類は友を呼ぶ

「…………はっ!? おいおいヤバいだろ!? ゴレミ!」


「ガッテン承知デス!」


 まさかの自爆に一瞬呆気にとられたが、すぐに我に返った俺はゴレミに声をかけつつ少女の方へと駆け出す。魔物を刺激しないようにそれなりの距離をとっていたのが、今はとてももどかしい。


「おっと、通さないデス! ゴレミガード!」


 そんな俺に、自爆に巻き込まれなかったブックバタフライが火球を放ってくる。だがそれは立ち塞がってゴレミによって防がれ、俺は無事に少女の元に辿り着いたのだが……


「ぬがーっ! また失敗したのじゃー!」


「うおっ!?」


 煙が収まった先では、思い切り爆発に巻き込まれたはずの少女が、何故か元気に雄叫びをあげていた。金の髪にもピンクのドレスにも焦げあと一つ存在せず、負傷している様子はまるでない。


「うん? 何じゃお主は?」


「え!? あ、いや、俺は……」


「おっと、話は後じゃな。むむむ、あやつめまだ生きておるか! ならばもう一発……」


「いやいや、待ってくれ! お前また自爆するつもりか!?」


「何を言うか! 妾とて好きで自爆したわけではないわ! いいから見ておれ、次こそは――」


「だから待てって! あれは俺達が片付けるから!」


 今ブックバタフライと戦っているのはゴレミだ。であれば下手に魔法を使われて同じ結果になると、今度はゴレミも爆発に巻き込まれてしまう可能性がある。ゴレミの体なら平気かも知れないが、かといって無駄に危険に巻き込みたいとは思わない。


 故に俺が必死で少女を押し留めると、少女は小さく息を吐いてから上から目線でその口を開いた。


「ふむ、まあよかろう。庶民に手柄を譲るのも高貴な存在の役目じゃからな! では疾くあの魔物を倒してみせるのじゃ!」


「へいへい、仰せのままに……ゴレミ!」


「了解デス!」


 俺は一声かけてからゴレミの方に近寄り、その身に火球を受けてやや熱くなったゴレミの手に歯車を握らせる。するとそれを手にしたゴレミが、ニヤリと笑ってブックバタフライに狙いを定める。


「ゴレミとマスターのホットなラブを受け取るデス! 歯車スプラーッシュ!」


バチバチバチッ!


 ヒョウと高い音を立てて空を切り裂いた歯車は狙い違わずブックバタフライに命中し、フラフラと落ちてきたところを俺の剣が両断する。五〇回も繰り返した流れを今回もそのまま再現すると、俺の背後からパチパチと拍手が聞こえてきた。


「うむ、見事なのじゃ! 褒美にその魔石はお主達に譲ろう。一生の家宝とするがよいぞ!」


「そりゃどうも」


 やたら尊大な物言いに適当に返しつつ、俺は拾った魔石を他の魔石と一緒に袋に入れた。無論区別などしないし、普通に売るつもりだ。


「それともう一つ褒美として、妾の名を教えてやろう! 恐れ多くも――」


「あ、そういうのいいんで。ほら、行くぞゴレミ」


「はーいデス!」


「待て待て待て待て!」


 胸を反らせて名乗ろうとしていた少女を無視して正面を通り過ぎようとすると、何故か少女が俺の手を掴んで呼び止めてくる。


「何だよ、まだ何か用か?」


「用かではない! 何故妾の高貴なる名乗りを無視して、さっさと先に行こうとするのじゃ!」


「えぇ……だって面倒くさそうだし」


「め、面倒!? 妾と関わるのが面倒だと言うのか!」


「まあ、端的に言えば?」


「ぐはっ!? そんな、そんなことを言うなんて酷いのじゃ! 泣くぞ? いいのか? 泣いてしまうんじゃぞ?」


「酷いデスマスター! 乙女心という器は、ひとたびヒビが入ったら、二度と元には戻らないデスよ!」


「何でお前が擁護するんだよ……あーはいはい、わかったわかった。じゃ、聞いてやるから名乗っていいぞ」


「むぅ、なんたる不遜な……まあよかろう。では聞いて驚け! 妾は魔導帝国オーバードの第二八皇女、ローザリア・スカーレットなのじゃー!」


「へー」


「ウギャー!? まさかののじゃロリ姫なのデス! ゴレミとキャラが被ってるのデス!」


「何でそんなうっすい反応なのじゃ! そしてそっちのゴーレムの反応は何なのじゃ! 妾とお主で被ってるところなど、一つとしてないわ!」


「えー、そうか? 今までのなかじゃ一番被ってる気がするぞ?」


 喧しく騒ぐローザリア姫に、俺は適当な感じて告げる。身長、体型、胸の厚みなど、今まで出会った女性のなかではローザリアが一番ゴレミに近いんではないだろうか? まあだからって被ってるってほど似てはいねーが。


「問題なのはそこではないのじゃ! 何故妾が皇女だと名乗ったのに、お主はそんなに平然としておるのかと聞いておるのじゃー!」


「そりゃあだって……なあ?」


 一人称が妾で、場違いなピンクのドレスを着てるあたりは確かに姫っぽいが、本物の王族……いや、皇帝だから皇族か? が護衛もつけずにこんなところにいるはずもない。


「一応の忠告なんだが、悪ふざけだかなりきりお姫様ごっこだか知らねーけど、皇族の僭称はマジで死刑になるから辞めといた方がいいぞ? そもそも成人した大人がやることじゃねーし」


「ふふーん、何を言い出すかと思えば! 妾は特例で探索者になったから、まだ成人前の一二歳なのじゃ!」


「あ、そうなんだ。道理で……」


「何故そっちは素直に信じるのじゃ! そこは『ええっ!? そんなに大人っぽい魅力に溢れているのに、一二歳なのかい!?』とか驚くところではないのか!?」


「今までの説明のなかじゃ、一二歳ってのが一番納得度が高いな。間違いない」


「不敬じゃ! 不敬なのじゃ!」


 ダンダンと足を踏みならして不満を露わにする自称お姫様に、俺は思わず頭を抱える。何だろう、ここにきてゴレミっぽいのが増えるとか、一体俺は何の罰ゲームを受けているんだろうか?


「まったく、これだから一般庶民は……それで? お主達は何という名前なのじゃ?」


「ん? あー、俺はジャッカル。『草原の狼』って集団を率いてる、ジャッカルだ。で、こいつはゴ、ゴ……えーっと……そう、ゴレゴレゴレクソンだ」


「絶対に嘘じゃ! というか、そもそもお主、その娘のことをゴレミと呼んでおったじゃろうが!」


「チッ」


 会心の嘘が秒で見抜かれ、俺は思わず舌打ちをする。こんな面倒くさい奴に名前まで覚えられるのは勘弁願いたいんだが……まあゴレミと一緒に活動してる時点で、どうやったって誤魔化せないレベルで目立つからなぁ。


「仕方ねーなぁ……俺はクルトだ。で、こいつはゴレミだ」


「愛と正義のメイド服美少女ゴーレム、ゴレミデス! 石に代わってお仕置きなのデス!」


「おぉぉ! 何じゃその格好いい名乗りは! 妾もそういうのを考えたいのじゃ!」


「おお、この良さがわかるとは、ローザリアはなかなかできる女デスね?」


「無論じゃ! よしよし、お主には特別に、妾をローズと呼ぶ権利をくれてやるのじゃ! じゃから妾にもいい感じの名乗りを考えるのじゃ!」


「了解デス! ならゴレミと一緒に、とっておきのやつを考えるのデス!」


「…………何だこれ?」


 よくわからない流れで意気投合したローザリアとゴレミが、二人で顔を合わせて訳のわからん事を話し合っている。その光景を近くて見つめながら、俺はどんな顔をすればいいのかわからない。


「やっぱりお姫様というところを全面に押し出すべきだと思うデス」


「そうか? 妾としてはそういうのは匂わせる程度にしておいた方が、よりミステリアスな雰囲気が出ると思うのじゃが」


「女は秘密を着飾って美しくなるというやつデスね?」


「ぬぉぉ、何じゃそれは! 凄くいいのじゃ! むしろそれにしたいのじゃ!」


「そのまま使うのは色んな意味で駄目なのデス。やはりここはひと捻り……」


「…………マジで何だこれ?」


 気づいたらポンコツが増えていた。その地獄のような状況に、俺は改めて頭を抱えるのだった。

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