強いのに弱い?

「武器持ちは俺が相手する! ゴレミは残りを引きつけてくれ! ローズは少し見学だ、悪いな」


「了解デス!」


「むぅ、仕方ないのじゃ」


 俺の出した指示にゴレミとローズが返事をすると、パンキーモンキー達も動き出す。ゴレミの鳴らす手袋の音に三体共が釣られてしまったようだが、そこで挨拶代わりに歯車を一発。


「食らえ、歯車スプラッシュ! テメーはこっちだ!」


「ウッキキーッ!」


 顔に歯車を投げつけられ、武器持ちだけが俺の方に意識を向けてくる。ちょうどよく石斧を振りかぶってきたので、まずは力比べといこうか。


「うっ、お!?」


「ウキーッ!」


 ガチンという石と鋼のぶつかり合う音が響き、俺の腕に重い感触が伝わってくる。その衝撃は予想以上に強く、若干俺の方が押される。


「ウキー? ウキッ、ウキッ、ウキキーッ!」


 そんな俺の反応に、まるで勝ちを確信したようにパンキーモンキーが笑う。唇を歪にめくりあげ、力任せに石斧を振り下ろしてくるが……


「ウキッ! ウキッ!? ウッキーッ!!!」


「ハッ、んなもん当たるわけねーだろ!」


 フェイントも何もなく、ただまっすぐ振り下ろすだけの攻撃なんて当たるわけがない。むしろ腕のようにしなったりしない分、武器を持ってる方が回避しやすいまである。


「キー、キー、キィィィィ!!!」


 ちょこまかとよける俺に、パンキーモンキーが苛立った鳴き声をあげる。最初の力比べで「当たれば勝てる」とでも思ったのか、ムキになって石斧を振り回し続けるものの、興奮すればするほど攻撃は単調になり、どんどんかわしやすくなっていっている。


「あー、こりゃ駄目だな。ならさっさと終わらせてやるよ」


「ウキィィィィィィィ!!!」


 力任せに振り下ろされた石斧を、俺は軽く後ろに跳んで避ける。そこから死に体になったパンキーモンキーに放つのは、実践ではまず使えないと思っていた突き技。


「バーナルドさん直伝……『刺突』!」


「ウキャァァァァァ!?」


 パンキーモンキーの胸を突き刺し、だが深く刺さりすぎる前に強引に剣を引き抜くと、刺されたパンキーモンキーの胸からピューッと冗談みたいな勢いで血が噴き出した。


 その光景に焦ってか、武器を手放し自分の胸を押さえるパンキーモンキーを思い切り蹴っ飛ばして遠くにやると、程なくして立ちこめる血臭と同時に、その体が霧となって消えていった。


「ふーっ、上手くいったか」


「お見事デス、マスター!」


「うむ、素晴らしい剣技の冴えだったのじゃ!」


 息を吐く俺に、素手の二体を軽く片付けていたゴレミと、後ろで見ていたローズがそう言って近づいてくる。


「ありがとな。でも全然だよ。突きなんて入れられたのは、敵が隙だらけだったからだし」


「む、そうなのじゃ? 遠目の間合いから剣で突かれるのは恐ろしいと思うのじゃが……」


「そりゃまあ、ちゃんと狙ったところに当てられればな」


 ローズの言葉に、俺は思わず苦笑いを浮かべる。


「<剣術>のスキル持ちなら鎧の隙間を狙うとかで強い技なんだが、俺みたいな素人だと動いてる相手にゃまず当たらねーし、当たっても深く刺さりすぎたら武器を持っていかれちまうし、そうまでして当てても、刺さった場所が悪いと大したダメージにならないなんてこともある。


 使わねーと上達しねーから今は試しに使ってみたけど、実力が拮抗するような相手には怖くて使えねーよ。ま、そのくらい玄人好みの技ってことさ」


「ほー。剣の道も深いのじゃなぁ」


「でもそういうことなら、マスター的にはパンキーモンキーは余裕だったデス?」


「ん? あー、そうだな」


 改めてゴレミに言われて、俺はさっきの戦闘を振り返る。純粋な力比べでこそ若干負けたが、それ以外では苦戦する要素が見当たらない。


「確かパンキーモンキーの方がちょっとだけ強いんだよな? でも俺としては、石を投げてくるピンキーモンキーの方が苦戦した気がする。


 何でだろ? ピンキーモンキーで慣れてたからか?」


「それもあると思うデスけど、一番の理由はマスターが剣士だからだと思うデス。自分が武器を使って戦うから、武器を使って襲ってくる相手の戦い方がわかるのデス」


「そっか、ローズの時に説明されたあれか」


 自分がどう戦うかをわかっていれば、相手がどう襲ってくるかもわかる。言われてみれば、何処から石を投げてくるかを見抜くのは難しかったが、どう石斧を振るってくるかは割とわかったしな。


「ちなみに、マスターは歯車を投げまくってるデスから、遠距離攻撃を察知する能力もそこそこあると思うデス。実際マスターだけは何の対策もしてないのに、ピンキーモンキーの石をどうにか防げていたのデス」


「ぬおっ!? 言われてみればそうなのじゃ! 妾は情けなく直撃を食らってしまったのに、クルトは石を食らっておらぬのじゃ!」


「えっ!? いや、たまに当たってたぜ?」


「でもちゃんと、腕や鎧で防いでたデス。頭に食らったりはしてないデス。それはつまり、最低限防御できる程度には予想がついていたってことデス」


「そ、そうなのか……? まあ確かに、ここを見逃したら絶対ヤバいって場所くらいは何となく想像してたけど……」


「ぬあーっ! 妾にはそれもわからなかったのじゃ! うぅぅ、妾が、妾だけが駄目っ子なのじゃあ!」


「よしよし。元気を出すデス、ローズ。今夜はゴレミが一緒に寝てあげるデス」


「うおーん、ゴレミー!」


 さっきとまったく逆の流れで泣きながら縋り付くローズを、縋り付かれたゴレミが優しく頭を撫でて慰めている。うむうむ、仲がいいのはいいことだ。この調子でさっきの提案を忘れてくれれば――


「ということで、今夜は三人で川の字になって寝るデス!」


「寝るのじゃ! ちなみに真ん中がゴレミなのじゃ!」


「えぇ……?」


 どうやら俺の部屋なのに、俺はベッドの端っこに寝させられるらしい。いやまあ、ゴレミはまだしもローズに縋り付かれて寝るのに比べたら、そっちの方がいい、のか?


 わからん。何もわからん。だがわかったところで気苦労が増えるだけな気もするので、これはこれでいいということにしておこう。


「さて、それじゃマスターの部屋にみんなでお泊まりすることも決まったデスし、サクッとボスを倒して宿に戻るデス! 屋台で一杯食べ物を買って、パジャマパーティをするのデス! マスターのベッドの上を食べかすだらけにするのデス!」


「お前は何も食えねーだろ! あとベッドの上で食うなよ! 持ち帰らずにその場で食えよ!」


「それでは風情がないのデス! ベッドにできる赤黒い染みは乙女の証なのデス!」


「それ肉串のタレをこぼしてるじゃねーか! マジでやめろよ、宿のおばちゃんにスゲー怒られるんだからな!」


 一般的な宿屋において、寝汗だのなんだので汚れる分には何を言われることもない。だがそういう通常ならつかない、特に頑固な油汚れなんかをつけたりすると、別枠で洗濯代をとられたりすることもある。


 まあ金額的には大したことないんだが、宿の店主からもの凄く嫌そうな顔をされるので、その後も宿に泊まり続ける気があるのであれば全力で避けるべき事象である。


「やめろやめろ! これ以上俺の安眠とか平穏な人間関係とか、あと懐を責めるな! 最後は俺が泣くからな!」


「む、それはちょっと見てみたい気もするのじゃ」


「マスターが泣いたら、ゴレミが頭をナデナデしてあげるデスよ?」


「話が通じねぇ……っ!? くっ、いいからボスいくぞボス! こうなったら初日でボスまで攻略してやる!」


「それができたら新記録デス! ならゴレミも張り切っちゃうデスよ!」


「妾も頑張るのじゃ! ちゃんといいところを見せるのじゃー!」


 半ば自棄になった俺の提案に、ゴレミとローズが乗ってくる。ああいいぜ、お前達までそういうつもりだっていうなら、やってやろうじゃねーか!


 油断はしないが躊躇もしない。俺達はその勢いのままに更に縄張りの奥へと足を踏み入れていった。

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