track.2 オルタナティブ・ガールズ

 私の尊厳を無視して一方的に圧をかけてくる女性。

 ド金髪のストレートヘアーは両サイドに反り込みを入れ、ピアスの付いた耳をさらしている。

 

 見るからに怖い。

 服もドが付く派手な深紅のドレス。

 そのドレスの眩さと言ったら、記者がスキャンダルを起こしたタレントへ、容赦なく放つカメラのフラッシュのようなラメで飾られている。

 後ろを振り替えれば、背中がザックリと開かれ小麦色の肌が丸見え。

 

 どうみても水商売の人にしか見えない、この人がリーダー兼リードギターの【キル】

 本名、極城ゴクジョウリツ、二五歳。


 彼女のファンはキル姐さん、キル姐の愛称で慕っている。


 今日は私が、このバンドへ入って初めてステージに立つ日。

 リーダーのキル姐さんは前日まで「アンタは素のままでいいよ」と、言っていたのに、いざライブハウスへ来たら豹変、会場内で私を追いかけ回して、バンドの衣裳を着せようと躍起になった。


 まぁ、あらかじめ知っていたら逃げていたと思うけど……。


 私を引っ掴み、キル姐さんが怒鳴る。


「アタシらが売れる為だ! 嫌がるなら無理矢理、服を剥いで着せてやる!!」


「いやぁぁぁあああーっ!!?」


 楽屋のドアを勢いよく開け、中へ入って来た新たな女性は、真っ青な顔をして聞く。


「ちょ、ちょっと!? 痴漢にでもあったような悲鳴が聞こえて来たけど、何やってんの?」


「こいつがバンドの衣裳を着ねぇって、ダダこねてんだよ」


「あー……まぁ、頑張って」


 見捨てられた……。


 私を助けてくれなかった、この人は、ドラムスの【ハゼロ】

 本名、彩鳩サイバトアカネ、二三歳。

 

 青髪のツインテールに加え、衣装が奇抜で白いフレンチメイド服の上から、コバルトのライダースジャケットを着ている。

 バンドでは嵐のようなスティックさばきを見せつけ、観客を魅了する。


 それとは別に、ライブでは度数の高いお酒を吹いて火を着ける、過激なパフォーマンスで場を湧かせた狂人でもある。

 そんな彼女、バンド活動がない日は就職活動をしながら資格の勉強に励む、かなりの真面目キャラだ。


 三歳でドラムに触れるも十代の時は、地下アイドルとして活躍していたらしいけど、本人いわく黒歴史らしい。



 その後ろで赤ちゃんが噴火したように大泣きしていて、ソファーに腰を下ろす母親が困り顔であやしていた。


「泣かないで~。大きな声がしたからビックリしちゃったね~?」


 キル姐さんが母親へ、イラ立ちをぶつける。


「おい、ビッチ! 前にも言ったろ? ウチのバンドは託児所じゃねぇって?」


「保育園はどこも定員割れで入れないんだもん。大丈夫よ。年内には入れる所を見つけるから」

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