お試し新装備
「来いよトカ公! 武器なんか捨ててかかってくるデス!」
「キシャー!」
いつものゴレミの挑発に、赤銅色の固そうな皮膚を纏った体長二メートルくらいの大トカゲが気勢を上げて応える。ドスドスと足音を立てながら走り寄る様は、まさしくゴレミしか見えていないという感じだ。
といっても、勿論ゴレミの台詞に怒ったわけでは……そもそもフレアリザードは武器なんて持ってねーし……ない。その高い挑発効果は、ゴレミが手に入れた新たな装備が起因となっている。
ゴレミが左手につけたグローブには、指先と手首付近にそれぞれ金属の板のようなものが取り付けてあり、手を閉じるときの動作でそれを打ち合わせると、シャンシャンと高い音が鳴り響くのだ。
人間の俺からするとちょっと喧しいくらいなのだが、これが魔物には酷く気に障る音らしい。つまり訳のわからん戯言を叫び、謎のセクシーポーズを決めながらその音を鳴らしまくるゴレミは、フレアリザードにとって今すぐぶん殴りたくてたまらないくらいウザい存在に感じられるというわけだな。
「ギシャ! ギギギ…………?」
「ゴレミの溢れる母性にバブ味を感じてオギャりたくなるのはわかるデスが、あんまりじゃれついたらくすぐったいのデス!」
ならばこそ爪を振るい、牙で噛みつくフレアリザードに、しかしゴレミは余裕の態度を崩さない。ダンジョンで最初に出会う敵としては破格の強さを誇るフレアリザードだが、それでもまだゴレミの体を傷つけるほどではないのだ。
「シュゥゥゥゥ…………」
故にフレアリザードは、切り札を使う準備をする。長い尾を打ち付け、その反動でバッと背後に飛び退くと、大きく息を吸い込む。それは日に一度しか使えないらしい火炎ブレスを吐く予備動作だ。
「ローズ! ブレスが来るデス!」
「準備万全じゃ!」
勿論、そんなわかりやすいものを黙って食らってやる義理はない。予備動作が見えた瞬間にゴレミはこっちに向かって走ってきており、代わりに背後で控えていたローズが前に出る。
「シャァァァァァァァァ!」
「遅いわ! フレアスクリーン!」
吸い込みから吐き出しまで、およそ三秒。遂に放たれた火炎ブレスに対し、しかしローズは既に防御魔法を展開し終えている。生身で受けたら大やけどを負いそうな炎の吐息は、火の粉ひとつすらこちらに届かせることはできなかった。
「フシュゥゥゥゥ……」
己の必殺技が通じないと悟り、フレアリザードの吐き出すブレスの勢いが急速に衰えていく。このまま放置すればおそらくはまた爪と牙による近接戦闘に移行するんだろうが……その前に、奴はどうしてもやらなければならないことがある。
「スゥゥ……」
「ここだ! 食らえ、バーニング歯車スプラッシュ!」
「フギャグッ!?」
長々と息を吐いたんだから、動き出す為には絶対にもう一度吸わなければならない。そのタイミングを見計らって、俺はローズの火の膜越しに、フレアリザードの口目掛けて歯車を投げつけた。呼吸に合わせて燃える歯車を飲み込まされたフレアリザードが、途端に激しく苦しみ出す。
「ギャフッ!? ギュホッ!? グェェ……!?」
「へへへ、火が吐けるからって、燃える歯車を飲み込んで平気ってわけじゃねーよなぁ? それとも肺の方に入っちまったか? ま、どっちでも同じさ。ゴレミ!」
「ガッテン承知デス!」
暴れるフレアリザードを、ゴレミがその力と重さを利用して押さえつける。俺はそこに駆け寄ると、新調したばかりの鋼の剣を抜き放ち……一閃。
「こいつでトドメだ! ていっ!」
「ギャッ――――」
ズバッという固い手応えと共に、強靱なフレアリザードの首を半ばほどまで切り裂く。するとフレアリザードは最後の抵抗とばかりにジタバタと暴れ……それから一〇秒ほどすると、その体が霧となってダンジョンの空に消えていった。
「ふーっ、討伐完了! 二人共お疲れさん」
「マスターもお疲れ様デス!」
「今回もいい感じに倒せたのじゃ!」
周囲を見回し他に敵がいないことを確認すると、俺達は笑顔で互いをねぎらい合う。<
「にしても、ゴレミのそれ、本気で有用だな。割と高かったけど買ってよかったぜ」
「フフーン! カエラ直伝のセクシーポーズは、魔物もマスターもメロメロにしちゃうのデス!」
「俺今、装備って言ったよな? まあいいけど」
ゴレミがつけている挑発グローブは、皮の部分も金属部分も魔力付与によって強化されている、歴とした魔導具だ。故に値段もそれなりであり、何と片手だけだというのに一〇万クレドもした。
ガーベラ様を護衛したことで資金に余裕がなかったら選択肢にも入らない逸品だったが、以前に話し合った通り、金があるうちに装備を拡充するのはこの先を生き残るのに重要だと考え、奮発したのだ。
「マスターとローズの新装備もいい感じデス!」
「妾は耐熱の魔法が付与された腕輪だけじゃがな。本当は魔法の発動体を買えればよかったんじゃが……」
「いや、あれは無理だろ」
右の手首に嵌めた大きな赤色の宝石の入った腕輪を眺めながら言うローズに、俺は思わず苦笑しながら即答する。
魔法系のスキル持ちは、大抵の場合杖とか本とか、あるいは指輪みたいな魔法の発動体を持っている。これは発動体に魔力を収束することで魔法が使いやすくなったり、威力が上昇したりするためだ。
だがローズの場合、そもそも前に飛ばせないほど自分の魔力が強く濃いので、並の発動体ではあっという間に壊れてしまったり、最悪の場合は収束した魔力が暴発して、自爆のようになってしまうこともあるらしい。
無論それを防げる……つまりローズの魔力を許容できるくらい優れた発動体もないわけではないのだが、そういうのは一流の探索者が使う装備であり、当然値段も馬鹿高い。ハーマンさんに提示された二〇〇〇万が可愛く思えるくらいの金額なので、どうにか頑張ろうという気すら起きなかった。
「そもそも発動体ならオーバードの方が品揃えがよかったのじゃから、わかっておったことじゃがの。ということで、今回一番パワーアップしたのはクルトじゃ。なにせ武器も防具も新調したのじゃしの!」
「そうデスね。マスターは大盤振る舞いデス!」
「なんか悪いな。俺ばっかり」
そんな二人とは対照的に、俺だけは身につける全てが刷新されている。鎧はディルクさんお勧めのフレアリザードの革鎧に耐熱付与された金属プレートを貼り付けた軽鎧に、剣も結局レンタルではなく、よく鍛えられた鋼の剣を新調することとなった。<歯車の剣>がパワーアップするという展開はなくなったので、ならばとこちらもディルクさんの鍛えたやつを買っちゃったのだ。
だが、おかげで俺の戦闘力は飛躍的に上昇した。この装備なら<
「別にいいのじゃ。仲間が強くなって悪いことなどないからの」
「そうデス! マスターにはこれからもガンガン強くなってもらって、いつかゴレミをお姫様抱っこしてもらうのデス!」
「その野望は果てしないにも程があるだろ……」
石なので、ゴレミは重い。なにせ石だ。石の塊なんだから、糞ほど重いに決まってる。一応歯車も詰まってるらしいが、それを差し引いたって石なんだから激烈に重い。金属じゃねーだけマシとか、そんなのは気休めにもならない。
「むー? マスター、
「お前が言い出したんじゃねーか! ま、いずれな。俺がスゲームキムキになったりしたら、その時は考えてやるよ」
「絶対デスよ! その時はゴレミのお尻の感触を堪能させてあげるデスから、それをモチベに頑張るのデス!」
「えぇ……?」
多分その辺に転がってる丸めの岩を撫で回したのと同じ感触だと思うので、やる気には一切繋がらない。だが日々のトレーニングを「ゴレミの尻を触るために頑張ってる」と解釈されるのは極めて不本意だ。
「お前ひょっとして、俺に体鍛えて欲しくねーのか?」
「何でそうなるデスか!? まったくマスターは素直じゃないデス!」
「お前が素直ってか、欲望に忠実過ぎるだけだろうが……ったく」
「お主達は本当に相変わらずじゃのぅ」
本来なら立っているだけでも汗が噴き出る熱気に満ちた、<
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