魔力測定
「あ、そうだ。せっかくなんで、クルトさん達も魔力を測っていきませんか?」
話もまとまり、じゃあ今日はこのくらいで……となった帰り際。ふとハーマンさんがそう提案してきた。その言葉に俺達は、改めてテーブルの上に置かれている歯車式魔力測定器に視線を落とす。
「魔力測定ですか……でも俺、大した魔力ないですよ?」
「それは別にいいんですよ。魔力の多い方だけじゃなく、少ない方でも正確に測れるのが重要ですし、何よりこういうのはサンプルが多い方がいいですからね」
「そういうことなら…………はは、是非お願いします」
チラリと横を見ると、ローズが目をキラキラさせて「やってみたい」と無言で訴えている。なら俺としてもちょっと興味はあるし、やってみてもいいだろう。
「それで、俺はどうすればいいんですか?」
「簡単ですよ。この測定器のここ、黒い部分に指で触れればいいだけです」
「へー、随分簡単ですね。俺てっきり、血を採って垂らすとか、全力で魔力を送るとか、そういう感じだと思ったんですけど……」
「血で測るというのは昔からある手法ですけど、あれは設備や環境を整えないと結構な誤差が出ますからね。王族や大貴族のご子息ならともかく、一般人が簡単にやるのは難しい……というより、その場合の測定結果は大分適当になります。
魔力を全力で送るというのも、その日の体調とかで変わっちゃいますしね」
「なるほど……じゃあこれはどういう仕組みで測ってるんですか?」
「この測定器は、平常時に体表を流れる魔力を歯車の回転力に変換することで測定してます。ただ触れるだけでいいので魔力の乱れが少なく、その分精密に計測できるのが特徴です」
「うむ? それだと意識して魔力を流したりしたら、結果が変わってしまうのではないのじゃ?」
ハーマンさんの説明に、ローズが疑問を差し挟む。するとハーマンさんはもじゃもじゃ頭を揺らしながら大きく頷いた。
「その懸念はあります。ただこの測定器は、そうやって全力を出したときの数値を測る機能もありますから……」
「ああ、それは見栄を張ったのが秒でバレて、顔を真っ赤にしちゃうやつデス」
「ですね。少なくとも現段階では公的な数字を出すのではなく、手軽に自分の魔力量を知るための装置という位置づけなので、結果の偽装防止とかはもっともっと装置が普及してからの話になると思います。
ということで、クルトさん、どうぞ」
「あ、はい。じゃあ……」
ハーマンさんに促され、俺は測定器の右下にあるくぼみのところに指を置いた。すると内部でカチカチと音がして、それに合わせて上部のメーターが回っていき……そしてすぐに止まる。
「ふむ。クルトさんの魔力は『七』ですね」
「七……それって多いんですか? それとも少ないんですか?」
「まだサンプルが少ないんで変わってくる可能性はありますけど、『魔力が乏しい』と言われるような方の数字が二とか三になります。一般的な平均値は五から七くらいで、探索者の方だと大体一〇くらいはある感じですね。
で、魔法系のスキル持ちの方だと、最低でも二〇といったところでしょうか」
「へー……え、じゃあ俺の魔力って、平均のやや多めって感じなんですか?」
俺の魔力は相当ショボいと思っていたので、探索者基準では少ないにしても、一般人の平均では多い方だと言われ、思わず怪訝な声を出してしまう。だがそんな俺の態度に、ゴレミが異を呈してくる。
「別におかしくはないと思うデスよ? マスターだって成長しているのデス!」
「そうじゃな。あれだけ戦闘中に歯車を投げまくっておるのじゃから、むしろ全く魔力が成長しない方がおかしいじゃろ」
「お、おぅ。そう、なのか?」
「そうなのじゃ。あれも魔力で生みだしておるのじゃろう? 確かに一度に消費する魔力は少ないのじゃろうが、日常的にそれを使いまくっておるのじゃから、その程度の成長は普通じゃと妾は思うぞ?」
「…………なるほど」
言われてみれば、歯車スプラッシュは魔力を消費した
「さて、それじゃ次はゴレミさんですね」
「えっ!? ゴレミも測れるんですか!?」
驚く俺に、ハーマンさんがドヤ顔で頷く。
「ええ、測れますよ。と言ってもゴレミさんの場合は、操っている人の魔力ではなく、その素体の魔力許容量がわかる……という感じになりますけど」
「へー。ゴレミ、どうする?」
「勿論やってみるデス! エッチスケッチワンタッチデス!」
問う俺に、ゴレミはニコニコと笑顔を浮かべて、謎の呪文を口ずさみながらくぼみに石の指を触れる。すると俺よりも数秒長い時間をかけてから、動いていたメーターが止まった。
「ふむ、ピッタリ二〇ですね」
「流石はゴレミデス! 約三マスターデス!」
「俺を基準にするの辞めろよ! まあでも、そんなもんか」
「次は妾なのじゃ!」
ゴレミの魔力許容量は、どうやら一般的な魔法系のスキル持ちくらいらしい。それが多いか少ないかは俺には判断できないが……まあ本人に不満がないならいいだろう。
と言うことで、次はローズ。ワクワクを抑えきれないという感じで測定器のくぼみに指を置くと、すぐに上部のメーターが俺やゴレミの時とは明らかに違う速度で回り始め…………
「……? なあこれ、全然止まんねーぞ?」
「大丈夫なのデス?」
「ははは、平気ですよ。第一線で活躍しているような探索者の人で一〇〇から二〇〇、超一流と言われるような人で五〇〇くらいを想定してるんで、このくらいならまだまだ……とはいえ、確かに凄い勢いですね」
「ふっふっふ、妾の実力はこんなものではないのじゃ!」
感心するハーマンに、ローズが気を良くして答えながらも指を押しつけ続ける。そうしてそのまま一分ほど立つと、カチッというかバチッというか、あまり聞こえてはいけない感じがする音がした。
「ハーマン、今変な音がしたデスよ?」
「え、ええ。三桁で収まらなかった場合でも、一周したら音が鳴ってわかるようにしてたんです。万が一……本当に万が一の仕様で、使うことなんかないと思ってたんですけど……」
「スゲーなローズ」
「まあ、妾じゃからな! しかしこれはいつまで続くのじゃ? ちょっと手が疲れてきたのじゃが……」
「測定が終わったら自然に止まるはずなんで、もう少しだけ我慢してください」
何処か力のないハーマンの言葉に、ローズは頷いてそのままの姿勢を維持する。だが五分経っても一〇分経ってもメーターの回転はとまらず……遂にハーマンがローズの手を掴んで引き離す。
「ちょ、ちょっと待ってください! これ以上は測定器が加熱し過ぎて、本当に壊れちゃいますから!」
「そ、そうなのか!? では、妾の魔力はどうなるんじゃろうか?」
「それは…………」
言い淀み、口をきゅっと結んだハーマンがフリフリともじゃもじゃ頭を振り回して……しかし何かを絞り出すように、その口が開かれる。
「聞き逃しがなければ、一〇周してました。しかもまだまだ回転してましたから、ローズさんの魔力は最低でも一〇〇〇〇以上ということになります。が……ええ、そんな数値が出るはずが……ひょっとして壊れた?」
「い、いちまん…………す、スゲーなローズ」
「そりゃ魔法が前に飛ばなくなるはずデス」
「むぅ……」
驚く俺と呆れるゴレミに、ローズが不満げに頬を膨らませる。そしてそんな俺達を気にする余裕もなく、ハーマンさんが真剣な表情で測定器を調べ始める。
「すみません皆さん。ちょっと測定器を調べ直したいんで、今日のところはこのくらいで」
「わかりました。あと、多分ですけど、それ壊れてはいないと思いますよ? ローズはちょっと特別というか、とんでもなく魔力が多いはずなんで」
「そうなのデス。一五〇〇マスター分のネッチョリ魔力が纏わり付いているのデス」
「その言い方は何だか嫌なのじゃ! じゃがまあ、確かにまだまだいける気はしておったから、もし良かったら今度はちゃんと測れるようにしてもらえると嬉しいのじゃ」
「そ、そうですね。何とか頑張ってみます…………ああ、ここが加熱し過ぎて誤動作を起こしかけてる。となるともっと冷却効率を……いや、こっちの抵抗を軽減して……」
「それじゃ、失礼します……」
もう聞こえていないとわかっていても、もじゃもじゃ頭をブルンブルン揺らしながら自分の世界に入ってしまったハーマンさんに挨拶をしてから、俺達は家を後にしていった。
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