第1章・緑色の瞳の少女と青色の瞳の少女(6)
その日、村を取り巻く嵐はあまりやる気がないようで、空の青が見え隠れしていた。
「よし」
「
呼ばれて、畑仕事に精を出していた
「
「ちょっと出掛けないか?」
「……でかけ……?」
「あの後、何度か村の外に出たんだが、噂の
「……どこ行くの?」
「トリオが持って帰って来た鉱石類を売りに行く」
聞き慣れない言葉が出て来て
「とりお?」
「前に少し話しただろう。車の話をした時。その時一台無くてまだ帰って来てない奴らがいるって」
「複数形では言ってなかったと思うけど」
「とにかく頼りになる仲良し三人組がいるんだよ」
「その三人いつ帰って来たの? 私まだ会ってない気がする」
「三人揃って極度の人見知りだからな。まあ、その内会えるさ。で、行く気はあるのか? ないのか?」
「行く! ちょっと待ってて。
「おう。倉庫のところで待ってるからな」
「分かったー!」
「悪い」
「構わないよー」
「乗れっかな?」
畑から離れて村の倉庫側。車の側で
「お待たせ!
「おう。よく来たな。
「何よ。来ちゃ悪いっての?」
「診療所は
「
「いや、
「分かった。乗り心地は最悪だと思うが。誰かが後ろに乗れよ」
「いいわ。私が乗るから。
「よーし。出発するぞ。
四人と大量の箱を乗せた車は重そうにエンジンを
「うぶ」
あの時
「この一帯を抜けるまでの
「うん。うん?」
「うふふ。このまま乗ってればすぐに分かるわよ。今日は本当
「これで
パアッと急激に視界が真っ白な光に包まれて、
「何? 何ごと!?」
「
「あはは。ふたりとも落ち着きなさいな。ゆっくり目を開けてごらんなさい」
「う、おう……」
「久しぶりに見たね……。
そうだったと
「本当だね。
「すごい……。すごい光景だ」
「私達さっきまであの中を走ってたんだね」
「ね」
車が進む程に自然が作り出す世にも不思議なその光景はゆっくりと遠ざかっていく。遠ざかる程に
「……暑い」
「日差しがすごいね」
「お水飲む?」
「おお。水筒だ。ちっちゃい。いつの間に?」
「
「え? そうなの?」
「そうだよ。知らなかった?」
「知らなかった。器用だなあ。あのおっちゃん」
「それで、よく遊ぶ子供達の為に
「
「そんなところ。でも、
「うーん。最近は畑と
「で、お水飲む?」
「うん。欲しい」
「おお。冷たくておいしい」
「もっと飲んで大丈夫だよ」
「いや。大丈夫」
「そう?
「本当か!?」
見れば
「わあ。
「どうぞ」
「本当に飲んでいいんだな? 飲んでいいんだな?」
「大丈夫ですよ」
「減らないんだが……」
「不思議ですねえ」
「まさに無限に
後部座席から
「
「私は大丈夫よー。私にとっては気持ちいい日差しだわ。風もあまりないし。とても気分がいいわ!」
太陽が天頂を超えようかという時刻に差し掛かる頃、エンジン音が響く中、
「そう言えば私達どこに向かってるの?」
「今か!?」
予想外過ぎる問い掛けに
「鉱石類を売り行くとは聞いたけど具体的にどこに行くとかは聞いてなかったなと思って」
「そう言えば、言ってなかったか」
「俺達が今向かってるのは東の町と南の町のちょうど間ぐらいに位置する小さなオアシスだ。そこに
「へえ」
「けど、その前に」
緑の影の下、車のエンジンが止まると風に吹かれて緑が
「よし。ちょっと休憩な」
「了解」
車が止まると
「あー疲れる」
「
「別に欲してねえよ」
「どうしたー。
呼ばれて
地面は見知った砂地だったが大きな葉に背の高い木々や地面近くにこんもりと
「……知識としては知っていたけど」
葉と葉の隙間から光が降り注いでいる。風が吹くと形の変わる光と影。
「すごいね」
「本当に」
「世界にはこんな場所があるんだね」
「ね」
並んで木々の合間を見上げているふたりに、
「本当に来たことなかったのね。
「そうだな。連れて来て良かった」
「
目の前の光景に見入っていた
「目的地のオアシスにはここみたいな無人の小さなオアシスを何度か経由しながら目指す。一泊は野宿するからそのつもりでな」
「野宿!」
「初めてのことだらけだね。
「聞いてないんだけど!?」
まさに
「いや。村出るの昼前だったし。それぐらい予想しといてくれよ。どう考えても一泊は確実だろ」
「むう。確かに」
「
「……ふーん」
「なんだよ」
「別にー?」
「イッテ」
「良かったわね。
村から目的地のオアシスには確かに朝早くに出れば十分にその日のうちに到着できる道のりではあった。実際、
「
「
「ええ。外へ出た時の経由地は大体決まっているから。私も何度か来たことあるの。
「付いて行きます!」
「お願いします」
「はーい。まずはこっちよー」
木々の合間を分け入っていく
四人は一列になって木々の合間を歩く。
低木の枝が足に当たるのが気になり
「
「うん。まあ大丈夫」
「平気だよ。
「うん……」
「
見兼ねたのか最後尾を歩いていた
「重っ! え? なにこれ?」
「なにって、ナイフだよ」
そのナイフの大きさは
「先頭歩いてる
「呼んだ?」
振り返った
「ごめんねー。気付かなくて」
「
「医者ていうのは結構体力使うらしいからな」
「
「妙に説得力あるね」
「なんか言った?」
ナイフ片手に振り返った
「どうしたの?
「
「さすが
「綺麗な水」
「
ふたりの言葉を受けて
「あ。
「そこ、木の根が出っ張ってるから気を付けてね。って、遅かったわね」
砂地だった為、そこまで体にダメージはなかったが心にダメージを受けた
「お約束だな。
「大丈夫?」
「うう」
「なんかある」
「え?」
「石だ」
「石!?」
石という単語に
「ちょっと見せてくれ」
詰め寄ってくる
「見たことない石だ」
「今まで何度もこの
青い石を
「
「
「スイッチ入ったわね」
「……スイッチ」
「ですか……」
頼りになる、と思っていたお兄さんの思わぬ一面に
「今きっと車に道具取りに行ったわよ」
良く知っているのか
「
「じゃあ。ちょっと歩き回ってみてもいい?」
「ええ。もちろん」
「
「え?」
「えっと……そうだね。でも、私達と違って
「なるほど。オアシスで楽しむ方法があるなら、教えてもらいたいよね。後で聞いてみようかな?」
そんなことを
「さて、私はどうしようかしら。ここでできることなんて何もないのよね。
とため息をついていた。
「
重いナイフを振るのに一生懸命で前を全然見ていなかった。初めてのオアシスを見て回るつもりだったのにそれをすることをすっかり忘れていた。
「
すぐ側から聞こえた優しい声に
「
「少し休憩しよう」
「うん」
オアシスと砂漠の境目でふたりは腰を下ろす。
「
「後で
「うん。そうしよう」
それから
「
「あら、おかえり。
「静かでいいところだね。昼間なのに涼しいし」
「
「ふふ。ふたりのいい思い出になったみたいで良かった」
「
「
「……何もなかった」
その落ち込みようはどう言葉をかけようか悩んでしまう
「
「少しでも足しにならないかな?」
「ありがとな。
「うん」
「よし。出発しよう」
それからは
その日の朝も砂漠は快晴だった。車にあらかじめ積まれていた保存食の缶詰や乾燥したパンで朝食を取った後、四人を乗せた車は再び砂漠を走り始める。
一台の黒い車が砂漠の上を走っていた。後部座席には箱が一杯に積まれ、その上には色白の美しい女がひとり。運転手は黒い服に身を包んだ青年で、助手席には十代
「
「分かってるわよ」
「目的地?」
「ああ」
地平線の上の黒い影が大きくなっていく。近付く
「
「ん?」
「
突然の質問に
「怖いのか?」
「私はさ。私と
「村のみんなは人間を怖がってるでしょ?」
「ああ。そうだな。みんな村の外に出たがらない」
「でも、
「俺は村の資金
「でも、仕方なくとか嫌々じゃないでしょう?」
「まあ、な」
「確かに好きでやってるな。俺はお前らと違って人間に育てられた訳じゃないが、人間に追われて村に
「そういえば
「それを言うなら
言い合って何かを思い出したのか
「私はね、自分の意志であの村に
「笑ってんじゃねえ。俺の育ての親なんだがなー。まあ、その話はまた今度にしよう。今言えるのは俺も
「
「午前の客はあんた等が最後だな」
「そうか。これから昼休憩か?」
「空いてるところに好きに止めてくれ」
「ああ。ありがとう」
「
「お金を払ってたのよ。この駐車場は利用料がかかるの。いい商売よねえ」
整然と並ぶ車はどれも同色で駐車場は黒一色で埋め尽くされていた。その黒の中をゆっくりと
「ここも間違いなくオアシスなんだね」
「こんなに大きなオアシスもあるんだね」
「ここはオアシスの中でも中くらいの広さのオアシスだと思うわよ?」
「これで!?」
「私達、本当に何も知らないんだね……」
ふたりの反応に
「
「色々あるわよ。宿屋とか定食屋とか
「町、みたいですね」
「そうね。小さい町みたいなものよ」
「じゃ、今から俺は店の人呼んで来るから。お前達はここでちょっと待っててくれ」
車を止めると
「
「このオアシスには外から来た者は車を乗り入れてはいけないっていう決まりがあるの。車での乗り入れを許されてるのは住人だけなのよ」
「そうなんだ」
「どうした!?
広い駐車場の
「モテ期かっ。モテ期なのかっ!」
「えーと。この白
店主に肩をグラグラ揺らされても
「で、俺が連れて来たのは……。あー、なんだ。……妹みたいなもんだ」
その耳慣れない言葉に
「誰が妹よ」
「相変わらず良物を持ってくるな。
箱の中にあったのは大量の黒い石。
「あの黒い石、何?」
「あれは燃料石よ。あれが車とかを動かす燃料になるの」
「へえ」
「悪くねえ。
「おう、お嬢ちゃん。無理するんじゃねぇぞ。そんな細腕でこんな重い荷、大変だぞい」
「うん……」
「
「あの細腕でよく持ち上がるもんだ……」
そう
「よし。これで全部だな」
「さ、お嬢ちゃん達乗りな。俺っちの店に案内するぜい」
オアシスの中は多くの人が行き交っていた。
「おーい。通してくれー」
と店主が運転席から身を乗り出すと道を行く人々は店主を見て「白
「
「中に入る車を制限する訳だね」
駐車場に停まっていた車が全てオアシスの中に入ってしまってはたちまち
車の中では運転席に座る店主と助手席に座る
「今回も良い物を持ってきたな、
「助かるよ、じーさん」
どんどんどんどん目の
「着いたのかな?」
「おじーちゃん。荷物降ろす?」
運転席から降りかけていた店主は荷台から身を乗り出す
「いやいや。こっから先は店の若いのにやらせる。お嬢ちゃん達は降りて店の中へおいで。軽い飲み物ぐらい出せるぞい」
その店の入り口は大きく開かれていた。中は外に比べて遥かに涼しい。車の音を聞き付けたのか店の奥から若い男がふたり駆け出して来る。
「
「今回は
ふたりは最初こそ
「なんで女の子三人も連れてんの!?」
「小さい方のふたりは妹みたいなもんだ。手出したら殺すぞ」
「じゃあ、背の高い肌の白い子紹介してくれよ!」
「お前ら……見た目に
「こら、お前達! しっかり働け! 給料出さねぇぞ!」
そう言った店主の手にはいつの間にやら四つのカップを乗せた丸盆が握られていた。店の奥にはカウンターがあり、
「……じー様。盆持って叫んでも怖くねぇぞ?」
「黙って荷を運べい」
「へいへい」
「分かりやしたー」
「モテ期かしら!?」
「知らねーよ」
落ち着きのなくなった
「
「美人だからモテそうなのにね」
店の中は広いということはなかったが
「ここ、アクセサリーも作ってるんだ」
「綺麗だね」
ふたりの後ろを若いのふたりが黒い石の入った箱を持って通り過ぎて行く。人の気配に何ともなく
「
「
「はじめまして。若旦那。私は
「こんにちは。
「燃料石はじーさんが、原石類は若旦那が査定してくれるんだ」
「どうした?」
「なんでもない」
「若旦那?」
「ああ。すまない」
「その石。何かあるのか?」
「いや。この色の感じと
「へえ」
「ちょっと待ってくれ。親父。親父!」
「なんじゃい。これから石を砕くところだぞい」
奥から
「この前手に入った石があっただろう。見慣れなかったやつ。あれ、どこやったっけな」
「おお。あの石か。ちと待ってろ」
「適度な硬さのあるアクセサリー向きの石だ。親父。このふたりに試してもらわねーか?」
「ひっひっひ。同じこと考えてたわい」
楽しそうに笑う店主と若旦那に
「お嬢ちゃん達。石を
「石を?」
「ですか?」
「親父。説明が足りなすぎる」
「これからするんじゃい。実はな、おふたりさん。こちとら観光客向けに新しい商売を考えておってな。石を
「石を好きな形に
「ははあ。なるほど。色々考えるもんだなあ。それで、売り出す前に
「ああ。近所の子供達に頼もうかと思ってたんだが。外から来てくれた人の意見の方がよりいいと思った。俺達にとってもその状況に近い状態が再現できるからいいシミュレーションになると思ってな」
「モニターになってもらうことになるからお代は取らねえ。出来上がったもんはプレゼントするぞい。どうだいお嬢ちゃん達。やってみないか?」
「やってみればいいじゃない。迷うってことは興味がない訳でもないんでしょう? それに、見て見なさいよ。そのふたつの石。まるで
丸テーブルに着いていた
「うん。私、やってみたい」
「はい。私も」
「ありがたい。よーし、そうと決まれば緑は……」
「あ。おじーちゃん。私、青い方
「
「うん。
「なるほど」
「じゃあ。私は
「え? あ、そんなつもりじゃなかったんだけど」
しどろもどろになる
「すごい」
「ね」
「お嬢ちゃん達の身近にはないものだものなあ」
店主にそう言われて
「おじーちゃん。あれは何の為の機械?」
「あれは燃料石を均等な大きさに
「そうなんだ」
「
「すぐに
「いやいや。納期に間に合えば問題ない。さあ、お嬢ちゃん達が今日使うのはこっちの機械だ」
店主が示した機械は黒い長方形に太いベルトを引いた、
「見ててごらん」
スイッチを入れると機械に引かれていたベルトが回り出し、そのベルトに店主が石を押し付けると石からキメの細かい粉が舞い始める。
「こうやって石を
「ささ。思い切って行こうぞい。
「あ、そうじゃった。粉は吸い込まないようにな」
今思い出したと店主が白い布を
「ちと待っていてくれ。息子を呼んでくる」
店主は
「おい。暇じゃろう」
「……今、
「暇じゃろう」
店主は若旦那に
「すみません。お忙しいのに」
「いやいや。君が謝ることはないよ。むしろ、礼を言わせてくれ。俺達にとってはいいリハーサルになるし、何より親父が楽しそうだ」
「いやいや」の言い方が店主そっくりで
「どんなアクセサリーにするかイメージはできているかい?」
「はい。この石を一番長くして……」
話しながら工場の中をふたりは移動していく。
「え? あれ? もう
「お嬢ちゃん。
店主に
「ようし。石と手を洗って、ワシらも飾りにする為の作業に入るぞい」
「うん! お願いします!」
達成感に
出来上がった物を小さな布袋に入れ、
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