第2章(4)
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「アンナ! いい加減にしないか!」
明羽と氷呂がアンナと子供達と戯れているところに怒鳴り声が割って入る。ひとりの老人が明羽達に近付いて来ていた。
「お頭が許したから黙っていたがもう限界だ! そいつらは亜種だぞ! それ以上慣れ合うんじゃない! 離れるんだ!」
「まあ、おじいちゃんったら。あんまり急に大きな声出さないで。子供達がビックリしてるじゃない」
アンナの言う通り、先程までキャッキャと明るい顔をしていた子供達が今はアンナの影に隠れて老人の顔を窺っている。ただ、その顔はビックリというよりは楽しくしていたのを邪魔されて不満そうだった。
「ね。それに、明羽も氷呂も言い伝えられているような怖い亜種とは全然違うよ」
「騙されてるんだ! 見掛けに騙されちゃいかん! いいか、アンナ。子供達もよく聞け。亜種と言うのは」
「もう、おじいちゃん。また、長くなるやつ~?」
「黙って聞かんか!」
「え~。どうしよっかな?」
「アンナ!」
老人はいつの間にやら怒るよりも必死になっていて、それだけアンナと子供達のことを心配していることが分かって明羽と氷呂は敵対視されているにも拘らず目の前の老人を眺めてほっこりとした気持ちになる。必死の老人に対してアンナはのらりくらりと老人の言葉を受け流していた。
「謝花と似てると思ったけど」
「謝花じゃこうはいかないよね」
アンナと老人と、時々アンナに味方する子供達の姿を明羽と氷呂が生温かい目で眺めていると離れたところからざわつく声が伝播してきた。皆が目を向けている方角に明羽と氷呂も目を向ける。実働班として出て行った車が一台だけ戻って来るのが見えた。
「なんで一台だけ?」
明羽の呟きは警戒し始めた黒服達の衣擦れの音に掻き消される。その一糸乱れぬ動きは全員の意思が統一されている証明に他ならない。
「何かあったのかも。明羽と氷呂も警戒して」
「え? 私達も?」
アンナにそう言われたが明羽と氷呂が警戒する暇もなく、
「怪我人だ!」
という声が響いた。誰が怪我をしたのだと黒服達の間に戦慄が走る。しかし、怪我をしたのが仲間ではないと分かるとまたも言葉が波のように人から人へと流れて行き、奥から大きな鞄を持った、周囲より頭ひとつふたつみっつ分も背丈の飛び抜けた大男が人を掻き分けて前に出る。
「先生!」
先生と呼ばれた大男は戻って来た車の側まで行くと手早く鞄を開け、色々な道具を取り出す。取りだされた道具類は夏芽が診療所で使っているものとよく似ていたことから大男の正体に明羽はピンとくる。
「お医者さんか」
「先生は名医だよ」
明羽の呟きにアンナが得意そうに胸を張る。
「盗賊に襲われた商人達の中に生き残りがいたみたいだね」
「アンナ達も盗賊だよね」
「人助けもするんだね」
「言ったでしょう。私達は誰彼構わず襲ってるような品のない盗賊じゃないんだよ。そこら辺の盗賊と一緒にしないで」
じゃあ、どんな盗賊なのだと明羽は思ったが口にはしなかった。怪我人の手当てが終わって間もなく、お頭達も戻って来る。バイク部隊と残りのもう一台の車、そして、出る時にはなかった少し不格好に改造されたトラックを一台引き連れて。
「お頭! お帰りなさい!」
非戦闘員達に出迎えられてお頭は手を上げた。黒服達が歓声を上げる。そして、見慣れない改造されたトラックの運転席と助手席から下りて来たのは少なからず困惑した顔の男達だった。ふたりはどう見ても盗賊には見えず、生き残りの商人達だろうことが推測できた。トラックから降りたはいいもののその場から動かない商人の背をお頭がバシッと叩く。
「痛い!」
「みんな喜べ。同胞だ」
お頭のその一言から一拍の後、黒服達が商人達に群がった。
「西の町出身なのか?」
「私達もだよ!」
喜色満面で盗賊達に歓迎された商人達は最初こそ口が利けないような状態だったが先に手当の為に連れて来られていた他の商人達と合流すると一気に打ち解け始める。黒服達と商人達の交流を見ながら明羽はアンナに尋ねていた。
「西の町出身なの?」
「そうだよ。私達はみんな西の町出身」
「西の町出身なのが重要なの?」
明羽の質問にアンナは少し神妙な顔つきになった。
「明羽と氷呂は西の町についてどれだけ知ってる?」
「え? えっと……」
明羽はいつだったか標に聞いた話を思い出す。世界の中で西に位置し、人口が多いが故に四大都市のひとつにあげられているが治安は悪く、砂避けの壁もない。明羽に変わって氷呂が答える。
「話に聞いたことはあるけど。行ったことはないからそれ以上のことは知らないんだよね」
「そっか。明羽と氷呂が想像してるよりずっと、あの町は酷い場所だと思うよ」
目を伏せて言うアンナに明羽と氷呂は言葉を失う。
「でもね。だからなのかな。同じような境遇の中、助けたり助けられたり。私達の絆は異様に強いんだ」
「助けたり助けられたり?」
「そう、あの町で下っ端の私達にはお互いの助け合いが重要だからね。だから西の町出身だって聞いたら知らない人でも助けちゃう。こっちに助けるだけの余裕があるなら尚更」
笑いながら言うアンナの説明に呆れながらも明羽は感嘆する。
「すごい話だなあ」
「そう、お頭は凄いんだよ」
「いや、お頭がじゃなくて。いや、お頭もなんだけどアンナ達もさ」
明羽の言葉にアンナは首を横に振った。
「私達は強い光を持ってる人に魅せられて集まってるだけ。そして、そうゆう人達の側にいて少しでも手助けができたらって思ってるだけだよ」
「でも、付いて行くことを決めたのは自分達でしょう。十分すごいことだと思うけど」
アンナは明羽を見つめ返した。
「……ここにいるみんなは少なからずこの団に恩があるから。……明羽も人を引き付けるよね。お頭とはまた違うけど」
「え?」
明羽の側で氷呂がうんうん頷いた。
三人で話し込んでいると改造されたトラックの荷台に重そうなタンクが幾つも運び込まれる光景が明羽の目に映る。
「なんだろう?」
「あれは……。水だね」
「へ?」
明羽はアンナを勢いよく振り返っていた。
「水? 水ってあの水?」
「他にどんな水があったかな?」
すっとぼけるアンナに明羽は目を瞬かせる。確か今、お頭達は水が無くて移動を繰り返しているところではなかったか。それが、どうして、他人にあげてしまう状況が目の前で繰り広げられているのか。
「なけなしの水、なのでは?」
「そうだね。なけなしの水だね。でも、きっと、あの商人さん達も何か目標があって行動してるんじゃないかな。それを聞いたお頭がそうすることに決めたんだと思う。私達はお頭の決めたことに概ね逆らわないから。なんか本当にまずいことになりそうなら副団長が止めてくれるだろうし。その副団長が何も言わないならきっと大丈夫」
「副団長。そういやあのふたり割と一緒にいるよね」
「お頭と副団長だからね。それに、この団ができる前からの知り合いらしいし。あのふたり」
「へえ」
なんて明羽とアンナが話している間、トラックの積み込み作業を見つめていた氷呂が言う。
「商人さん達、元々西の町に向かってたみたいだね。積み荷は殆どダメになっちゃったみたいだけど使えそうなものを掻き集めて元々盗賊のものだったあのトラックに積み直したみたい。道理でへんてこな。それで、改めて西の町を目指すらしい」
「氷呂?」
「え?」
明羽とアンナが氷呂を見つめていた。
「氷呂。私も耳はいい方だけど。聞こえるの?」
「……あ」
氷呂がしまったと自身の口を押さえる。
「氷呂がポカするなんて珍しい」
「茶化さないで、明羽。聞こえて来ちゃったものだから。つい」
「そっか、氷呂も私と同じ、聖獣なんだ」
小声で呟いたアンナは嬉しさのあまり頬を紅潮させていた。そんなアンナの様子に氷呂は誤魔化すのを諦めて頷いた。けれど、それでも、純血であることだけは黙っている。荷を積み終えたトラックに乗り込もうとする商人にお頭と目付きの悪い男が近付く。
「出発するのか?」
「ああ、できるだけ早く着きたいからな」
「そうか」
お頭は一度言葉を区切る。
「あの町は上層部そのものが腐ってる。お前達一介の商人が奮起したところで何も変わらないかもしれない」
「それでも、何もやらないよりはマシだと思いたいんだよ」
「そうか」
「ところで」
「ん?」
「随分世話になちまった訳だが。俺は思い出したことがある」
「あん?」
「噂だよ噂。西の方でやたらめったら活動している盗賊の噂だよ。人伝に割と遠くのオアシスにまで広まってるんだぜ。悪徳商人、悪い噂の絶えない役人、はたまた質の悪い盗賊ばっかり襲う盗賊がいるって。鮮やかな手際だが容赦のない手口に悪い印象もあるが、奪った物を貧しい者に分け与える義賊。その名も『西の風』! そんな盗賊がいるってな」
商人の言葉にお頭が仏頂面になった。その側で目付きの悪い男は目を伏せる。
「噂になってたのか……」
「それで、まんまと騙されてちゃ様ないですね」
「うるせえよ。最近、少し派手に動き過ぎたな」
「やっぱり、あんた達のことだろう」
商人のどこか好奇心に満ちた目にお頭は肩を竦めた。
「そんな奇特な盗賊、知らねえな」
「またまた~。俺達はあんた等のことを支援するよ。この恩は忘れない。今すぐは返せないが……入用があったら声を掛けてくれ。言い値で援助させてもらうぜ」
「金取るのかよ」
「商売だからな!」
「……入用になったらな。幸運を祈る」
すっかり元気になった商人は、人の優しさに触れてすっかり気力の戻った仲間達を連れて黒服達の元を後にする。実働班を見送った時のように黒服達が商人達を見送る。
「さて」
お頭が黒服達を振り返った。
「なけなしの水も気前よく同胞達にくれちまって、俺達にはもう後がない! 次の補給地点の井戸も枯れてたら望みはないと思え! それでもお前達は俺に付いてくるか?」
黒服達は笑う。笑って今まで以上に大きな声でお頭に応じた。
「マジかよ」
「今となっては彼らにいなくなられて困るのは私達ですよ」
「私達?」
お頭が目付きの悪い男を振り返る。お頭と目が合って目付きの悪い男は片眉を上げた。
「なんです?」
「お前の辞書に俺から離れる選択はないのか」
目付きの悪い男はため息をついた。
「今更……」
お頭が笑う。黒服達がそれぞれの車に戻り始めるのを眺めながら明羽はひとつの疑問を口にする。
「そもそも、なんでこんなことになってるの?」
「こんなことって?」
アンナが問い返した。
「水探してウロウロ」
「ああ、それはね」
「出発する! 先程出動した者は武器の手入れを怠るな。それから十分に休むように!」
目付きの悪い男の号令に返事が飛ぶ中、お頭の声が響く。
「持ち場に戻れ! アンナ!」
「もう! なんで私だけ名指し!?」
お頭とアンナの怒鳴り合いに周囲から笑い声が上がった。
「もう知らない。明羽、氷呂!」
「はい?」
「もうお頭に直接聞いちゃって!」
肩を怒らせながらアンナが自身の乗る車へと向かっていく。明羽と氷呂はその背を見送って首を傾げた。お頭に直接尋ねることがアンナにとって意趣返しになるのかと。お頭に促されて明羽と氷呂はコンテナに乗り込む。先に乗り込んでいた子供達が明羽と氷呂に手を振った。明羽と氷呂が振り返す前に近くにいた老人が子供達の手を握って下ろさせる。羽と氷呂は黙ってコンテナの奥へ向かった。すっかり定位置のコの字型の椅子に落ち着いて、明羽は目の前に今まさに座ろうとしていたお頭に問いかける。
「ねえ。なんでこんなに水に困った状況になってるの?」
「あ?」
お頭の眉が引き攣った。「おお」と明羽は思う。明らかにお頭が不愉快になったのを見て明羽は心の中でアンナに向かって「一矢報いたぞ」なんて報告する。伝わる訳はないが。そして、本当に何故だろうと明羽はお頭の返答を待つ。お頭は見つめてくる明羽の瞳に特に意図がないのを見て取って深く座席に腰を下ろす。
「……偽の情報を掴まされて、忍び込んだ貴族の屋敷で騙し討ちに合った。逃げ出したはいいがほとぼりが冷めるまで戻れなくなった。オアシスなんて当然のように張り込みされて、ほとんど使うことのなかった昔々に掘った井戸を頼ってこんな遠くまで来る羽目になった。そっから俺達がどんな状況かはお前らにも分かるな」
「分かるけど。昔々って。やっぱりお頭十八じゃないでしょう」
「うるせえ。つーか気になったのはそこかよ」
「大変だったんだね」
「明羽」
「あれ? 私、変なこと言った?」
氷呂に窘められて明羽は戸惑う。
「同情は不要だ」
お頭が苦々しそうに言った。
「後悔してるの?」
明羽の言葉にお頭が目を丸くした。
「明羽」
「え? あ? ごめん。またなんか言ったかな……」
「もう」
氷呂が呆れているので明羽はこれ以上口を開くのをやめる。反省する明羽を見つめながらお頭は自分が決断した結果の現状を思って深くため息をついた。今までだって窮地がなかった訳じゃない。それでも何とか切り抜けて来た。けれど、本当に今回はもうダメかもしれないという考えが頭を持たげてくるのをお頭は意識的に抑え込む。トラックは規則正しいリズムを刻みながら進んで行く。明羽は天窓を見上げた。
「日が傾き始めてしまった……」
「次の補給場所で降りた時が最後のチャンスだと思った方がいいね。きっと」
「結局、半日丸々お頭達と行動を共にしちゃった訳か」
「標さんと夏芽さん。きっと怒ってるね」
「それに村長も」
「う……」
氷呂が明らかに青くなった。
「村の皆になんて言おう」
「……逃げることができてから考えよう」
「そだね」
明羽は頷いた。
そうこうしている内にトラックは緩やかに速度を落とし始めた。着いたのかと、明羽が天窓を見つめていると氷呂が明羽の手を握ってくる。
「氷呂?」
「明羽。私に考えがあるんだけど」
「お?」
黒い車の群れが止まり、どこかで見たことのあるような砂漠のど真ん中にある井戸をお頭と黒服達が覗き込む。
「お頭」
「チッ」
お頭は振り返る。目線の先にいるのは緑を帯びた黒髪の少女と青い髪の少女だ。
「お頭。決断の時かと」
目付きの悪い男に急かされてお頭はイライラと頭を掻いた。
「わーってるよ!」
そんなお頭の態度に目付きの悪い男は一瞬だけ、本当に一瞬だけその顔に憂いを覗かせた。お頭とその取り巻きが怖い顔で近付いてくるのを明羽と氷呂は見つめた。夕日の橙色の光に照らされてその表情はさらに凄みを増している。
「明羽、氷呂!」
アンナが焦ったように近付いてくるが、お頭が手を上げるとすぐさま黒服達がそれを引き止めた。
「お前達が役に立つ時が来たな。お前達を交渉材料に役人と話を付ける」
「その必要はないかと」
「あ?」
氷呂の冷静な返答にお頭が怪訝な顔になった。予想外の言葉であったことは間違いないだろう。すぐに次の言葉が出てこなかったお頭を前に氷呂は構わず落ち着いた様子で続ける。
「水が必要なんですよね。それなら私がお役に立てるかと」
「だから、役人との交渉材料に……」
「私達を渡したからといって、役人達が盗賊のあなた方を確実に見逃してくれる確率はどれ程ありますか?」
お頭が黙り込む。
「私達を役人に引き渡しても、あなた方が十分な水を確保できるとは私には到底思えません。それどころかここにいる全員を危険な目に合わせる確率の方が高くなると思いませんか?」
お頭は氷呂を鼻で笑う。
「もっと安全で、いい方があるって言うのか?」
「ええ。そうです」
氷呂がはっきり肯定すると様子を伺っていた黒服達がざわついた。
「お頭」
「お頭!」
「亜種の言葉に惑わされないでください」
お頭が手を上げると黒服達が口を閉じる。本当に良く統率された組織だと明羽は思う。
「お前達に何ができるって?」
「あなたが私達の出す条件を呑んでくれるなら、お話しします」
「お頭!」
「うるせえ!」
お頭の怒鳴り声に黒服が恐れ戦いた顔で黙り込む。
「聞くだけだ!」
「聞くだけですか。まあ、いいでしょう。これを見て、考えが変わってくれれば」
そう言うと、氷呂は袋状になった袖の中から小さな小さな水筒を取り出した。お頭は眉を顰めるが静かに見つめる。氷呂は水筒の蓋を開けるとおもむろにそれをひっくり返した。
「テメッ……! 俺達への当てつけか!?」
お頭の後ろから飛び出そうとした黒服を目付きの悪い男が無言で制す。カラカラに乾いた砂漠の上に出来た染みはすぐに消えて行った。
「水を持っていたことにも驚きだが。何のつもりだ?」
お頭の声が低い。明羽は不安になって氷呂の服を摘まんでしまう。
「大丈夫だよ。明羽」
氷呂を疑うつもりはないがそれでも明羽は不安から摘まんだ服を離せない。氷呂は逆さにした水筒を軽く振ってその中身が空であることをアピールして水筒の上下を元に戻した。そして、それをお頭に差し出す。
「どうぞ」
お頭の怪訝そうな顔。それでも、お頭はそれを突っ撥ねることなく静かに受け取った。氷呂から水筒を受け取ったお頭の目が見開かれる。
「……どういうことだ?」
お頭は自分の指に伝わって来る揺らぎに頬を引き攣らせた。軽く斜めにするだけでなくなった筈の水が流れ出す。しかも、どれだけ傾け続けても水が途切れることはなく、それを見ていた黒服達が騒めいた。
「それが、私の生まれ持った力です」
「亜種が生まれ持つ、人間が持たざる力。そうか、お前は聖獣か」
「分かりますか」
「動物は人間の隣人であり、聖獣は水を操り、悪魔は闇を愛し、精霊は自然と共にあり、魔獣は大地を知り、天使は風を操る。常識だ」
「へえ。そうなんですか」
「だが、無いところから出すなんて、あり得るのか? 俺達にない力を持っているとはいえ際限なく何かできるようなものじゃなかった筈だが」
「そこまで知ってるんですか?」
本当に驚く氷呂をお頭は睨み付ける。
「俺がそう信じてるだけだ。そうじゃなけりゃ亜種を一匹残らず消しちまおうなんて考え自体が馬鹿すぎる。人間がそれを利用しない訳がないんだ」
「そう、ですか……」
氷呂が少し寂しそうな顔になる。
「それで? お前が無いところから水を出せることが分かった訳だが。これは交渉材料にはならないぞ。むしろ、俺達はお前の利用価値に気付かされた訳だ」
「あ、いえ、今のはただのパフォーマンスです」
「あ?」
「私はそれだけの力を持っていますよっていう。本題はここからです」
お頭が呆れた顔になって、明羽は摘まんでいた氷呂の服を離した。
「何がしたいんだ……」
「取引です」
「取引? そんな言い分が通じると思ってんのか?」
「あなたは応じると私は思ってます」
「何故?」
「私がここにいる全員を救えるからです」
「ああ。お前を飼殺しにすれば間違いなく今ここにいる全員救えるな」
氷呂はチラリと未だに黒服達に制されてこちらに近付けないアンナに目を向ける。
「あなたを信じます」
「買い被られたもんだな」
「あなたの言う通り。私を飼い殺しにできれば水の心配はなくなりますね。けれど私は感情のある生き物です。そんな無理やりな状態でいつまで持つと思いますか。そんな精神状態では必ずいつか限界は来る。そんな不安定なもので構わないんですか? 私なら、半永久的に安定した水源を間違いなくあなた方に提供できます」
「……」
「リスキーな私ひとりを取るか。これから先、安全にここにいる全員の命を救える手を取るか。あなたが求めるのは後者だと私は信じます。私が水源を提供したら私達を必ず解放してください。そう、約束してくださるなら、私はすぐにでもあなた方の欲しているものを差し上げます」
「お前が、約束を違える可能性は?」
「それは、私達を信じてもらうしかありません」
「私達、ね」
お頭が氷呂の後ろに隠れる明羽に目を向けた。明羽はお頭と目が合って思わず大きく頷いていた。お頭がガックリと項垂れる。
「少なくとも、俺らを嵌めた役人連中よりは信用できる」
「お頭!?」
黒服達が慌てふためいたが明羽と氷呂はホッと一息つく。アンナが引き止めていた黒服達を振り切って明羽と氷呂に駆け寄った。抱き付いてくるアンナを明羽と氷呂は受け止める。嫌々を一切隠さずお頭は言う。
「で、どうすればいい?」
「まずは場所を移動します!」
氷呂の指示の下、黒い鉄の群れは暗くなってきた空の下を再び走り出した。
「この辺でいいでしょう」
トラックが止まり、明羽と氷呂はお頭と目付きの悪い男に挟まれながら砂漠の上を歩く。
「おい。どこまで行くつもりだ?」
段々とトラック、それから車の集団から離れて行く四人に黒服達が武器を手に後を付いて行こうとする。それに気付いた氷呂は言う。
「あ、ダメですよ。近いと被害が出るかもしれないから少し離れた場所に留まってもらったんですから」
「危ない?」
「皆さんに付いて来ないように言ってください」
「俺達は危なくないのかよ?」
「少人数なら立ち位置を間違えなければ問題ないですから」
「そうかよ」
お頭が目付きの悪い男に目配せする。目付きの悪い男は振り返って良く通る声で黒服達に待っているように告げた。
「さて、この辺りがいいですね」
「結構離れたな」
四人が見える範囲で立ち止まったことでこちらを不安そうに見つめていた黒服達も少しばかり安心する。
「お頭と副団長は私より前に出ないでくださいね。明羽は私の隣にいて」
「うん」
真っ赤に染まった地平線に太陽が少しずつ降りて行く中、氷呂は深呼吸した。風の音だけが流れ、静寂が降りる。
「何も起こらないぞ」
「しぃ」
明羽に諭されてお頭は下唇を突き出しそっぽを向いた。そしてまた、降りる静寂。身動きしなくなったお頭達に黒服達がざわつき始める。
「あいつら何やってるんだ?」
「やっぱり嘘なんだよ。亜種の言うことなんて」
「お頭達は大丈夫なのか?」
「もう、我慢ならねえ。行こうぜ!」
その異変に最初に気付いたのはお頭だった。
「……なんだ?」
黒服達が持ち前の団結力で動き出そうとした時、地面が振動し始める。それは最初こそ小さかったが次第に大きく激しくなり、足腰の弱い者が地面に膝を付く。
「なんだ!?」
「なんだこれ!?」
「何が起こってるんだ!?」
地面に亀裂が走った。
「ヴィクス!」
「落ち着け、リュリ」
目付きの悪い男をお頭が制す。地面の亀裂は綺麗に四人がいるところを避けて走っていた。地面は振動を続け、明羽と氷呂が立っているよりさらに前方の地面が大きく盛り上がったかと思うと次の瞬間、砂が天を突く。吹き上がったそれは吹き上がり続ける程に水が混ざり始め、最終的には冷たい水飛沫を上げるだけになった。
「ふう」
氷呂が振り返る。半ば呆けた顔で夕日の光を浴びてキラキラと輝く水の柱を眺めるお頭と目付きの悪い男がいた。
「お頭。もう少ししたら水の勢いは落ち着いてくると思うので。それから、この辺り一帯軽く地盤沈下が起こると思います。うまく窪地になってそこに水が溜まるように調整したつもりですけど気を付けてください。聞いてますか!」
「えっ? あ、おう!」
「それでは、約束通り……」
「水だ!」
黒服達がこちらに向かって駆け出して来ていた。あっと言う間に明羽と氷呂の側を通り過ぎ、水飛沫を浴びて黒服達が歓声を上げる。
「ああー。お前ら気持ちは分かるがちょっと落ち着け」
「安全を確認してからだ!」
お頭と目付きの悪い男が制しようとするが今までの統率が嘘のように黒服達は有象無象とかしていた。
「ああ、もう……」
「仕方ありません」
お頭と目付きの悪い男が明羽と氷呂から離れて行く。もう、誰も明羽と氷呂のことを見てはいなかった。
「お暇しようか」
「そうだね」
明羽が氷呂を抱えようとする。
「何?」
「何って、飛んで帰ろうよ」
氷呂が明羽の顔を見つめる。
「まあ、いいけど」
氷呂は大人しく明羽に抱えられた。
「よし」
「明羽! 氷呂!」
アンナが明羽と氷呂に駆け寄っていた。
「すごいすごい! すごいね! ふたり共!」
「すごいのは氷呂だよ」
明羽は苦笑する。「すごいすごい」と言い続けるアンナを見つめて明羽は思わず声を掛けていた。
「アンナ。私達と来る?」
「え?」
アンナは一瞬だけ目を丸くしたがすぐに首を横に振って、誇らしそうに笑う。
「私、ここが好きなんだ」
「そっか」
「うん。行っちゃうんだね。明羽。氷呂。さよならは言いたくないから。またね!」
「うん、アンナ。またね!」
明羽は翼を広げた。左にのみ生える四枚の翼。突如目の前に現れたそれにアンナはポカンと口を開けた。瞬きの間にふたりの姿は消えている。アンナは暫しパクパクと口を動かした後、
「ええええぇぇ――――――!!!??」
と未だ地面から吹き出し続ける水飛沫の音よりも大きな声を上げた。その声にお頭が振り返った。放心状態のアンナの姿を見つけ、すぐに明羽と氷呂のことを思い出し、お頭はその姿を探す。遥か遠い空の上、群青色に変わりつつある空に夕日に照らされて伸びる影が羽ばたくのを見た。
「お頭」
目付きの悪い男が差し出して来た望遠鏡をお頭は覗き込む。
「おいおいおい……。マジかよ……」
望遠鏡を下ろして消えゆく影を改めて見つめる。
「片翼の天使……。ふ、ふふ……。ハハハハハハハハ!」
お頭は腹を抱え、涙を浮かべながら暫く笑い続けた。ひとしきり笑った後、涙を拭き、丸めていた背筋を伸ばす。
「あー。はは、トンデモねえお宝を取り逃がしちまったなあ。そういや、いつだったかどこぞの狩人が片羽四枚の天使を見つけたとか逃げられたとか、噂が流れたことあったな」
既に見えないその姿を星の瞬き始めた空に探して、お頭は未だ噴水の下ではしゃいでいる黒服達を振り返る。
「今日はここで野営だ! 準備しろ! テメーら風邪引くからそこまでにしとけ!」
明るい声に明るい声が返ってきた。
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明羽は氷呂を抱えて飛び続ける。
「もう日が沈んじゃうね」
「とりあえず戻れるところまで戻ろう」
「うん」
星が瞬き始めた空を明羽はまっすぐに飛んでいく。ひんやりとした風が明羽の頬を撫でた。
「さむ……」
「大丈夫?」
「うん。平気」
「無人のオアシスでも見つかればいいんだけど。さすがに砂漠のど真ん中で野宿は不安だよね」
「氷呂がいてくれるから私は平気だけどね」
「それを言うなら私だって。ああ、違う。そういうことじゃなくて」
氷呂の見せた対抗心に明羽は笑う。
「そういえばさ。氷呂は最後の井戸のところに着いた時点でそこにはもう水がないことは分かってたの?」
「まあね。移動している最中からその付近に水脈が無いことは分かってたから」
「そっかー。うまくいって良かったね」
「そうだね。まあ、最後のあの井戸が涸れてなかったらそれはそれで、また別の方法を考えるだけだったけど」
「まあ、そうだよね」
「明羽はなんにも考えてなかったよね」
「う、ごめんなさい」
「反省してください」
「反省します……」
項垂れる明羽に氷呂は満足そうに頷いた。
「あれ? 明羽。見て」
「ん?」
氷呂が指差す方を明羽も見る。西の空はまだ辛うじて明るいが暗くなった砂漠の上、左右に揺れる光があった。
「う~ん?」
明羽は目を凝らす。
「明羽。警戒して」
「うぶ」
氷呂が明羽の顔をぺチンと叩いた。光が自分達に向けられたものなのかはたまた全く関係ないのか。明羽は距離を取りながら様子を見つつ速度を緩めて飛ぶ。観察した結果、どうやら光は明羽と氷呂に向かって振られているようだった。
「どうしよう」
「狩人ではなさそうだね」
「近付いてみる」
「分かった」
近付いてみると揺れる光は一台の車の中から発せられているのが分かった。
「う~ん?」
「あ」
「へ?」
明羽は腕の中の氷呂を見下ろす。氷呂は自分の耳に手を当てていたかと思うとパッと光の方へ体を捻った。その体重移動に明羽は慌ててバランスを取る。
「ちょ、氷呂! 急に動かないでっ」
「夏芽さん! と標さんだ」
「ええ?」
「……羽ちゃん。氷呂ちゃん!」
「お」
近付く程に明羽の耳にもその声が聞こえた。
「さっさと降りてらっしゃーい!!!」
聞こえてきた怒声に明羽は一瞬そのまま飛び去ってしまおうかと思ってしまった。思ってもそんなことはできる筈もなく。明羽はゆっくりと砂漠の上に着地し、氷呂をそっと下ろす。
「とりゃー!」
夏芽の愛の鞭が飛んで来た。
「まったく! 信じられないわ! 村を勝手に飛び出したのもそうだけど、盗賊に捕まったまま一向に逃げる素振りも見せないで!」
「それは、その、機会を窺ってて……」
「言い訳しなーい!」
夏芽は剣山のように毛の逆立った尾を背中で振り回す。
「まあ、なんだ。お前達が自力で逃げ出して来てくれて助かった。そろそろ夏芽の堪忍袋ならぬ心配袋の緒が切れそうだったんだ」
「解説してんじゃないわよ! 標!」
夏芽が怒りではない理由で顔を真っ赤にした。明羽と氷呂は項垂れる。
「ごめんなさい。夏芽さん。標」
「迷惑かけてしまって……」
「だーから。違うって」
標が明羽と氷呂の頬を摘まむ。
「お前らが俺らにかけたのは迷惑じゃなくて、心配な」
「いひゃい」
「うぅ……」
「分かったな」
「ひゃい」
「はい」
明羽と氷呂は夏芽に叩かれた頬と標に摘ままれた頬を撫でた。
「村長にも謝れよ」
「ぐ……」
「あと、謝花ちゃんね」
「ああ……」
「はい! ふたり共反省したわね!」
夏芽の号令に明羽は背筋を伸ばす。
「あい! もう二度としません! 次やる時はちゃんと相談してからにします!」
「良く言った!」
夏芽が明羽の頭を鷲掴みにした。
「ほんとに反省してるう!?」
「してます! してます! だから相談して、反対されたらしませんって話ぃ!」
「もう!」
氷呂は怒られたのがショックだったのか暫く何も言わなかった。
「今日はこのままこの場で車中泊だな」
標が言って後部座席がオープン状態の車に四人で幌を張る。満天の星の下、車に常備してあった非常食や火を焚いて沸かしたお湯でお茶を淹れて四人は一服する。明羽は湯気の立つカップを片手で持ち、もう一方の手で肩に掛けた毛布を今一度たくし上げた。
「そう言えば標も夏芽さんも良く私達の居場所が分かったね」
「それなんだけど。羽根がこう、ヒラヒラとね」
「羽根?」
夏芽の言葉に明羽が首を傾げた。
「村を出て嵐を抜けた後。さあ、これからどこに向かえばいいんだって時にな。車の前方で一枚の羽根がこう、ヒラヒラとな」
「近付こうとしても常に一定の距離を保って車の前を舞うのよ。一か八かで追い掛けたら遠くに盗賊らしい車の集まりが見えて、そしたらそこに明羽ちゃんと氷呂ちゃんの姿が見えるじゃない。そっからは付かず離れず追いかけっこよ」
「え、じゃあ。割と早い段階から私達のこと見てたの?」
標と夏芽が頷く。
「そ、そうだったんだ」
「この様子だと明羽ちゃんは何も知らなそうね」
「だな。結局なんだったんだろうな。いつの間にかなくなってたし。本当にお前じゃなかったのか? 明羽?」
「違う……。てか、見てたんなら助けてくれても良かったんじゃ」
夏芽の額に青筋が走った。
「あ、は、ね、ちゃん? あなたったら自分のしでかしたことの尻拭いを他人任せにしようなんていいご身分ね?」
標が神妙に頷く。
「その言い分は感心しないな。明羽。夏芽は助けに行きたいのを我慢して、お前達を信じて待ってたんだぞ?」
「言わなくていいって言ってんでしょ!」
「ご、ごめんなさい……」
明羽は標と夏芽の言う通りだと顔を青くする。自分の口から発せられた言葉にその浅はかさを痛感する。落ち込む明羽の肩を氷呂が抱いた。
「ありがとうございます。標さん。夏芽さん。本当に、ありがとうございます」
「分かればいいのよ」
夏芽はお茶を啜った。
+++
波打つ水面に篝火の光と満天の星が映り込む。
「大分納まってきたな」
「地面が少し窪んで溜まってきてますね」
盗賊団『西の風』は出来たばかりの水源の側で思い思いの時間を過ごしていた。水の心配がなくなって少し気の大きくなった黒服達が羽目を外し過ぎないようにお頭と目付きの悪い男は目を光らせる。
「食料と燃料にはまだ余裕があるとはいえ、無くなったら終わりだからなあ」
「無くなる前には方々に敷かれた包囲網もなくなっていることでしょう。西の町を牛耳る貴族にそれほどの余裕がある訳もありませんし。そしたら、支援してくれているオアシスに寄らせてもらいましょう。情報収集もしなくては」
「だな」
お頭は水に反射する篝火の光を見つめる。
「名前呼ばれたのなんてどれぐらい振りだったか」
瞬間、目付きの悪い男がばつの悪い顔になった。
「その節は申し訳ありませんでした。お頭」
お頭は苦笑する。
「別にいーよ」
「お頭の名前ってなんだっけ?」
「あん?」
見ればいつの間にかお頭の側に三人の子供達が集まっていた。明羽と氷呂に興味津々だった三人組だ。
「たしか、ヴィクセルとか言ったはず」
「とかってなんだ。コラ」
「ヴィクセル!」
「ヴィクセル!」
「ヴィクス!」
「お前らはちゃんとお頭って呼べー。俺の威厳なくなっちゃうだろ」
子供達は笑っていたが近場にいた老人が顔を真っ赤にして怒鳴り込んで来る。
「コラ―――――――――!! お前らっ。今、今お頭のことをっ! なんて無礼な!」
「やべっ」
子供達は一目散に逃げ出した。
「お頭! 申し訳ありません! きちんと言い聞かせておきますので!」
「いや、無礼は言い過ぎじゃね?」
「お頭に聞きたいことがあったのに!」
「お前達はお仕置きじゃ! 大人しくせい!」
追い掛けて来る老人に子供達は当然のように立ち止まらず、それどころか舌を出して牽制して走り去る。老人はそれを一生懸命追い掛けて行った。取り残されたお頭は呟く。
「誰も俺の話聞いてねーし」
「くっくっ」
お頭が振り返ると目付きの悪い男が咳払いした。
「すみません」
「まあ、いいさ」
「お頭」
千客万来だなとお頭は声のした方に目を向ける。
「アンナか」
「こんばんわ。子供達は明羽と氷呂がいないことを聞きに来たんだと思いますよ」
「あー」
お頭はアンナの顔を見る。
「俺は、てっきりお前はあいつらと一緒に行っちまうんじゃないかと思ってたよ」
「えー? なんでですか? お頭と副団長にまだなんにも返せてないのに。出て行ける訳ないじゃないですか」
「大したことしてねえけどな」
「売られそうになってた私を助けてくれたのは誰ですか。みんなと違う私を受け入れてくれたのは誰?」
「チッ」
お頭が頭を掻く。
「明羽と氷呂も誘ってくれたんですけどね」
「え、それ断ったのか?」
「そーです。ここが好きなんです。だから、またねって言ってお別れしました。また、会えたらいいなって」
「また、ね」
お頭は腕を組んで斜めに空を見上げる。真っ黒な空に数多の砂粒の光が瞬いている。
「あのふたりとは、いつかどっかでまた会う気がするんだよなー」
アンナがパッとお頭を見上げた。
「本当ですか!?」
「残念ながら」
「残念じゃないです残念じゃないです! お頭の勘は当たるんですから!」
アンナが満面に笑む。
「楽しみだなあ。あ、流れた」
ひとつ流れると次々と尾を引いて流れ始める星々に周囲から歓声が上がる。アンナも例外ではなく。夜空に見惚れるアンナの肩に目付きの悪い男がいつの間に持って来たのか毛布を掛けた。
「ありがとうございます。副団長」
「俺には?」
「お頭はマント羽織ってるんだから必要ないでしょう。それにそろそろ切り上げないとみんな凍え死にますよ。指示を」
「そうだな。もうちょっと見ていたい気もするが。ここまでだな」
お頭と目付きの悪い男の指示に黒服達が速やかにそれぞれの車に戻って行く。その遥か上空では、いつまでもいつまでも数多の光が降り注いでいた。
了
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