第6話

 ようやくそれぞれの既定のアイテムを1つずつ取得したフジイチは、レベルが10に上がった。ファイアの魔法も5レベルになって威力も増した。

 レベルが1上がるとスキルポイントが5ほど貰え、レベルが10になると別の職業に転職出来る。

 取得したスキルポイントは、45ポイント。レイミャーコのアドバイス通りに取得したスキルは《魔法基礎》、《鑑定》、《短距離射程》、《魔法分裂》で残りポイントが2。

《魔法基礎》のお陰で、アイスとウィング、ダークを覚えた。《鑑定》で名前が分かるようになり、《短距離射程》で当たる確率が高くなり、《魔法分裂》で1つの魔法を撃ったとき、確率でMPは減らずに魔法が2つに分かれて別の魔物に当たるというものだ。

 聖職者に転職し、ライトとヒール、クリーンを覚えた。魔法使いの帽子は装備出来なくなり、レイミャーコから聖者の帽子を貰った。布のキャプリーヌのようなつばが広くて聖者の帽子はVIT+20、MND+20が上がる装備だ。


「ようやく、ようやく」


 揃ったアイテムを見て遠い目をするレイミャーコとフジイチ。昼に街を出た筈が、ゲーム内では既に夜。

 2人は周りが暗いため、1回街に戻って宿を取る事にした。


 宿は、旅館と書かれた提灯が灯って、入口の脇には盆栽が飾ってある。


「ここは街1番の宿だから、めっちゃ料金やばいからね」


 レイミャーコに囁かれたように言われて、フジイチはガチガチに体を固まらせ、ロボットのように動きながら彼女の後をついていく。その様子をレイミャーコはほくそ笑みながら、ガラリとガラス張りの引き戸を開ける。

 床は畳になっており、2人は靴を脱いで上がった。近くに控えていた和装をしたプレイヤー、髪を団子状に結んだ和風美人が近くに寄って、頭を下げ、ニコリと笑った。和風美人は、豪華な簪を髪に差していた。レイミャーコが、フジイチの耳元で「彼女がここの女将」と教えた。

 女将の近くにいた別のプレイヤーが2人の靴を邪魔にならない端に寄せる。


「いらっしゃいませ。レイミャーコ様、今日はどのようになさいますか?」

「んー、明日の朝には出るけど、夕食と朝食お願い出来る?」

「はい、分かりました。お部屋はどうしましょうか?」

「いつもの部屋にもう一つ布団をひいておいて」

「かしこまりました。では、此方へどうぞ」


 女将の案内で部屋に通された。フジイチは、部屋に行く前も行った後も物珍しいそうに視線を動かしている。


「ではごゆっくり、どうぞ」


 そう言って女将は部屋を出ると、緊張の糸が切れたフジイチはズルズルと座り込む。

 案内された部屋は、18畳ほどの大きさで床の間には掛け軸や生け花が飾ってあった。


「もう来ないとしても、1度は体験しておいた方が良いかなって思っただけだから、別にそんなに堅苦しく思わなくて良いんだけど」


 レイミャーコの言葉にフジイチはだったら一番高いとか言わないで欲しかったと、ムッとする。


「お風呂入るんだったら、露天風呂もあるよ。障子を開けてみ」


 フジイチは言われた通りに障子を開けた先には、テーブルが置かれている縁側があり、さらにその先には石で作られた露天風呂があった。ししおどしで露天風呂にお湯を流していた。露天風呂は、周りから見えないように生垣で囲われている。


「すご」

「でしょ?そのお湯が流れる竹を見つけた私のお陰でこの宿が開けたんよ」


 フジイチは「すごいだろう」と、どや顔するレイミャーコをウザいなと感じながらも、そうだねと笑う。


「入る時は障子閉めてね。まぁ見られても良いなら別に閉めなくても良いけど」


 タオルは脇にあるから、とレイミャーコは生垣の近くにある籠に入ったタオルを指さした。


 フジイチは障子をしっかり閉めて、装備を外して裸になる。外の寒さにぶるりと体を震わせた。髪が湯に付かないようにタオルで纏める。

 入る前にレイミャーコの指示通り、魔法のクリーンで体を綺麗にしてから湯につかる。


「ふう」


 大きく息を吐いて空を見上げた。空には大きな月と星が広がっていた。


「あー気持ちいぃ」


 竹から流れるお湯は、少し硫黄臭く天然温泉に浸かっているようだった。

 フジイチは片手でお湯を掬いながら、湯舟から出ている肩にかけ、そのあったかさにホッとする。


 フジイチは、レイミャーコから声が掛けられるまで、露天風呂に入っていた。

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