track.4 メイクアップ・ガール

 私は衣装の作成を担うハゼロに抗議した。


「ハゼロ! なんで私の衣裳だけ露出が高いんですか!?」


「ん~、キルの注文オーダーだったから、私に言われても……」


 と、ハゼロは横目でキル姐さんを指した。

リーダーのキルは、さも当然とばかりに答える。


「アンタは身体が細くて衣裳を着ると、スタイルが良くて映えるんだよ」


「納得できません! 私よりもキル姐さんが着ればいいじゃないですか?」


「あー……ほら? アタシが着てもステージの脇で演奏するから、せっかくの衣裳が見せつけられないだろ?」


 ドラムスのハゼロが余計な一言を添える。


「キルはお正月に実家へ帰ったら、肉付きがよくなりすぎちゃってね。派手な衣裳でボディラインを隠してるんだよ」


「言うな!?」


 私達がステージに立つ時間が迫っているにも関わらず、話は平行線。

 業を煮やしたキル姐は、なりふり構わず事を進める。


「え~い! こうなりゃ、お前の服を無理矢理にでも破いて衣裳を着せてやる! ハゼロ、手伝え!」


「アイ、サー!」


 私はメンバー二人に両脇を抱えられて、鏡台の前へ強引に連れて行かれた。


「やめれぇえー!!?」


 鏡台の椅子へ押し込められると、ドラム兼メイク担当のハゼロが椅子を勢いよく回転させた。


「それぇーー!」


「いやぁぁああ!! 目が回るとぉおーー!?」


 椅子に座る私がミキサーのように高速で回された後、メンバー二人が手を当てて椅子を止める。

 すると、いつの間にか私のメイクは終わっていた。


 メイク担当のハゼロが満面の笑みで一言。


「はい、できた」


 目の前に知らない別人がいた。

 私は夢見心地で自身の頬を撫でながら呟いた。


「これが……私?」


 アイプチで二重になり半目で隠れていた瞳は、満月のように丸くなった。

 ファンデーションでソバカスは消え、ちょっと寝癖に見える髪は茶髪に染められブローがかけられると、愛らしい見栄えになった。

 さらに盛られたのが、茶髪に紫の線が混じるエクステを、つむじから左へ垂らして個性を強調させた。

 唇は赤く塗られサクランボのようなつやを見せる。


 キル姐さんが感心しながら言った。


「おぉ~! 予想以上のデキだな?」


 ハゼロが胸を張って言う。


「自信作!」


 キルの悪ノリにハゼロが突っ込む。


「ヤベーよ。可愛かわい過ぎて、興奮してきたぁぁああー!!」


「アンタは発情した中坊か!?」


 はっ、とさせられて視線を少し落とすと、恥ずかしさで自分の両肩を抱き締め、前屈みになって身体を隠す。


 胸こそ紫色を基調にした衣装で隠れているものの、鎖骨から肩にかけて明け広げている為、色白の肌は大胆に露出。

 立ち上がるとコルセットのような服が腰を締め付け、体型が自分から見ても、まる解りになってしまう。


 下半身はバレリーナが着るチュチュのような短いスカートで、太ももは上が四分の一ほどしか隠れていない。

 膝下まで覆う黒いブーツはピンヒールのように高く、全身のバランスがとりずらく、安定して立てない。


 どえらいどころか、どエロいことになってしまった。


 隠す身体をよじりながら、キル姐さんに反抗。


「ななな、なんですかぁあー、これは!?」


「思ったとおり、大人の女に変身できたなぁ」


「方向性がおかしいですぅ!?」


 話は進み続け、キル、ハゼロ、ビッチが私に気合いを入れる為か、各々が名前を呼ぶ。


「よっしゃぁ! 行けるな? エラ」


「エラちゃん頑張ろう!」


「エラ。金貸して」


 思わず叫んでしまった。


「もうぉ! その呼び方止めてよぉ!」


 私の顔がエラが張って見えるからエラかと思いきや、キル姐さんの解説では、


「良い名前じゃん? 【エラディケイト】 "根絶"を意味するバンドネームだ。なんかメタルっぽいだろ?」


「発想が中学男子なんですよぉ!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る