出会ったばかりの名コンビ
「来いよネズ公! 武器なんか捨ててかかってこいデス!」
「いや、武器なんか最初から持ってねーだろ……」
訳のわからないことを口走りながらジャイアントラットを挑発するゴレミに、俺は背後から突っ込みをいれる。するとそんなやりとりを一切気にしていないであろうジャイアントラットが、次の瞬間ゴレミに向かって飛びかかっていった。
「ヂュアアアア!」
全長七、八〇センチくらいあるジャイアントラット最大の武器は、肥大した前歯。その力は人の皮膚を容易く食い破り、運が悪いと骨まで届く大怪我を負うこともある。
だがゴレミは無造作に腕を前に突き出し、ジャイアントラットがそこに牙を突き立てると――
「ヂュゥゥゥゥ!?」
「フフーン! ゴレミが磨き上げた乙女の柔肌は、そんなものじゃかすり傷一つつかないデスー!」
柔肌の定義は甚だ疑問だが、自慢の牙がへし折れたことでジャイアントラットが情けない鳴き声をあげる。悶絶するジャイアントラットがその勢いのままに再び飛びかかってきたが、ゴレミは冷静にカウンターの拳を振り抜いた。
「これで終わりデス! ゴレミパーンチ!」
「ヂュゥゥゥゥ!」
断末魔の悲鳴を残し、ジャイアントラットがブチャッと吹き飛ぶ。辺りに鉄錆の臭いが充満すると、血と臓物を浴びたゴレミが振り返り、ニッコリ笑って指を二本立てた。
「イエーイ! どうデスかマスター? ゴレミにかかればこのくらい楽勝なのデス!」
「おう、お疲れさん。一応聞くけど、怪我とかは大丈夫か?」
「はい、何の問題もないデス!」
「そうか。硬いとは思ってたけど、攻撃力もこれだけあるのか……流石はゴーレムだな」
昨日は俺自身が魔力の使いすぎでヘロヘロになっていたこともあり、ひたすら戦闘を避けてダンジョンからの脱出を優先してた。なのでゴレミが戦うところを見るのはこれが初めてだったんだが、ここまで危なげない勝利を収められるなら、背中を任せるに十分だろう。
と、俺がそんな風に感心していると、ゴレミの体を汚していたジャイアントラットの残骸がスッと消えていく。流石に臭いまでは消えないが、メイド服に染みていた血の痕跡すら綺麗に消えるのは本当に不思議だ。
「ふぅ、スッキリデス! ではマスター、次の獲物を探しますか?」
「そうだな……にしても、もう一ヶ月経つってのに、未だに魔物の消え方には慣れねーな」
「そう言えば、ダンジョンの外では死体は消えないんでしたっけ?」
「ああ、そうだぜ。てか、逆だ。ダンジョンのなかでだけ消えるんだよ」
ダンジョンのなかでは、人だろうと魔物だろうと、死んだらこうして消えてしまう。何故そうなるのかは未だに解明されていないが、俺みたいな駆け出しの探索者にとって、重要なのは「死んだら消える」という事実だけだ。
なお、俺達の装備品……ダンジョンの外から持ち込まれた物に関しては、死んでも消えない。ゴブリンが持ってる棍棒はゴブリンが死ねば消えるけど、俺が持ってる剣は俺が死ぬと床に転がるだけで消えないわけだな。
またごく希にだが、魔物の体の一部が消えずに残ることもある。これは「ドロップアイテム」と呼ばれ、外の魔物から剥ぎ取る素材に比べ、含有される魔力量が多くて上質なものになるという特徴がある。
なのでダンジョンでの主な稼ぎは魔物を倒せば必ず手に入る魔石の売却が基本となり、たまにドロップアイテムが手に入れば装備を更新したり酒場で豪遊。もし価値の高いお宝を手に入れることができたなら、自分で使って英雄になるか、売って大富豪になるかを選べるって感じだな。
「あ、マスター! 次のお客さんが来たようデスよ?」
「おっと、そうか」
軽く物思いにふけっていると、通路の奥から新たなジャイアントラットがやってきていたようだ。この<
「どうしますか? またゴレミがちょっといいところを見せてもいいデスけど」
「いや、今度は俺がやるよ。ゴレミは後ろで見て、自分が一緒に戦うならどう動くのがいいかを考えといてくれ」
「了解デス! ではマスター、ご武運を!」
「ハッ、そんな大層な敵じゃねーけどな」
大仰な送り出しを受けて、俺は数歩前に出る。すると角から顔を出したばかりのジャイアントラットがこちらに気づき、威嚇するように声を上げる。
「ヂュァァァァァァァァ!!!」
「先手必勝! 食らえ、歯車スプラッシュ!」
敵が動き出すのを待ってやる義理などない。俺は素早く手の中に歯車を生みだし、ジャイアントラットの顔面目掛けて投げつける。するとジャイアントラットは嫌そうに身をよじるので、その隙に俺は腰の剣を抜き、素早くジャイアントラットに斬りつける。
「死にさらせ!」
「ヂュアッ!」
だが踏み込みが浅かったのか、身をよじったジャイアントラットの体に深い傷を負わせたものの、倒し切れてはいない。痛みと怒りで激しく暴れるジャイアントラットが俺に飛びかかろうとするが……
「甘い! 回れ、歯車トラップ!」
「ヂュアア!?」
足下に転がる歯車が突然クルクル回り始めたことで、行動を阻害されたジャイアントラットがあたふたする。そこに今度はきっちり剣を突き立て、眉間を貫かれたジャイアントラットはあっさりと絶命し、その姿が見つけるのが困難なほどに極小の魔石へと変わった。
「ハッハー! 大勝利だぜ! どうだゴレミ、この俺の素晴らしく知的で華麗な戦い方は?」
「素晴らしいデス! こんな斬新な歯車の使い方、きっとマスターじゃないと思いつかないデス!」
「そ、そうか? 何か照れる……あー、すまん。実はこれ、リエラさんが教えてくれたんだ」
他人の手柄を、ましてやいつもお世話になっている人の発想を自分の物のように語るのは、流石に恥知らず過ぎる。苦笑しながら言う俺に、ゴレミが驚いたように目を見開く。
「えっ、これリエラが考えたデスか!? 普通に頭のいい人かと思ってましたが、こんなアホな戦い方を思いつくなんて……」
「ん? 何か言ったか?」
「何でもないデス! 教えたリエラも、それを実行してるマスターも心底凄いと思っただけデス」
「そうかそうか! いやでも、ゴレミだって十分凄いぞ? なら次は一緒に戦ってみるか。とりあえずゴレミが前衛で敵を引きつけて、俺が攻撃するって感じで」
「ガッテン承知の助デス!」
「ショーチノスケ……?」
何故人名を叫んだのかはわからないが、ゴレミが訳のわからんことを言うのはたった半日で当たり前のこととなったので、俺は気にせずダンジョン探索に戻る。第一層は人こそ多いが、その大半は通り過ぎるだけなので、獲物には困らない。
「ゴレミの体に触れていいのはマスターだけなのですが、今だけサービスデス! マスター!」
「任せろ!」
両腕にジャイアントラットを噛みつかせたゴレミが、俺の名を呼びながらブンと勢いよく腕を振るう。すると一ミリたりとも歯を食い込ませることのできなかったジャイアントラットは情けなく宙を舞い、そこをすかさず俺の剣が斬りつける。
「ヂュァァ!?」
「お代わりデス!」
「上等!」
次いで飛んできたジャイアントラットも、危なげなく切り捨てる。増援がないことを確認すると、俺はゴレミと顔を見合わせ笑い合う。
「スゲーなゴレミ、盾役もバッチリじゃねーか」
「当然デス! ゴレミの愛の前では、泥棒猫はマスターに近寄れもしないのデス!」
「猫じゃなくてネズミだけどな。んじゃ、この調子で連戦いっとくか」
「ガンガンいこうぜデス!」
コツンと拳を打ち付け合った俺達は、その勢いのまま更なる敵を求めてダンジョンを彷徨うのだった。
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