第3章・湖のオアシス(3)
日は変わって、夜明けと共に
「よし」
服を着替え、髪を結い、朝食の準備を始めようとして、
「あ」
「ん?」
「あ。
「
道の向こうから
「あら。それ」
「はい。すみません。
「
「……
「これ、
「なーに言ってるんだか」
「え?」
キョトンとする
「それは
「どうした? 忘れものか?」
「忘れ物なんてある訳ないでしょ。全部診療所に置いてあるんだから」
「そうだよな。じゃあ、なんで……」
「お、おはようございます。
「おはよう。早いな。で?」
「あんたからも言ってやって!」
「まず、説明を……」
「
「あの、あのっ。
「あー、なるほどな」
「
「
「え……え? いえ、でも。私も
「
「てゆうか本当に? 本当に欲しいものないの?」
「欲しいものなんて……」
「これはあるわね」
「あるな」
「な、無いです! お
「あ、
「行っちゃったな」
「んあ?」
「あっ。ごめん、
「うんにゃ。大丈夫。おはよう。
「おはよう。
「んん。本当だ」
まだ寝ぼけ
「ねえ、
「ん?」
「
「いや。特に」
「そうだよね!」
鼻息荒く
「でも、
「え!? な、ない、よ?」
そう言った
「何かあったの?」
「なるほど」
「
「うーん。でも、
「わかった。村長に聞いてくる」
「へ? あ、
起き始めた村のあちこちで朝の挨拶が聞こえてくる。村長は自身の家の前で伸びをした。
「おはようございます。村長」
「おはよう」
井戸に用のある村人達が通り掛かる度に村長に挨拶をし、それに村長が返していると、
「村長」
「ああ、おはよう。
「おはようございます!」
「……なんだか今日は落ち着きがないね」
「すみません……」
「謝まられることでもないけどね。なにかあったのかい?」
「聞きたいことがありまして」
「かくかくしかじかでこの缶の中身の使い道について」
「ふむ。そうゆうことなら
「でも、でも、村の為に使った方がみんな助かる……」
「うーん。今、村はそんなに
村長が問い掛けると話を聞いていた村人達が
「そうですね」
「怖いことも不安なことも今は特に」
「水は今日も
「ご飯の心配もないし」
「足りないものは今のところないわよね」
村人達が
「それもこれも、君と
「え」
「君達が来て、村は救われた」
村長の言葉に
「それは、違います。みんなが私達を受け入れてくれたから。助けられたのは私達で……」
「も~。ぐだぐだうだうだとー」
いつの間にか
「
それは他人の気持ちを決め付けるような言動だったが村人達は笑う。
「そだねー」
「そうそう」
「ま、そういうことだ」
「
「ありがとうございます。私……。今、私には欲しいものがあります」
「よーし。そうと決まれば出掛けましょう!」
「え」
「い、今ですか?」
「善は急げよ。準備してくるわ」
「待った。
「そう。そうなんです」
「行ってくる」
「何考えてんだ?」
「何って何よ」
「
「村長も言ってたじゃない」
「何?」
「痛い目までとは行かなくても、ちょっとはひとりにされる気持ちが分かればいいんじゃないかと思って」
「出掛けるなら
「だから、ちょっと分かればなっていうアレよ。それに、
「それ、俺意味ないと思う」
「そう? ま、という訳で。留守番は任せたわよ。
「ん? 俺も行くんじゃないのか?」
「あんたには見張り役兼最終防衛ラインとして稼働して欲しいのよ」
「あんだって?」
「
「じゃ、
「それじゃ意味ないでしょ。
「つーか。それならお前じゃなくて俺が
「とにかく頼んだわよ」
「おーい。人の話を……。ああ、もう」
「
「んん?」
「どうしたの?」
「
「
「出掛けようって……」
「出掛けよう」
「缶の中身は私達が使うことになったんだけど」
「
「多分。私、何が欲しいとは言ってないんだけど……」
「行っといでよ」
「え」
「
「連れ……?」
「あれ? 違うの?」
「ちが……わないと思、う?」
「?」
「と、とりあえず
「そっか、いつ行くの?」
「すぐにでもって」
「そっか。気を付けてね」
「……」
「
「今の
「私は平気だよー。もう、後は回復するだけだもの」
「……」
「
「早く帰って来てね」
「うん。ありがとう。
戸を通り抜ける際に一度だけ振り返った
「うう……。寂しい」
そして、
その日の夜も
「
「寒……」
「……
「はーい」
人が近付いてくる気配がして顔を
「
「こんばんわ。
「こんばんわ。何かありました?」
「いや、ちょっと
「
「悪いな。付き合ってもらって。でも、もう寝てるかもとも思ってたから助かった」
「お役に立てるならこんな時間まで父、母と話し込んでるのも悪くなかったですね。それにしても」
「
「そうだな。
「畑を作ってる奴らは特に気にしてたんだなあ」
「ですね。
「
「はい。正直、
「そうだったか」
「まあ。私が期待し過ぎちゃっただけなんですけど……。まだ、起き上がるのも難しいみたいだったし」
「そうか。俺も帰って来てからは
「そうなんですか?」
「俺も
「そうですね。でも、
「……女の子がひとりで寝てるところに男がひとりで忍び込むのもどうかと思ってな」
「そんなこと気にしてたんですか? まったく知らない人って訳でもないですし。
「
「当然じゃないですか」
「俺がひとりで行ったって
「ああ」
「という訳で、ありがとな。
「いえ! お役に立てて光栄です!」
「
呼ばれて
「?
「ごめんね。私。
「……ああ、
「まだ、夜みたいだけど」
「昼に一度見に来ただけだから、一応ね。調子はどう?」
「んー。変わらず」
「そっかあ。ちょっと触るね」
そう言って、
「うん。異常なし」
「ありがとー。
「友達だもん。当然でしょ。それに今回は私だけじゃないんだ」
「?」
「よ。
「あれ?
「留守番を言い渡されたもんでな」
「へえ。なんでだろ?」
「
「本当ですね!」
意気投合する
「ちっせえ頭だなあ」
「悪かったね」
「あ、いや。今のは悪い意味じゃない」
「じゃあ、どういう意味さ」
「物理的な意味だ」
「ぶはっ!」
「す、すみませんっ」
「熱はないな」
「んー。ねえ、
「ん?」
「
「おいおい。まだ一日も
「送り出したはいいけどやっぱり寂しい……」
こっちはこっちで
「ま、すぐ帰って来るさ。
「はい!
青く
「……
起き上がろうとするも身体は重く、起き上がることができない。
「うう……」
薄茶色の空から
「
広場では
「
「まだしんどいのかなあ」
「久しぶりに会えた時は嬉しかったけど」
「ずっと寝てた
「大丈夫かなあ?」
子供達が全く自分の話を聞いていないことに
「
「
「調子はどうだ?」
「身体の方ならもう全然」
「そうか。ならいいけどな。子供達が心配してこっち見上げてるぞ」
「大丈夫大丈夫! 私は元気だよ」
「本当に?」
声を張る子供達に
「本当! 本当! 本当に!」
「じゃあ、一緒に遊ぼう!」
「え」
「その前に今日の分のお勉強だよ! 遊ぶのはそれからね!」
「じゃ、降りるか」
「うん」
「
「おっととと……」
着地によろけて
「
「大丈夫!?」
「
「確かに、遅すぎるか」
「
「ふぁい?」
「……
「な、情けない声なんて出してないやい!」
「涙目だぞ。お前」
「まだ気にしておきたいところはあるが、
「あいつらさすがにのんびりし過ぎだ。幸い今トリオも村にいて、もう一台の車がある。いいか?」
「うん!」
「行くのかい?」
「うん」
「気を付けて行っておいで」
「うん! いってきます!」
「なんかもうあのオアシスにいたのがすごく前のような気がする」
「さて、
「
「何!?」
「
「
走り寄って来る
「よう、
「
ふたりの顔を見て
「買い物は終わってるみたいだな。ん?」
「……何でこれがここにあるんだ?」
「あの楽器屋の前を通り掛かることがあって……。いらないって言ったんだけど押し付けられたのよ」
「買ったんじゃないのか」
「ねえ。これ組み立て式の
角材に触れる
「それは……。
「その
「……」
「
「説明、するけど。その前に付いて来て。見て
そう言うと
「
「分かった」
「なんか、さっきまでいたところと空気違うね」
「こっちは高級品を扱う店が多いから」
「なんでこんなところ来たんだ?」
「そろそろ来る頃かしら」
首を
「
けれど、人影は振り返らない。
「
何度呼んでも振り返らない。
「……
「人違いをされていますよ?」
「へ?」
青い髪の少女はニコッと笑う。
「失礼します」
少女は
「どういうことだ?」
「見た通りよ」
「で、どうゆうことだ? 他人の
「私が
「手首に
「だから言ってるじゃん! ああああぁぁ……」
「何が起こってる?」
「分からないから困ってるんじゃない」
「
魂の半分抜け掛けた
「
「同じこと言われるでしょうね。私もそうだったから」
「そうだったか。で? 分からないばっかりの中、分かってることもあると思っていいのか? 説明するって言ってたよな」
「それなんだけど」
「聞く……」
「ん?」
「
立ち上がった
「ぐえっ」
「落ち着け、
「状況? 状況って何?」
「そうだな。俺らが関わって
「……どうゆうこと?」
「想像力を働かせろ。例えどんなにあり得なさそうなことでも想定しておけ。危機回避能力は俺達にとって
「
「途方に
「情報によれば、
「あ? 記憶がないにしちゃ元気そうだったが」
「とりあえず、ここに来てから何をしたのか話してくれ」
「うん」
「私と
「お前の買い物?」
「子供達の服とかちょっと傷んできたから幾つか新調しようと思ったのよ!」
「ああ、うん」
情緒不安定な
「買い物が終わる頃には大分日が
「別行動したのか?」
「こんなことになるって分かってたらしなかったわよ!」
「ああ、うん。口
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