しい蛇野郎が! まだまだあるぞ、お代わりもたっぷりだ!」


「っ……………………」


 文字通り腹が膨れるまで歯車を食わせると、最後にビクンと跳ねたフォレストスネークの体から力が抜けていく。俺の腕からだらりと垂れ落ちるように地面に落下すると、少ししてその体がダンジョンの霧と化し、代わりにかなりの量の歯車がばらっと地面に散らばった。


「ふーっ……よし、勝利だ! こいつはなかなか有効だな」


「お疲れ様デス、マスター。にしても、相変わらずマスターの発想は斜め上なのデス」


「そうじゃな。まさか歯車を食わせるとは……恐ろしいのじゃ」


 俺の活躍を前に、ゴレミとローズがやや微妙な表情を浮かべて言う。特にローズは自分の腹をさすっており……魔物の死に方に何か思うところでもあったのだろう。


「ははは、綺麗な勝ち方じゃねーのはわかってるけど、使えるもんは使っていかねーとな」


「そうじゃな。クルトの発想にはいつも驚かされるのじゃ。おかげで妾のフォレストスネーク対策も成ったしの」


「あれも目からウロコだったデス。まさかローズをフレアトラップの上・・・・・・・・・にいさせるなんて、普通思いつかないデス! 流石はマスター、さすマスなのデス!」


「お、おぅ……何だよ、そんな大したことはしてねーって。へへへ」


 フォレストスネークは熱を感知し、ローズのフレアトラップをよける。そしてローズは自分の魔法では燃えたりしない。ならローズ自身をフレアトラップの上に乗せちまえばフォレストスネークが寄ってこねーんじゃねーかと考えたのだが、これがバッチリ上手くいった。


 まああくまでも足下に這い寄られないだけで、樹上からとかは攻撃してくるんだが、フォレストスネークは毒を持ってないのでたとえ噛まれても大したことはねーし、密着して締め付けてくるならフレアスクリーンを展開して炙ってやればいい。


 最初こそ俺達とは噛み合わない、相性の悪い相手だと思っていたフォレストスネークは、対処法を学べばむしろ倒しやすい相手であった。


「よし、それじゃ三体目のボス行くぞ! 連続ボス討伐の記録を伸ばしてやるぜ!」


「やってやるデス! ヤリパンサーなのデス!」


「頑張るのじゃ! ……何故パンサーなのじゃ?」


 相変わらず謎しか生まないゴレミの発言をスルーしつつ、俺達は縄張りの最奥を目指して進んでいく。這い寄るフォレストスネークを切り裂き、燃やし、破裂させ……


「シャァァ!」


ぺっ


「……ん?」


 不意に目の前にやってきたフォレストスネークが、その口から銀色の何かを吐き出して去っていく。訝しみながらも拾い上げてみると、それは蛇の絵が彫られたメダルであった。


「え、ボスメダル!? 何で!?」


「どうしたのじゃクルトよ」


「いや、今の蛇がボスメダルを置いて……落として? 吐き出していったんだけど……」


「何じゃと!? 何故じゃ? 妾達はボスなど倒しておらぬのじゃぞ!?」


「だ、だよな! 本当に何で……?」


「あの、マスター? ローズも……ひょっとしてデスけど、さっき倒した大きめのフォレストスネークがボスだったんじゃないデス?」


「へ?」


 ちょっと言いにくそうにしているゴレミの言葉に、俺はさっきの戦闘を思い出す。確かにフォレストスネークとしてはやや大きめな魔物が相手だったが、別段強くなかった……というか、むしろ大きくなったことで姿が見つけやすくなり、楽に勝てたという印象しかなかった。


「あー……え、あれ? マジか!? でもほら、ここってただの森だぜ? あの猿共の時みたいに、ボス戦用の場所とかがあるんじゃねーの?」


「それを聞かれても答えようがないデスけど……でもあんな平らで見通しのいい場所なんて、フォレストスネークからしたらマイナス要素しかないと思うデス」


「まあ、それは…………」


 無限補給の配下からの遠距離援護投石が驚異のはずだったピンキーモンキークイーンや、縦横無尽に走り回りながらでかい武器を振り回すパンキーモンキーキングにとっては、広い場所というのは有利に働いていた。


 だがフォレストスネークがあんなところに現れたら、身を隠せねーし立体機動もできねーしで不利になることしかない。なら確かに森の中で戦った方がよほどいいだろうけど……


「では妾達は、それと気づかぬ状態でフォレストスネーク……何じゃ? 彼奴もやはりキングやクイーンだったのじゃろうか?」


「蛇の性別なんて、流石のゴレミでもわからないデス。普通にボススネークとかでいいと思うデス」


「ふむ、そうじゃな。ではその……ボススネークを倒してしまっていたということなのじゃ?」


「まあ、こいつがあるってことは、そうなんだろうなぁ……」


 メダルを手に、俺は周囲の森に目を向ける。するとカサカサと音がして、何かが……おそらくはフォレストスネーク……遠ざかっていくようだった。つまりこのメダルが正常に機能しているということだろう。


「えっと…………や、やったぞー! 三日連続でボス討伐成功だー!」


「や、やったのじゃ? うぅ、達成感が微塵も湧いてこぬのじゃ」


「やったデスー! 気づかないうちにボスが倒せるくらい、みんなが強くなっただけなのデス。だからローズも割り切るのデス!」


「むぅ? そう言われれば……わかったのじゃ。やったのじゃー!」


「やったぞー!」


「やったデスー!」


 正直実感はまったくないのだが、それでも俺達がボスを倒したという事実は変わらない。むしろそれほど強くなっていたことを喜ぶべきであり……という感じで割と無理矢理テンションをあげて、俺達はその日も勝利と偉業の達成を祝って勝ち鬨をあげておくのだった。

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