第16話

 フジイチが連れ去られた場所は、平地の真ん中だった。一応、フジイチのマップ上では来た道が記されているが、あまりにも遠いので、一人で帰れる気がしなった。


「あの、街に帰してくれませんか?」

「んー、君が俺とフレンドになってくれたらね。とりあえずさ」


 シトリが一呼吸置くと、地面からわらわらと魔物が現れた。《挑発》して、おびき寄せたのだ。


「俺が有能だってこと見せてあげるね」


 フジイチに対して、シトリがパチリとウィンクする。そのきざな仕草にフジイチは心の中で舌を出すが、表情には出さなかった。

 現れた魔物は爬虫類のように光沢のある鱗と鋭い爪があり、目は黒く染まっていて、背中にふさふさの毛が生えていた。少し尖った鼻がヒクヒクと動いていた。

 フジイチが《鑑定》すると、クレジモグラと表示された。


 クレジモグラは素早くシトリに突っ込み、爪でひっかく。シトリは高く飛んで、その攻撃をかわす。更に《誘導》で別のクレジモグラを、残った攻撃の残像に当てて、ダメージを入れて、着地する。

 また攻撃を受けると、シトリはジャンプして避けるという事を繰り返す。フジイチはその身軽さに、少しだけと言い訳しながら、カッコいい事を認めた。


「ほらフジイチ君、どんどん攻撃していいよ」

「あ、はい」


 フジイチは、ターゲットを捕捉して、《魔法分裂》を使いながら、ファイアと唱えて炎の為を打つ。炎は3つに分裂して、クレジモグラ2匹にあたり、1つは地面に落ちた。


「おっと、こっちだよ」


 フジイチに向かったヘイトをシトリが斬撃で攻撃して、自分に集中させる。

 おかげでフジイチは魔法を多発出来た。しかしクレジモグラのレベルが高く、1匹も倒せずフジイチのMPが無くなり、シトリが一回の斬撃で、全てのクレジモグラの頭を落として倒した。

 あっという間に辺り一帯の魔物を倒した事に思わずフジイチは拍手した。


「あれ?アイテム落とさないね?」

「…すみません、俺のスキルのせいです」


 アイテム取得の表示が出ないので、シトリが首を傾げた。フジイチは気まずそうに目を逸らしながら答えた。


「《貯蓄(運)》がスキルにあります」

「え?えぇ?そんなスキル取ったんだぁ…」


 遠い目をしたシトリにアハハとフジイチは空笑いする。その笑いにシトリは


「ま、まぁ、アイテムなんて買えばいいしね」


 と、励ます。その言葉に、フジイチは「そうですよね」と、相槌を打った。


「それはそれとして」


 シトリはそう前置きして、話を変える。


「で、どう?フレンドになってくれる?」

「…俺に選択肢は無いでしょ?」

「まぁね」


 にこやかな笑顔にフジイチはため息をついて、シトリとフレンドになる。

 もしフジイチが許可しなければ、シトリが直接攻撃してフジイチをキルするかもしれないし、《挑発》で魔物を呼びだして放置するかもしれない。そんな風にフジイチは予測しながら、デスペナよりは良いかと妥協して許可したのだった。

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