女を好きになったのは多分初めて。

 男は確かにそう言った。

 私は、似ているのかも知れない、と思った。

 人を好きになったのは多分初めての私と。

 似ている同士で抱き合えないのか、と、自分に問うた。

 無理だ、と、すぐに私の中の誰かが答えた。

 なぜ無理なの、と、更に問いを重ねる。それは、必死で。だって、私はもう、一人ぼっちにはなりたくない。

 これまでだって、ずっとずっと一人だったけれど、香也との暮らしを知ってしまったから、これからの一人ぼっちは本気で辛いはずだ。なにも知らず、誰も知らず、ただ一人で歩くのが当たり前だった頃と比べて。

 大きな男が、私の目を覗き込んだまま、一人はさみしいよ、と囁いた。

 まるで私の頭の中を覗いているかのようなタイミングに、驚く。

 分かるよ、と、男はさらに言葉を添えた。

 「分かるよ、あんたは俺だもん。」

 あんたは俺。

 嘘だ。と、思う。

 人はそれぞれ孤立した個体なんだから、同じ人間なんて存在し得ない。

 頭の中ではそう思っているのに、さみしい身体が負けた。

 頷く。

 そうしては、いけないのに。

 すると、男は笑った。これまでで一番嬉しそうな笑い方だった。これまでの飄々と皮肉を交えた笑いではなく、素直な子供みたいな笑い方。

 「俺のになってよ。」

 それは、単純な提案というふうにしか響かなかった。

 心も身体も、感情のひとひらから爪の先、血の一滴までも求める、重い言葉であるのに、子供がお菓子を欲しがるみたいに聞こえた。

 多分、この大きな男には、分かっていないのだ。自分が求めているものが、なんであるのかなんて。

 「……責任、持てるの?」

 私の声は、やはり水気を失い、がさがさとひび割れていた。今日だけで、何十歳も年を取ってしまったみたいに。

 「責任?」

 大きな男はけろりと首を傾げた。

 「そう。責任。」

 私は大きな男の目から、自分のそれを引き剥がした。今からこの男を傷つけるのだと思うと、そうせずに入られなかった。だって、この男は無邪気すぎる。きっと、私よりも長くて深い孤独を味わってきたのだろう。たった一人で。それは、自分が欲するものの重さも分からなくなるくらいに。

 「あんたは、私の全部をほしいんでしょ?」

 「うん。」

 「心も身体も、何もかもでしょ。」

 「うん。」

 平然と頷く大きな男が、あまりにもいたいけに見えて、私は両手で顔を覆った。

 

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