リドレス・ヘッドバンギング

にのい・しち

track.1 オラ都会さ来ただ

《さぁ、虹色のスプレーで夢を描こう自分の願い。

壁に描いた大きな世界。

広がり続ける輝く未来。

ほら、これで同じ夢が見られるよ。

みんなで描き足して行こう自由な夢》


 これが一ヶ月前の私。

 高校を卒業して田舎から癒し系歌手を目指し、東京へ上京して来た【ヨシ・イクヨ】十八歳は、駅前でキーボードを弾きながら路上ライブして、声を張り上げ必死に素通りする人へ、私の歌が届くように願いを込めていた。


 そりゃぁ、帰宅ラッシュの駅だもん。

 誰だって早く家路につきたいよ。

 それに、今の私の服装は古着コーデに黒いオカッパ頭。

 大きめのパーカーを着て、ダボついたジーパンを履いている田舎娘丸出しの女。

 顔面はエラが張って膨らんで見える丸顔。

 おまけにソバカスだらけで、こんなんじゃ、興味なんて惹き付けられるはずがない。


 そう、みんな私に興味なんて……。


 実家に居た時はネットの動画サイトへ、自分の弾き語りに歌を乗せて配信していた。

 アクセス数はいつも一桁。


 家のパソコンを眺め、伸びない数字とにらめっこしても、モヤモヤが積もりばかり。

 じっとしてられなくなって、小さな自室から飛び出し、画面の先にある世界へ飛び込みたくなった。


 私は癒し系歌手になりたい。

 自分が受けた感動を、世界中の人に伝えたい。

 夢を実現するには、ただひたすら行動あるのみ。

 画面から聞こえてくる音じゃ、きっとこの思いは伝わらない。

 私の生の声で直接、誰かに思いを届けないと!

 

 それがお花畑脳だったのは、都会ここに来て、痛いほど身に染みている。

 歌声も楽器を引く技術も、まんま素人のオリジナルソングなんて、聞く価値がないよね。

 実家のパソコンで配信して時よりヒドイことになってる……。


 またモヤモヤが積もり、何もかもゼロからやり直してみようと決心した。


 そんな私が新しく始めたことは――――。


「絶対にムリですぅっ!!!」


「つべこべ言ってないで早く着替えろよ! もうすぐ、アタシらの出番が来るだろがぁ!!」


「私はこんなエッチな衣装、着れません!!」

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