本来の目的
「食らうデス! 歯車ラブラブスプラーッシュ!」
「おまっ、また変な技名を……!?」
ゴレミがアホなことを叫びながら投げた歯車は、しかしその響きとは裏腹に音を立てて空を切り、優雅に空を舞うブックバタフライの体に叩きつけられる。するとフラフラとブックバタフライが落ちてきたので、俺はそれを背表紙のところで真っ二つに切り裂いた。
「ふぅ……おいゴレミ、何だよ今の?」
「フフフ、ゴレミの手が真っ赤に燃えているのデス!」
「いや、石は燃えねーだろ……お、あったあった」
消えたブックバタフライの代わりに出現した魔石を広い、俺はそれを袋に入れる。これで通算五〇個目……ここに来て今日で三日目なので、大体毎日一三個……金額にして六五〇〇クレドほど稼げていることになる。
つまり、宿代以下だ。これは正直かなりマズい。
「今のところ許容できる範囲だけど、この稼ぎじゃ長くは持たねーな。まだ来て早々だけど、さっさと第二層に行くべきか?」
「ここの第二層はどうなってるデス?」
「ん? 出てくる魔物が単純に三倍まで増えるってだけだな。つまりは俺達の頭の上で、最大三匹の空飛ぶ本が愉快な
ブックバタフライ自体は、別に強くも何ともない。最初こそ念のために歯車の剣を展開して斬ったが、さっきみたいに普通の鉄剣状態でも余裕で斬れる。
なので、攻撃を当てることさえできれば倒すのは容易なのだ。たとえ三匹に増えたとしても、前衛が魔法を防いでいる間に後衛が遠距離攻撃を決めていけば簡単に数が減らせるので、それほど脅威度は高くない……俺達のように近距離攻撃しかできない探索者を別にすれば、だが。
「何つーか、やっぱり相性が悪いんだよなぁ」
ゴレミはブックバタフライの魔法程度では傷つかないので、三匹から魔法で集中砲火を食らっても問題ない。対して俺は一対一なら十分に回避できるが、流石に空中の三匹から攻撃を集中されるとかわしきる自信はない。
ならばゴレミを盾役にして俺が後方から攻撃できればいいんだが、俺が歯車を投げてもブックバタフライにはダメージを与えられない。なので最良の戦い方は、俺は歯車を補給する係にだけ徹し、後は全部ゴレミにやってもらうことだ。
だがそれを認めてしまったら、俺に成長はない。多少非効率的であろうとも、何とか俺自身が戦える方法を考えねば……
「あの、マスター?」
「ん? 何だよゴレミ」
「そもそもマスターはここにパーティメンバーを探しにきたわけデスし、仲間を見つけて一緒に戦えばいいんじゃないデス?」
「……………………はっ!?」
コテンと首を傾げて言うゴレミに、俺は思わず息を飲む。そうだ、そもそも俺は、その問題を解決するための仲間を探すためにここに来たんだった。
「えっ、まさか忘れてたデス?」
「ハハハ、マサカー! カンペキニオボエテタヨ?」
「絶対嘘デス! ほらほら、これは嘘をついている味デスよ?」
「お前味とかわかんねーだろ! イテーよ、離れろって!」
俺の頬にゴリゴリと石の口を擦りつけてくるゴレミを押しのけてから、俺は改めて冷静に考える。確かに遠距離攻撃ができる仲間が増えれば、この問題はそれだけで解決だ。ゴレミが攻撃を防ぎ、仲間がブックバタフライを打ち落とし、俺が斬ってとどめを刺す。実に理想的な連携だろう。
「てか、そうだな。足場を固める前に焦って探すのは駄目だと思ったんだが、この状況じゃそうも言ってられねーよな。
よし、なら今日……は流石に時間も中途半端だし、明日の朝からダンジョン前のホールで仲間を探してみるか」
「おおー、遂にデスね! ゴレミの正妻の座は渡さないデスよ!」
「仲間だって言ってんだろーが! ったく……ほれ、それより次を探すぞ」
「はーいデス!」
相変わらず返事だけは素晴らしくいいゴレミを引き連れ、俺達は再びダンジョンを徘徊する。ただ<
であれば当然、俺のように魔物を求めて彷徨う探索者の数も多い。せっかく魔物を見つけても誰かが先に交戦していれば手は出せないし、その場を動かず定点狩りをしているパーティがいた場合は、基本的には引き返すのがマナーだ。
勿論道順の関係で通り過ぎたい場合は一声かけて端を通ればいいのだが、ごく稀に「自分達が狩りをしている場所に何故近づいてくるんだ?」と因縁をつけてくるような輩もいるので気をつけねばならない。せっかくもめ事を避けてこっちの町に来たのに、やってきて早々またもめ事なんか起こしたら目も当てられねーしな。
「マスター、前方から戦闘音デス」
と、そんなことを考えながら歩いていると、横を歩くゴレミから声がかかる。言われて耳を澄ませば、確かに前の方から誰かが戦っていると思われる音が聞こえてくる。
「あちゃー、ここでか。どうすっかな?」
その状況に、俺は頭を掻いてから地図を取り出す。それによるとここは長めの一本道で、このまま進むか引き返すかのどちらかしかできない。だが引き返したところで何もないのはわかりきっているので、俺の都合としてはこのまままっすぐ進みたいところだ。
「引き返すデスか?」
「うーん……いや、このまま進んで、相手の姿が見えるところで止まって待とう。で、戦闘が終わったら横をすり抜ける感じで」
戦闘中の他の探索者に不用意に近づいたりしたら、不審者として魔物と一緒に攻撃されても文句は言えない。そういうときはこちらの姿が探索者側から見える位置で止まり、そのまま静かに待つのが常識だ。
なので俺達もまたその常識に習い、ゆっくりと通路を進んでいく。すると前方にはヒラヒラと空を舞う赤いブックバタフライと、それに対峙する少女の探索者の姿があった。
「っ!?」
「…………」
少女の視線がこちらを向いたタイミングで、俺は無言のまま何も持っていない右手をまっすぐにあげ、交戦の意思がないことを表明する。すると少女はすぐに俺から視線を切り、再び戦闘に集中し始めた。
「魔法系のスキル持ちなんだろうけど……何だあの目立つ格好? それにソロは珍しいな」
「マスターが言っても何の説得力もないデスよ? それに凄い魔法デス! ブックバタフライの攻撃を完封してるデス!」
なんちゃってメイド服を身に纏うゴーレムを引き連れたソロ探索者である俺の存在の是非はともかくとして、俺は目の前の相手を分析する。
身長は俺とゴレミの間くらいなので、目算だとおそらく一五〇センチちょいってところだろう。肩より少し下まで伸びている輝くような金色の髪にはやや巻き癖がついており、その身に纏うのは場違いにファンシーなピンク色のドレス。
まあローブだろうがドレスだろうが魔法がかかってりゃ同じなんだろうから、きっとそういう趣味なんだろう。少なくともなんちゃってメイド服を着た相棒を連れている俺に、他人の服装をどうこう言う権利はない。
そしてそんな奇抜な服装より目につくのは、少女が使っている魔法だ。まるででかい<天啓の窓>のように少女の前に広がる赤い長方形の膜は、真横から見れば存在しているのがわからないくらいの薄さにも関わらず、ブックバタフライの打ち出す火の玉を完全に受け止め無効化している。
「ヤバそうだったら助けようかとも思ったけど、こりゃいらねー心配だな。すぐ終わるだろうし、少し待つぞ」
「了解デス」
魔法系のスキルを発動するには「溜め」が必要なものもあるらしいが、あそこまで完全に攻撃を防げているなら、時間なんていくらでも稼げるだろう。俺達が大人しく様子をうかがっていると、程なくして少女は火の膜を展開したまま、その右手に燃え盛る火球を出現させる。
「これで終わりなのじゃ! ファイヤーボール!」
少女が振りかぶり、火球をブックバタフライに向かって投げつけ……
ぽてん
「「あっ」」
ボフーン!
三〇センチほど飛んでヒョロリと落ちた火球が、少女の足下で炸裂した。
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