反応あり!
「うーん…………ん? おぉぉ?」
新たな技の訓練も兼ねつつ、<
「どうしたのじゃクルト? まさか――」
「おう、そのまさかだ! 見ろよこれ!」
「おおー、確かに反応してるデス!」
発見機に取り付けられた小さなランプが、ピコピコと点滅している。これぞ近くに「夢幻坑道」が存在する……かも知れないという通知だ。
「じゃ、後はこのランプがつきっぱなしになる場所まで移動すればいいんだよな? よーし、二人共、気合い入れてくぞ!」
「オー! デス!」
「オー! なのじゃー!」
本当に「夢幻坑道」が見つかるかも? ということで、二人のテンションも弥が上にも高まってくる。そのままランプの導きに従ってズンズンと斜面を横に歩いていったのだが……
「うん?」
「マスター、どうかしたデスか?」
「いや、ランプの点灯速度が遅くなってるような気がしてさ」
途中までは徐々に点滅の間隔が短くなっていっていたのに、いつの間にか間隔が延びてきているような気がする。故に今まで以上にランプの点灯間隔に注意しながら進むと、やはり少しずつ間隔が長く……つまり目的地から遠ざかっているようだ。
「おっかしーな? 何でだ?」
「気づかない間に通り過ぎちゃったデス?」
「いや、それはねーだろ。見逃すほど光りっぱなしにはなってなかったし」
一番近いと思われる場所でも、ランプの付き方はパッ、パッ、パッというかなり断続的なものだった。流石にこれをつきっぱなしと勘違いしたりはしない。軽く行ったり来たりをしながら検証した結果……俺は徐に斜面の
「……え、嘘だろ? まさかこれ、階層を超えて反応すんのか!?」
<
「階層超えデスか。となると目的地が第何層なのかが気になるデス」
「そうじゃな。三層より上であったら、妾達ではたどり着けぬのじゃ」
そう、階層を超えるということは、出会う魔物が強くなるということだ。今のところ第三層までなら何とかなると思うが、それより上に反応が続いていた場合はどうしようもない。
「つっても、わかんねーうちに諦めるのは流石に違うだろ。ローズ、二層でフレアリザードが三匹でたら、躊躇わずにカエル風船を使え。あとゴレミ、ヤバそうだったら採掘道具は捨ててもいい」
「えっ、いいんデス? これを捨てちゃったら、もし『夢幻坑道』が見つかっても採掘できないデスよ?」
この発見機が反応したなら、夢幻坑道にたどり着ける可能性は十分にある。だというのにその利益を捨てるような発言にゴレミが首を傾げるが、俺はそんなゴレミの頭にポンと手を乗せ苦笑する。
「いいさ。てか、『生きて帰ればまた来られる』って、ゴレミが言ったんだろ?」
「フフッ、そうデスね……普段の探索ならともかく、本当に大金を得られるかも知れないって時にもその判断ができるマスターを、ゴレミは心から尊敬するデス」
「お、おぅ? 何だよ急に」
「クルトは本当によいリーダーじゃのぅ」
「ローズまで!? くそっ、もういいから行くぞ!」
「「はーい!」」
二人から妙に温かい視線を向けられ、いたたまれなくなった俺は率先して斜面を登る。途中一度だけフレアリザードと出会ったが、幸いにも二匹組だったのでカエル風船は温存し、採掘道具を捨てることもなく辿り着いた第三層。素早く当たりを見回すが、ひとまず
「ふーっ、とりあえず平気っぽいな」
「クルトよ、発見機の反応はどうなのじゃ?」
「あー……結構な勢いで光ってる? これならこの三層に目的地がありそうだ」
「それは僥倖デス! なら慎重に進むデス!」
ゴレミの言葉に俺とローズも頷き、発見機の反応を確認しながらゆっくりと進む。途中何匹かのブラックタートルを避けたせいで進路修正を余儀なくされたものの、それでも三〇分ほど歩いたところで、遂に発見機のランプがつきっぱなしになった。
「多分ここだ」
「ほほぅ……しかし、ぱっと見は何もないのじゃ?」
「そりゃ見てわかる何かがあるなら、とっくに他の誰かが気づいて指摘してるデス」
「ははは、そういうこったな。んじゃ、次はここに歯車を嵌めて……」
俺は発見機の隅に開いている穴に手から生みだした歯車を嵌め、気合いを入れてキュッと回す。すると表面の一部がパカッと開いて、その下に八桁の数字が表示された。
「確かこれが一になるように合わせりゃいいんだよな……うおっ!?」
軽く歯車を回してみただけで、下三桁の数字が結構な勢いで変わっていく。一度練習したとはいえ、これをピッタリに合わせるのはなかなかに骨が折れそうだ。
「こりゃ片手間は無理だな。悪い、俺はこれに集中するから、ゴレミとローズは周囲の警戒を頼む」
「任せるのじゃ!」
「ゴレミにお任せなのデス!」
仲間達の力強い返事を信じて、俺は意識を数字板に集中する。ひとまずは雑に歯車を回してある程度まで調整してから、あとは細かく歯車を回転させて微調整をするわけだが、これがなかなか上手くいかない。
「ぬおっ、行きすぎた!? くっそ、マジで面倒だな……」
「マスター、頑張るデス! 目が疲れたらゴレミが肩を揉んであげるデスよ!」
「妾にも手伝えればよいのじゃが……」
「魔法が前に飛ばせないほどの魔力が溢れてるローズがやったら、指先一つで大爆発しそうデス」
「ぐぬ、反論できぬのじゃ」
「お前ら、ちょっと静かにしろ! ったく……」
二人の雑談に文句を言ったりしつつ、俺は更なる微調整を重ねる。ゆっくり優しく丁寧に、ハゲたオッサンの頭に残った、最後の一本の髪の毛を扱うように繊細な歯車操作を重ねていき……そして遂に。
「きたっ!」
発見機に表示された数字が、一.〇〇〇〇〇〇〇を指し示す。すると次の瞬間、何の音も衝撃もなく、近くの斜面に大きな穴が開いた。
「ふぉっ!? 地面に穴が開いたのじゃ!?」
「奥に道が続いてるデス! ということは……」
「ああ、これが『夢幻坑道』なんだろ。思ったより地味な感じだけど」
俺の中では、もっとこう……入り口の周囲に輝く宝石がビカッと縁取りしているような、見るからにお宝満載というイメージがあった。だが実際の夢幻坑道と思われる場所は、本当に普通の横穴である。
「マスター、ひょっとして何かもの凄くアホなこと考えてないデスか?」
「なっ!? 何だよアホな事って!? ほら、んなことよりさっさと入るぞ」
「そうじゃな。普通ならばそうすぐに消えるわけではないはずじゃが、今回は強引に出現させておるからの」
「他の誰かに見つかる前に、サクッと入ってお宝を掘り掘りするデス!」
「あ、そっか。これ誰かが中にいる間は、普通に他の奴らからも見えるのか。ならマジで急いだ方がいいかもな」
第三層を探索する同業者は、別に多くも少なくもない。つまり誰かが横に移動していれば、ここが見つけられる可能性は十分にある。別に利益を独占したいわけじゃねーが、エーレンティアにいたジャッカルみたいな奴らに目をつけられたら相当に厄介なことになるだろう。
「じゃ、改めて突入するぞ。二人共、慎重にな」
振り返った二人が真剣に頷くのを確認すると、俺は気を引き締めてから夢幻坑道の中に足を踏み入れていった。
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