track.3 リドレス
彼女はベースギターとコーラスを担当する【ビッチ】
本名、
赤髪のレイヤーボブに衣装は着物と黒のパーティードレスを合わせた独特のスタイルで、ロングスカートは太ももの辺りまでスリットが入り、腕を振ると、たなびくくらいの長さを持つ袖丈。
袴の変わりに腰をベルトで締め付けて、胸元で交差させた袴地は、少し広げてバストの大きさを強調させていた。
つけまつ毛はやたら前面に尖っていて、まるでローマ軍の密集陣形ファランクスにおける、無数の槍が突き出した形をなしている。
女性としての魅惑はメンバーの中でもぐんを抜いていた。
以前は、このバンドのベース兼ボーカルを担当してたけど、付き合っていた彼氏との間に子供が出来てしまい、出産の為にバンドを辞めた。
彼女はバンドに戻るつもりはなかったけど、なんと無責任にも彼氏が姿を消してしまい、シングルマザーとなってしまった。
赤子を抱えての生活も苦難の連続。
仕事先のパートへ行くにも、赤ちゃんを置いてはいけない。
そこで頼ったのが元いたバンドだった。
戻って来て早々、険悪な空気になったけど、バンドの方も楽器の経験者が足りず、思うように活動が出来なかったから、迎え入れざる得なかった。
キル姐さんがビッチへ詰めより、人差し指で赤ちゃんを差しながら言う。
「これから先、どこのライブハウスにも、このガキ連れ回すのか? ツアーとかやる時、出先でこんな泣かれたら活動なんてやってられねぇぞ!?」
「しょうがないでしょ! 私は実家と仲悪いし、都会に知り合はいないから頼れる人がいないのよ。それとも、この子を家に置いて飢え死にさせろって言うの!?」
「誰もそんなこと言ってねぇだろ!」
すると、いつの間にか泣きやんだ赤ちゃんが、キル姐さんの指を不思議そうに眺めながら、口を大きく開けて、彼女の指先にハムッと食らいつく。
はぅ!?
姐さんは膨らんだ袋が萎むように、気の抜けた声を発して黙った。
そして赤ちゃんへ目を落とすと、その目は愛おし物を見る目に変わっていた。
リーダーのキル姐さんはビッチへ返す。
「年内……まぁ、長くても来年にはなんとかしろよ」
見た目とは裏腹に、キル姐さんは母性愛に溢れている人物だ。
クセ者ぞろいのメンバーが結成した【リドレス】
「世界を音楽で作り変え希望へ導く」を目標に、音楽活動する四人組ガールズ・メタルバンドだ。
元々は音楽活動をしていた三人、リーダーのキル。ドラムスのハゼロ。ベースのビッチが作った「
ビッチがボーカルを務めていたけど、例のごとく妊娠を機に彼女が脱退。
キルとハゼロの二人だけになってしまい、音楽活動の方向性がままならなくなった。
二人がバンドの将来を模索している時、たまたま路上でライブをしていた私こと、ヨシ・イクヨに目を付けてボーカルへスカウトとしたのが
私がボーカルとして定着し始めた頃に、彼氏に逃げられたビッチが、出産後にバンドへ戻って来た。
メンバー不足もあり、ビッチの復帰は自然に進んだ。
心機一転、バンド名を「
私がライブをやる
こんな、かろうじて胸と腰しか隠れない衣装を着るなんて、私は絶対にイヤだ!!
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