夢見る(ねぼけた)乙女の主張

※※※※※※


「あっ…………」


 夜の宿。ほのかな明かりが照らし出す密室で、敏感な乙女の柔肌を触れられた少女が、少し年上の少年を前に思わず艶のある声を漏らしてしまう。


「マスター、ワタシは初めてなんデスから、もっと優しくしてください……」


「お、おぅ。いや俺だって、こんなの初めてだし……」


「フフッ、そうなんデスか? なら初めて同士デスね」


 緊張で震える男の指先を自らの肌で感じ取り、少女は無垢と妖艶の相反する雰囲気の合わさった笑みを浮かべる。すると少年は照れ隠しのつもりか、少しだけその指に力を込めた。


「あんっ! マスター……」


「ご、ごめん! でもこれ、なかなか入らないっていうか……」


 自らの硬いモノがなかなか上手に少女の穴に入らず、責めるような声を上げた少女に少年が焦った様子を見せる。そんな少年を愛おしく感じて、少女はそっと少年の手を取った。


「ほら、ここデス。焦らなくていいデスから、しっかり入れてください」


「わかってるって! いくぞ……ふんっ!」


「んっ……」


「どうした? 大丈夫か?」


「ちょっと痛かったけど、平気デス。だからそのまま奥まで押し込んでください」


「なら、グッといくぞ」


「っ……ふぅ…………」


 少年の押し込んだ硬いモノが、やがて確かめるようにゆっくりと動き出す。その動きは徐々に激しくなっていき……そして最後に少年の放ったものが、少女の胎内に熱いほとばしりを広げていった。


「はぁ……はぁ…………ど、どうだ?」


「初めてにしては、とっても上手だったデスよ? ワタシのなか、マスターのでいっぱいデス……」


 一仕事終えて汗を拭く少年に、少女はそっと自分の腹をさすりながら優しく微笑むのだった。


※※※※※※





「……ということがあったのデスよ!」


「ねーよボケ!」


 俺が本日の探索票を書き込んでいる間にリエラさんに適当なことを吹き込んでいたクソガキゴーレムの背後から忍び寄り、その首に腕を巻き付け締め上げる。するとゴレミは平然と振り返り、俺に向かって余裕たっぷりの笑みを浮かべて答えた。


「何デスかマスター? 朝から甘えてくるなんて、ひょっとして当ててるんデス?」


「締めてるんだよ! くっそ微塵も効いちゃいねぇ!」


 相手は石の塊なので、一方的に俺の腕が痛めつけられているだけだ。こいつを黙らせる手段は早急に考えるとして……問題は凍り付いたような営業スマイルを浮かべている目の前の女性だ。


「お二人は本当に仲がよろしいんですね?」


「ち、違うんですよリエラさん! 俺はただ……」


「マスターがボロンと出した硬いモノを、ゴレミの穴に突っ込んで激しく動かしただけデスよね?」


「言い方ぁ! 魔力! 魔力を補給しただけですから!」


 ゴレミはゴーレムなので、魔力がなければ動けない。そしてその補給手段は限定通路にあった仕掛けと同じく、ゴレミのへその位置にある穴に俺の歯車を押し込み、回転させるというものだ。ただそれだけのことであり、それ以外の他意は断じてない――


「――と言うワケなんです! 俺にやましいところなんてこれっぽっちもないですから!」


「えー? 乙女の柔肌をまさぐっておいて……」


「だから言い方ぁ! てか何が柔肌だよ、一〇〇パーセント総天然石じゃねーか! ゴッツゴツやぞ!」


「ゴツゴツなんてしてないデスー! ゴレミのボディは魅惑のツルスベなんデスー!」


「あははは……お二人は本当に仲がいいですよね。昨日知り合ったばっかりとはとても思えません」


「フッフッフ、ゴレミとマスターは魂で繋がる一子相伝なのデス! ……あれ? 一刀両断?」


「真っ二つじゃねーか! あー……何だ? 以心伝心?」


「そう! それデス! 流石はマスター、わかってますね?」


「まあな! このくらい――」


「あの、すみませんクルトさん。後ろもつかえているので、そろそろ……」


「アッハイ、すみません。じゃあこれお願いします」


 昨日に続いてアホなやりとりで人生を浪費してしまった。呆れた顔をするリエラさんに謝罪しつつ、俺は持ってきた探索票を渡す。するとその内容を確認してから、リエラさんが改めて口を開いた。


 ちなみに、探索票というのは今日は何処に行って何をするかを、簡単に纏めたものだ。絶対に出す必要があるものではないが、これをやっておくと何か問題が起きた時に「自分が何処で何をしているか」がわかるので、基本的には提出することが推奨されている。


「はい、確認します……今日の活動は第一層だけになりそうですか?」


 俺の差し出した探索票には、第一層でのジャイアントラットの討伐を主目的として書いてある。要はただのでかいネズミなので、腕試しをするにはちょうどいい相手だ。


「そうですね。まずはゴレミがどのくらい動けるのかを確かめて、今後の活度方針を決めようかと」


「ゴレミにお任せデス! でかいだけのネズミなんて、ゴレミパンチで一撃粉砕なのデス!」


 俺の隣で、ゴレミがシュッシュッと空気を殴ってみせる。どう見ても子供がはしゃいでいるようにしか見えないが、石の拳の破壊力はきっと相応にあることだろう。


「そうですか。確かに確認は大事ですからね……でもそういうことなら、ゴレミさんの装備はそのままでいいんですか?」


「あー、それは……」


 ゴレミの格好は、今も昨日と同じメイド服だ。どう考えてもダンジョンで戦う服装ではないが、これにはちゃんと事情がある。


「ゴレミは専用装備以外を身につけると、魔力の消費が跳ね上がってしまうのデス。マスターがすっころんだりしなければ、ちゃんと専用の武具があったんデスけど……」


「ぐぅぅ……わ、悪かったよ」


 ゴレミがジト目を向けてくるも、こればかりは俺が悪いので何とも言えない。実際あの時<天啓の窓>にサンプルとして表示されたゴレミの装備は要所に金属のあしらわれた上等なもので、俺が今着ている安物の革鎧よりずっと高そうなものだったのだ。


「なるほど、そんな事情が……じゃあひょっとして、武器も?」


「はい……まあでも、幸いにしてゴレミは石なんで、浅い階層であれば何とかなるかと」


 石の体は見るからに硬いし、石の拳は下手な鈍器より強そうに思える。それにあの時表示されたゴレミの武装のなかには、ナックルダスターを武器とした格闘用のものも含まれていた。それはつまり、ゴレミが近接格闘を可能とした存在であることを十分に裏付けている。


「魔力は多い方じゃないんで今は無理ですけど、<歯車>のスキルが成長すればいずれはもっとゴレミに魔力を充填できるようになるらしいですし、ならひとまずは自分の成長と合わせてゆっくりやっていくのがいいかなと」


「そうデス! 焦りは禁物デス! 遅いよりは早い方がマシとは言え、あまりにも早すぎるのは物足りなくてNTRされちゃうのデス!」


「えぬてぃー……何?」


「マスターが知る必要はないのデス! だってゴレミは未来永劫マスター一筋デスからね!」


「おぉぅ? まあいいけど……」


 何だろう? ゴーレムの機構に関する専門用語とかか? よくわからんが、知らなくていいというならいいんだろう。リエラさんが苦笑してるのは気になるが、俺の本能が「突っ込んだら負け」という警鐘を鳴らしてるしな。


「まあとにかくそんな感じなんで、今日は軽く一層を回る感じにしてきます」


「そうですか。お二人ともピッカピカの新人さんですから、慎重になるのはとてもいいと思いますよ。では、よき探索を」


「ありがとうございますリエラさん。行ってきます!」


「お土産を楽しみにしておくデス!」


「いや、お土産って……第一層で土産に出来そうなものなんて、レアドロップのネズミの尻尾くらいだぞ?」


「マスター……女性へのお土産にネズミの尻尾はあり得ないデスよ?」


「お前が言ったんじゃねーか! ったく……」


「ふふふ、行ってらっしゃい。お気をつけて」


 笑うリエラさんに見送られながら、俺達は受付を後にし、今日もまた死と栄光が隣り合わせな<底なし穴アンダーアビス>へと踏み込んでいくのだった。

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