track.5 パイ名行為

 私達リドレスは集客の為に、あらゆる情報を発信した。


 SNSは勿論、路上でもライブをやったり、普段働いているバイト先のスタッフや親しいお客さんにも声をかけた。


 その宣伝活動の中でも特に大きかったのが、キル姐さんのコネで知り合ったグラビアアイドル。

 何でもキル姐の大学時代の後輩らしく、紹介というより自宅へ押し掛けていった。


 在学中、後輩のグラドルはキル姐さんとよくコンパで飲み、酔いつぶれた姐さんを介抱していたので、知らない仲じゃない。

 けど、いざ自宅へ行ったら迷惑そうな顔をして、そこをキル姐が強引に押しきり、メンバー全員が家の敷居をまたいだのだ。


 まずは、みんなでお酒を飲み、互いに打ち解けあった。

 お酒が回りグラドルが上機嫌になったところで気分を持ち上げて、あろうことかビキニを着るよう仕向ける。

 出来上がってしまったグラドルは、二つ返事でOKを出し妖艶なビキニ姿へ。


 全てはキル姐さんの意のまま。

 姐さんには、ある秘策があった。


「この楽しい時間を写真に納めてSNSへ投稿して、見る人、全てに幸せを共有しよう」などと、たぶらかす。

 キル姐さんは密かにバンドメンバーへ指令を出した。


「お前ら、なるべくグラドルの胸に顔を寄せて写真に写れ」


 最初は何を言われてるのか解らないで、言われた通りに写真を撮った。

 SNSには『知り合いのグラドルと楽しく女子会をしました!』との文言で書き込み、写真をアップした。


 すると後日、あっという間に『よいね』が一万を越えてバズったのだ。

 これには私もリドレスのメンバーも驚いた。

 この勝算を確信していた、ただ一人を除いては……。


 キル姐さんの策はいたって単純。

 まずメンバー全員を盛りメイクで、とかく綺麗に見せる。

 ここまでは、SNSで見栄えよくする為の女子達による影の努力と変わらないが、そこへグラドルの豊満なバストという強力の武器を得る。

 グラドルの大きな胸を中心にメンバーの顔で四角よすみから囲む。

 これにより、アップされた写真を見た男性ユーザーが、真っ先にグラドルの巨乳に目を奪われる。


 その周辺を囲む私達、バンドメンバーの顔がサブリミナル効果の要領で、巨乳とセットでユーザーの目に焼き付けられる、と、姐さんは推測した。

 その目論見は数字として出てしまったのだから、頭が下がる思いだ。

 バズりで注目された私達は、そこでようやくライブの宣伝を投稿。


 一部では、この活動を『パイ名行為』なんて揶揄されたけど、売れる為の集客に必死な私達は、まさにパイにもすがる思いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る