第1章・緑色の瞳の少女と青色の瞳の少女(5)
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真っ青な光が全身に降り
実際に目を開けば暗い部屋の中、明かり取りの窓を塞ぐ木戸の隙間から白い光が差し込んでいた。隣を見れば絶世の美少女の寝顔がある。その
「さっむ……」
まだ、外は空が
「
「
「どこに行くの?」
「どこにも行かないよ」
「本当に?」
「本当だよ」
「……ごめんね。
「え?」
「え? なになに? なんで
「
「……」
「おばさん達のことをあの日以来ずっと気にしてるでしょう」
ふたりにこの家があてがわれてから数日が
その間、
ふたり
「確かに……そうだけど」
「ごめんね。
「
「おばさん達のことは私だって心配だよ。でもね、
「……
「
「
「
「エンジン音?」
「近付いて来てる」
「この家に?」
「この距離感なら村に、だね」
「き、聞こえるんだ?」
「聖獣は他の種族より耳がいいみたい。前からもしかしたらとは思ってたけど、この村に来てから確信に変わったの」
そういえばと
「知らなかった」
「言ってなかったっけ?」
「
「言ってないこと?」
「私が知らない
「え……どうだろう?」
そもそも本人が自覚していないことを他人が知るのはそれこそ不可能というものだろう。
「行ってみる?」
「行ってみよう」
「こんな天気でも光って届くんだから、すごいよね」
「そうだね」
ふたりはまだ冷たい空気の中を歩き出す。
「村の中に入ったみたい」
「この辺って、倉庫なのかな?」
倉庫に囲まれて少し開けたその場所より先に建物は見えず、茶色の砂が風に巻き上げられて
運転席のドアが開き、
その人物も
「
「……
「
ふたりの様子に
「あれ?」
「
ふたりの言葉に
「……俺も
「ご、ごめん! 畑に取り掛かりっぱなしだったから!!」
「そう! そうなんです! 私も村の人達に色々教えてもらってて! 村に早く慣れたくて!
「そうそう!」
「今度は
「え!? い、いや。私はごえんりょし…たい……と………」
ごにょごにょと語尾を小さくする
「ぶふっ」
「いや。悪い。ふたりともすっかり村に
「嘘だ……。今のは私を笑ったんだ……」
「何を馬鹿なことを」
「村の救世主様達を俺が笑う訳ないだろう」
「……救世主様、達?」
「片や水不足、片や食料不足。打開策を見いだせなかった村の二大問題にみんなはこの村を捨てることも考えてた。そんなタイミングでやって来たふたりの少女がこのふたつの問題を
「たまたまだよ」
「たまたまです」
居心地の悪そうなふたりに
「で? ふたりはこんな朝早くになんだってこんなところにいるんだ? 俺を迎えてくれた訳じゃないんだろう? 俺がここ数日、村にいなかったことにも気付いてなかったんだから」
最後のは皮肉だった。
「それは、ごめん」
「で、なんで私達がここにいるかって話だったよね。えっと……」
「車のエンジン音が聞こえてきたので」
「ああ。
「はい。村にも車があったんですね」
「そうか。俺が連れて来た時、ふたり共意識なかったもんな」
「そうだったそうだった。
「救世主ですね」
ニッコリ笑って言ったふたりに
「……悪かった。もう言わない。いや、しかし、お前らの命の恩人と言うなら
「そうですね。
「そうだね。
うんうん頷く
「この話はやめよう。な。車の話だったな」
明らかに話を
「村では車を二台保有してるんだ。一台は……そういやまだ帰って来てないな。換金用の採集やら採掘やらに出てるんだが。まあ、ひとまず置いておいて、もう一台が俺が基本的に使ってる、この一台だな。村のみんなは外に出たがらないし。ああ、
「そうなんだ」
「高かったんだぜ。でも、あるとやっぱり便利だからな。二台目をと考えた時は相当悩んだが頑張って良かった。二台あれば同時進行で別のことできるしな。今、実際そうだし」
「便利」
「行動範囲も広がる」
「行動……。例えば南の町とか?」
「おう。南の町ぐらいなら余裕……ん? 南の?」
「
「痛いよ。
「どうしたどうした」
「なんでもないんです」
「なんでもないってことはなさそうだが」
「
「
「
「……なるほど」
「
「
「どうなる可能性があるか分かってて言ってるんだよな?」
「……分かってる。でも、どうしても、おばちゃん達のことが心配で。私達の
「
「すごく、すごくいい人達なんだ。優しい人達なんだ。だから……」
「ダメだ」
「お前達の育ての親はお前達を人間じゃないと分かった上で育ててた
「違う! そんなことない! 酷いよ……。
「いいか。
「なんで!?」
「ダメなんだよ。
「いや、違うな」
「そうじゃなくって……。そうだな……。お前の、その、おばちゃんは……。
『飛べ!
その力強い言葉に背を押されて
「自分の育ての親を信じろ」
「うん」
しっかりと
「戻る」
「おう。気を付けて帰れよ」
背を向けて歩き出した
「
「……良かった」
飛び出していくようなことにならなくて本当に良かったと、
畑に実りが付き始める頃、
「
「おわ!?」
飛び掛かって来た子供達に驚いた
「もう、
「ごめんごめん」
「すぐにいなくなるから」
わざとらしく口を
「まあ、いいんだけどね。子供達の集中力も切れて来たところだし。今日はもうお開き」
「終わり?」
「終わり?
「そう。今日はここまで! 解散!」
「今日は新しい遊びを開発するぞ!」
「いっくぞー!」
「キャー!」
「危ないことはしちゃダメだからねー」
「ハーイ!!」
はしゃぐ子供達が走り去って行く。
「で、
「うん」
「こ、これはっ!」
「村で初めて
「すごいね!
自分のことのように喜ぶ
「大げさだよ」
「そんなことない! そんなことないんだよ!」
「分かった分かった」
「これをこれから村長に見せに行くところなんだ」
「そっか!」
「日照不足で発育があんまりよくないけど他の作物もちゃんと育ってる。豊作とまで行くことはここでは多分無理だけど。でも、不自由ないぐらいには村に行き渡るようにするから」
「頼もしい……」
「じゃ、じゃあ。
「うん。気を付けて行ってらしゃい!」
何にと苦笑しつつ
「うん。行ってきます」
その時、村の中を風が吹き抜けた。急に外から吹き込んだ風は広場に達すると地面から上空へと駆け上がる。
「キャッ」
「おわっ」
「
「……私のことは誰も気に掛けてくれない」
「あれはもうムリだよぅ」
三人が振り返ると子供達が
「お母さんにもらったのなのに……」
上空を舞う飾り布は落ちてくる様子を見せず、それどころか風に乗って
「
「
左にのみ生える四枚の翼。
真っ白な羽根が広場にいた村人達の上に舞い落ちる。
「おっとと。お?」
水程の抵抗はなかったが、何か薄い膜を通り抜けたような感覚を
「おおお!?」
とてつもない強風と大量に舞う砂に
「
「
「ひ、
駆け寄った
「笑って! 子供達が見てる!」
「!」
「はい。君のだよね?」
「……うん」
受け取ろうと伸ばされた少女の手の方が震えていた。
「大事な物。もう手放しちゃダメだよ」
「うん。ありがとう!
安心したのか声を大きくして詰め寄ってくる少女に
「全然、大丈夫だよ。落ちたように見えたかも知れないけど、えっと……ワザとだから! パフォーマンスだから!」
「いや、ゼッタイワザとじゃないでしょ」
「黙らっしゃい!」
子供達の追求に
「それにしても、天使だ」
ん? と
「そうだ。天使だ……」
「本物の天使だ」
「天使……」
「天使だ!」
「本物……本物だっ!」
「天使だ!」
「天使だ!」
「本物だ!」
「えっ。なに? 何!?」
詰め寄ってくる村人達に
「
「
「
「え? うん!」
見れば
「はい。みんなちょっと落ち着いて」
それはとても落ち着いていたが
「村長」
「すまないね。
「村長……」
「ところでさっき村の外に出たかい?」
「へ?」
突然の話題転換に
「出たというか、ちょっと勢い余って……」
「そうか。怪我とかしてないかい?」
「大丈夫」
「なら良かった。気を付けて。僕がびっくりするから。はい。みんなあんまり興奮しないように。幻と言われる天使に
村長に言われて村人達はひとまず納得したが、それでも興味を引かれずにいられないのか
「それにしても、なんで村長がびっくりするんだろう?」
疑問に思いつつも
ニコニコ顔の村長に
「
この時、
「大丈夫だったよ。ほら、もうこの通り! 飛ぶ習慣がなかったから今までちょっと私も忘れてたけど」
そしたら
「トリオも帰って来たし、石の選別も終わったし、また売りに行くかね」
なんて独り言を呟きながら中央広場に差し掛かると、井戸の側でそわそわと落ち着きのない
「おーい。
「
近付いてくる
「な、何でもありませんよ!」
明らかに何かあると言っている
「で、何してるんだ?」
「えっと……。
「ああ。そういえば初めての収穫ができたとか言ってたな」
『
思い出して
「
「うん。良かったなと思ってさ」
「そうですね」
なんだか嬉しそうな
「報告に行っただけならすぐに出てきそうだな」
「いえ、それが……さっき
「ああ……」
「ふわふわだわ」
「そう?」
「綺麗なものねえ」
「……そう?」
「
「そうよね!」
意気投合する
「くすぐったい」
「それにしてももう本当に良くなったみたいね。痛みもないんでしょう?」
「うん。とゆうか飛んで初めてそれを確認できたというか」
「そうよね。そろそろ大丈夫かしらとは思ってたけど。できれば私が確認してから、私がいる場所で、安全を確保した上で、様子を見がてら、飛んで欲しかったけれど」
「ごめんなさい」
「傷があったところに少し
「気にならなかったなあ」
「そう。付け根の辺りにも違和感はない?」
「うん。大丈夫」
「そう。いいわ。もう大丈夫でしょう。
医者から完治のお墨付きを
「やった。これで飛び放題!」
「あ、でも。急に無理しちゃダメよ。翼を動かす筋肉もまた落ちてる筈だから。ゆっくりね。少しずつ戻していくのよ」
「はい」
「ちゃんと経験が身になってるわね」
「村の中を少しずつ飛び回るようにします」
「みんなにすごく注目されそうね」
言われて
「そう言えばさっき上まで飛んだ時、なんか水? の
「あらやだ、
「
「知ってるも何も。この村は基本いつも嵐に見舞われてるでしょう。だから村全体を外からの風や飛び交う砂から守る為に村長が常に結界、という程のものではないけど薄ーい水の
「いや、ちょっとは気にしたことも、あった……かな?」
「嘘っぽい」
「ま、とにかく。村長のお陰でこの村は砂嵐の
「
「ですか?」
神妙な口調になった
「ここを村として維持している限り、村長はここから動くことができないのよ」
「僕はそれを苦にしたことはないけどね」
村長が
「大きな
「うん! そう思う!」
「そう思います!」
「はいはい」
「だから村長は
「そうだね!」
「だからみんな村長を
「はい! 分かります!」
「はいはい」
盛り上がる三人を軽く受け流しながら村長は小さく
「お、出てきた」
「
「
「どうし……」
「
「はい!」
両手を握って
「
「はい! ハイ! ん? うん!」
「落ち着いて、
「なんか知らんが、ずっとそわそわしてたぞ」
そう言った
「
少しは落ち着いたのか
「……
「うん」
「確認したいことがあるの」
「うん。……うん?」
「聞いて!」
「あ、はい」
「
「それ」
「覚えてる? 私が町を出る時に
「まだ、持っててくれたんだ」
あの時は
「今ならはっきり分かる。
「うん。そう。
「
「何?」
「天使の羽根って、幸運のお守りなんだって。私もお父さんに聞くまで知らなかった。私、あの時、
「もちろん!」
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