発想の転換
「回……え? あれ?」
回らない。どれだけ気合いを入れても、三つ組み合わさった歯車は回らない。な、何でだ!?
「ふむ、上手くいっておるようじゃの。どうじゃクルトよ、妾の発想の勝利じゃ!」
「あ、ああ、そうだな。ありがとなローズ……」
「ふふん、気にせずともよいのじゃ! ちょっと頭を柔らかくすれば、このくらい誰でもわかることじゃからな!」
「ぐはっ!?」
ドヤ顔で言うローズに、俺は思わず膝から崩れ落ちそうになる。ははは、そうか。誰でも……誰でもわかることなのか…………
い、いや、まだ平気だ。まだ挽回できる。ちょっとうっかり思慮とか配慮とか、何か色々が足りなかった結果として勘違いをしちまったようだが、トライギアのシンボルに関しては誰にも話してねーし――
「ふと思ったデスけど、三つの歯車が噛み合ってる感じは、ゴレミ達みたいデスね?」
「ふぁっ!?」
「ふむ? 言われてみればそうじゃの。あ、さてはクルト、お主の考えた『トライギア』というパーティ名は、ここから来ておるのか?」
「そ!? それ、それは…………っ」
乾ききった口の中で舌が張り付き、声が上ずる。それでも何とか平静を保とうとする俺の前で、軽く考えこんでいたローズがポンと手を打つ。
「一人でも手を離したらクルクルと空回りしてしまうが、三人でガッチリ組み合っていれば何者にも揺らがない……なるほど確かに、妾達にピッタリの名前なのじゃ! なんじゃクルト、お主やるときはやるではないか!」
「へ!? あ、あー、いや、それは…………ははは。何だ、ばれちまったのか。いずれ! いずれ必要になったら明かそうと思ってたんだがナー、ハハハハハ」
「ぶー! 何でそのセンスをゴレミの時に発揮しなかったデスか!?」
「ふはっ!? お、俺だってその……あれだよ! 成長してるんだよ!」
「むー!」
ブンむくれるゴレミの頭を適当にペシペシしつつ、俺は全力で表情を取り繕う。よし、そうだ。「トライギア」の意味は、今からそういうことになった。いやぁ、実に素晴らしいネーミングじゃないか! うんうん、我ながら最高のセンスだ!
「……のう、クルトよ。さっきから手の中で歯車がカタカタ鳴っておるのじゃが、それは大丈夫なのじゃ?」
「ん? ああ、そうか。じゃあ……」
ローズに指摘され、俺は手の中で震える三つの歯車を握りしめる。そのまま大きく振りかぶり、誰もいないところに向かって……
「食らえ、悲しみの歯車ボンバー!」
ヒュー……ポンッ!
「おお、炸裂したのじゃ!」
「何で悲しみデス?」
「気にするな! 世の無常がはじけ飛んだだけだ!」
さらば俺のトライギア。こんにちは新たなるトライギア。これにて俺は新しく生まれ変わります……とまあ、それはそれとして。
「思ったより爆発がショボいな?」
ブラックタートルの時ほどの威力を期待したわけではないが、それでも想像よりずっと爆発の規模が小さい。顔の直前で爆発すればビックリして目を閉じるかも? くらいの威力というのは流石に想定外だ。
「確かに、この威力では戦闘には使えそうにないのぅ。まあ牽制とか気を引くとか、ちょっとビックリさせるのには使えそうじゃが」
「歯車に蓄積された力の分だけ爆発が強くなるなら、もっと沢山の歯車を噛み合わせたらいいんじゃないデス?」
「そうだな。やってみるか」
ゴレミの言葉に、俺は新たに四つの歯車を生みだして噛み合わせる。すると今度は特に抵抗もなく、噛み合った歯車がクルクルと回り始めた。
「……あの、マスター? 偶数個だと普通に回っちゃうデスよ?」
「わ、わかってるよ! ちょっと試してみただけだってーの! ったく……」
首を傾げるゴレミにそう言いつつ、歯車を一個追加で生みだして組み合わせる。五角形になった歯車は再び回ることがなくなり、ギチギチに力が溜まったところでぶん投げると……ボンッ!
「おお、さっきより威力が上がったのじゃ!」
「だな。でもこれ、スゲー投げづらい……」
三角形はまだしも、五角形に組み合わせた歯車は、ちょっとかさばりすぎて投げるのが難しい。これが七つや九つになったりしたら、更に投げづらくなるというか、そこまでいくとその形状を維持するのも難しい気がする。
「うーん、こりゃ失敗かなぁ……」
遠くに投げられる状態では威力が低く、威力を高めれば高めるほど自分の側にしか届かない。ローズの自爆魔法と同じジレンマに悩む俺に、再びローズがその手を差し伸べてきた。
「ふむ……のうクルトよ。単に歯車が回らなければいいというのなら、こういうのはどうじゃろうか?」
そう言うと、ローズは歯車を横ではなく縦に噛み合わせた。
「おお、ちゃんと噛み合うようじゃな。ならこうして……できたのじゃ!」
完成したのは、同じく五角形の歯車の輪。だがさっきまでは五角形の頂点に横に置かれた五つの歯車が配置されていた花びらのような形だったのに対し、今回は五角形の辺の部分を縦にした歯車で構成した箱のような形だ。
「お、おぉぉ!? こいつぁ握りやすい!」
「じゃろ? これなら五つでも十分に遠くに投げられると思うのじゃ」
「確かに! いくぜぇ……食らえ、歯車ボンバー!」
俺はニヤリと小さく笑うと、思い切り振りかぶって五角形の歯車を投げる。すると――
ビューン! ボンッ!
「「「おぉぉぉぉ!!!」」」
山なりの弾道で二〇メートルほど飛んだ歯車が、いい感じの威力で爆発する。流石に必殺と言えるような威力ではないが、体の側で爆発したなら十分に脅威を感じる威力だ。
「凄いのじゃ! これならちゃんと武器になるのじゃ!」
「そうデスね。ゴブリンくらいなら十分やっつけられるデス!」
「だよな! 歯車ボンバー! 歯車ボンバー!」
二人に賞賛され、俺は調子に乗って歯車ボンバーを作りまくり、投げまくる。今までペチペチと投げつけるだけだった俺の「歯車投擲術」に、遂に現実的な威力を持つ技が加わったことが、嬉しくて仕方がない。
ああ、この感動を是非ともリエラ師匠に伝えたい! よし、エーレンティアに帰ったら、真っ先に報告を……っ!?
「うっ……!?」
「マスター!?」
「クルト!?」
突然目眩に襲われて、俺はその場でよろけてしまう。そんな俺の体をガッシリと抱え、ゴレミが心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫デスか、マスター?」
「あ、ああ。平気だ。何か急に目眩がして……何だこれ?」
「多分魔力の使いすぎなのじゃ! 調子に乗るからじゃぞ!」
「魔力の使いすぎ……? そうか、これがそうなのか……」
今までも、俺が歯車を生み出したり回したりするのには魔力を消費していた。が、どちらも消耗は微々たるものであり、魔力不足なんて感じたことがなかった……なかったよな? 仮にあったとしても、忘れてるくらいには縁遠いものだ。
だがどうやら、今回の新技は相応に魔力を使うらしい。元々の俺の魔力の少なさもあって、むやみに乱発できる技ではないようだ。
「とすると、全快状態から四回……五回くらい、か? もうちょっと検証しねーとだな」
「そうじゃな。それに魔力というのは体力と同じで、使って鍛えればその分だけ成長するのじゃ。無理のない範囲で使ってみるのがよいと思うのじゃ!」
「もしマスターが魔力枯渇で気絶しちゃっても、ゴレミが色々まさぐりながらおんぶして運ぶから、ご安心デス!」
「むしろ危険な要素が増えてるんだが……まあゴレミだしな。そこまで自分を追い込む気はねーけど、もしもって時は頼む」
「ゴレミにお任せデス!」
間違いなく頼りにはなるが、頼りにし過ぎてはいけないゴレミの笑顔に苦笑しつつ、俺は大きく深呼吸して気を取り直す。うし、ひとまずは大丈夫そうだ。
「じゃ、新技と発見機の検証、両方ともぼちぼちやっていきますかね」
「おー! なのじゃ! でも無理は禁物じゃぞ」
「おー! なのデス! いざって時はゴレミが守るのデス!」
頼りになる仲間の返事を聞いてから、俺達は魔導具を片手に改めてダンジョンの斜面を歩いて、調査を再開していった。
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