第1章・緑色の瞳の少女と青色の瞳の少女(4)
「なるほど。つまり、ふたりの学校の先生が助けてくれたんだね。そして、あんな怪我をして今に至ると」
白い獣と目が合って明羽は
「怖がらなくても大丈夫」
それは相手を安心させる優しい声色だった。
「すまないが
「はっ! すみません! 気付きませんでっ」
「さ、ふたり共、楽にしてくれ」
「
「うん」
「大丈夫か? 俺に寄り掛かった方が
「大丈夫です。
食い気味に拒否されて
「そ、そうか」
「セ・ク・ハ・ラ~」
「なんでだよ……」
お盆に人数分の湯飲みを乗せて戻ってきた
「自己紹介が遅れてしまったね。一応、僕がこの村の村長です。と言っても僕が作った村だから村長に収まってるだけなんだ。よろしくね」
「一応ではないです。村長は
「そうですよ!」
「あはは」
「よろしくお願いします。
「私は
「くっくっ……」
「ぶふっ……」
「
「はい」
「すみません」
村長に
「このふたりとはもう自己紹介は済ませているかな。
「怪我したらすぐに私のところにいらっしゃいね」
「俺にできる範囲のことならやってやらないこともない」
「何よ。その
「俺にだってできないことはあるからな」
言い合いながらも言い切ったふたりに
「はい。
「ありがとう。
「いただきます」
その湯飲みからは
「おいしい!」
「本当。いい香り」
「おいしい冷茶でしょ。
「そうなんだ」
「さて、一息ついたところで。人間にこの村の
「まあ、大丈夫じゃない?」
「村長……」
「そんな軽くていいんですか……」
「
「そうです」
「三人から聞いた印象が同じなら、その先生の人柄は
村長の言葉に
「それに、分かっていたことだろう? 人間の間に
「それは、そうですが……。大まかでも場所を特定されているとしたら、やってくる人間もいるかもしれませんよ」
「その為の自然の防壁だろう。ほぼ毎日この村は嵐に見舞われている。村の上に青空が広がっていても、周囲では砂嵐が円を描いている。この砂嵐の中で人間は生きられない。方角を見失い、地に果てるだろう。砂嵐を
「それになにより、噂を流し始めたのは僕達なんだし」
思わぬ言葉が飛び出して
「ええ!? そうなの!!」
「まあな」
「噂を信じた仲間がひとりでも多くここに
「ちょっと触れ回っただけであっと言う間に広まったから最近は発信してないけどな」
「村の現状を思うとちょっと浅はかだったかな、とは思ってしまうけどね」
村長は苦笑する。
「噂が……そうだったんだ。あれ、でも、場所のヒント一切なしでどうやってみんながここに辿り着くって思えたの?」
「まあ、確かに
「そんな、気の長い……。それに何だか、人間以外の種族は砂嵐の中でも生きられるみたいに聞こえたんだけど……」
「……何?」
「
「うん」
「人間とそれ以外の種族で違いがあるのは知ってるわよね?」
「え? えっと……翼が生えてて空を飛べる、とか?」
「
「疲れにくいとは思います。人間に比べて体力はありますよね。私も
「それ、以外には?」
「落ち着け。
「ちょっと聞いてみようかな?」
「……はい」
村長の優しい声が今や、
自分達は何か間違っていただろうか、おかしなことを言っただろうかと不安になる。手に触れるものがあって見れば、
「君達ふたりは南の町から来たんだったね。
「うん」
「生まれた時からずっとそこに? そういえば、ご両親は……」
「あ、私達、両親はいなくって」
「おばさん達……人間に拾われて、育てて
「ええ!?」
「へえ。人間と暮らしてたのか」
「い、イジメられたりとかしなかった?」
「おばちゃん達はそんな人達じゃないよ」
「私達、本当に良くして
「あ……」
「
「そ、そうね。ごめんなさい。今のは私が悪かったわ」
「いつから……人間と一緒に暮らすように?」
「えっと……?」
「十年程前からです」
すぐに答えられなかった
「私達は十年程前に南の町の南門の前に
「
「うん? どうかした?
「いや、覚えてるんだと思って。私はその時のことあんまり覚えてないから。おばちゃんから聞いたから記憶にあるような気がするだけでさ」
「覚えてなくてもいいと思うよ」
「いや、でもさ。だってさ……そこからが私達の、記憶の始まりな訳でしょう?」
「そうだけど」
「ちょ~っと待ってくれる? ふたり共」
呼ばれて
「はい?」
「どうしたの?
「どうしたのじゃないわよ。ふたりだけで完結しないでちょうだいな」
「そこが記憶の始まりってどういうことだ?」
「ああ」
「私達。十年より前の記憶がないんだ」
「さっきの話し方だとふたり
「うん。ふたり
当然のように
「それはまた……不思議な偶然? もあるもんだな」
「そんなに不思議なことかなあ?」
「いやいやいや不思議だろ。意図的な何かが働いてんじゃないかって
「ああ……そうだね」
「村長。どうかしましたか?」
「いや。何でもないよ」
村長はそう言ったが
「やっぱり、村長。疲れてるんじゃないかしら」
「そうだよなあ。水の心配がなくなったとはいえ、食料の方は片付いてないしな」
「早めにお開きにした方が……」
「大丈夫だよ」
「僕の前でひそひそ話なんて。意味のないことを」
「そうでした……」
「ですが、村長……」
「本当に大丈夫だよ」
村長に
「話の続きをしよう」
「ふたり共、十年より前の記憶がないとのことだったが本当に何も覚えていないのかな?」
「う~ん」
問われて
「うん。本当に何にも思い出せない。覚えてない。
「そうだね。物の見事にぽっかりないんです」
「そうか。質問を変えよう。過去のない君達は自分達のことをどのようにして認識したのかな?」
「私が人間じゃなくて天使で」
「私が聖獣であるということを、ということですか?」
「そうだ」
「最初から、知ってたような……」
「そうだね。私もそんな気がする」
「教えてくれる人は誰もいなかったのに?」
村長のそれはどこか挑発的な物言いだった。
「天使である。聖獣であるということはまあ、人間でも種族特有の特徴を見れば分かることだ。天使なら翼。聖獣なら本来の獣の姿。
「はい。間違いなく」
村長の問い掛けに
「気に掛かるのはそこだな。君は確かに純血の聖獣だ」
「ええ。間違いないですね。でも、それのどこに気掛かりが?」
「
「私……」
「私はどっちだろー」
「へ?」
あまりに能天気な声に
「ちょっ……
「おう?」
「
「
倒れ込んだふたりに
「もう、
「痛い……」
「無理しない」
「ごめんなさーい」
「反省してるんだかしてないんだが……」
「しっかし、分からないって?
「う~ん。自覚はないなあ。正直どっちでもいいかなって」
「どっちでもいいかなって……。自分のことだろう」
「ん~。片翼だし。混血かな?」
「天使にとって片翼であるということは混血であるという証明にはならないよ」
皆の視線が村長に集中する。
「まあ、片方にだけ四枚あるというのはとても
「村長にも分からないことがあるんですね」
「僕にだって分からないことはあるよ。
「あら。私だけじゃないですよ。
「ああ。そうだな。村の中で村長を信頼してない者なんていません」
「うわー。なんでここでプレッシャー掛けて来るかな」
村長がため息をつくのを見ながら
「でも、村長。しんどい時は本当に言ってくださいね」
「できることは自分達でするんで」
「もちろん。頼りにしてるとも。さて、天使の性質上混血はないと思うが、ないと言い切ることもできないんだなこれが。
「村長って物知りなんだね」
「村長だからね」
何故か
「分からない中、ひとつだけはっきり言えることはあるんだ。天使は翼の枚数によって力の強さが変わる」
「力?」
「村長それって……」
「
「見る?」
「
「ご、ごめんなさい……」
震える
「つまり、
「まあ!」
村長の言葉に
「すごい話になって来たなあ」
「すごいわねえ。
「
「なあに?」
「力って、何?」
「それも分からないの!? 人間と私達の違いが分からないのは環境の
「ええっと……」
「落ち着け。
「人間の中で生活していたからって自分達が人間じゃないことはふたり共自覚してたんでしょう? それなのに? それなのに!?」
「落ち着けって……」
「すみません」
「ごめんなさい」
「いや、
「つまり、それこそが人間と僕達との最も大きな違いなんだよ」
少しぼさついた頭で
「我々は人間が持たない力を持っている。聖獣は水を
「丈夫、というのは……?」
「死ににくいということだよ」
「……そうですか」
「ええっと、つまり? 村長の言葉通りなら私は風を
「そうだよ」
「しかも、対の翼を持つ天使の二倍? の力って話だったよね」
「その通り」
「うう~ん。今までそんな気配感じたこともないんだけど」
「まあ、必要がなかったからと考えられなくもないかな」
「本来の種族としての生活では普通に使うものだが、君達はその力を必要としない場所にいたから。人間は他の種族が扱うような力を一切持っていない種族だ。そして、君達は、力を持って相手を跳ね
「ふたりが居たのは南の町の南門の近くだって言ってたものね」
「思えば北から最も離れた場所か」
「南の町って北の町から離れてるから人間の王や権力者の目が届かないのよね。だから規律は
「そういう場所で育ったんなら。お前らのそののんびりした性格も
「ちょっと。
「地理ハ……ニガテ」
「何でカタコト?」
「世界の形については理解しているつもりです。北、南、西、東に四大都市があって、その他に世界各地に点在するオアシス。オアシスは機械や石や鉱石や農耕や布など他にも様々に特化していて、それぞれにまつわる技術が集約していると」
「その通りよ。
「いえ、このぐらいは……」
「それにしても不思議よねえ。人間の王がいる世界の中心、北の町が世界で一番
「え、そうなの?」
「いたい……」
「授業でもやってたし、おばさん達やご近所の人達の話を聞いてれば嫌でも分かることだよ」
「そんなこと言われたって……」
「一応……一応さらっとくか?」
「この世界は最も
「そう、なんだ……」
世界にはそんな場所もあるのだと、世界のことにあまりにも
「そんな場所、私からしたらさっさと出て行っちゃえばいいと思うんだけどね」
「先立つものがないんだ。オアシスを経由して町から町の間を行き来する巡行バスもあの町は
「……なるほど」
「少し話がズレたな。世界の在り様はざっとこんなもんだ。少しは
「うん」
「いや、今のは冗談……」
「まあ、なんだ。人の話聞いただけで分かることなんて微々たるもんだ。興味が出たならその内、自分の目で見てくるといいさ」
掛けられた言葉に
「うん」
目に光を宿し、しっかり
「今は駄目よ」
「
「な、なんだよ」
「なんだよじゃないわよ。その気になった
「さすがに飛び出していくようなことはしねえだろ。そこまで馬鹿じゃねえだろ」
「私は馬鹿だと思われているらしい。まだ出会って間もないのに」
「
「
「はい。そうです」
「ひとりは純血の聖獣。もうひとりは左側にのみ四枚の翼を持つ片翼の天使。今頃、
「だから、そこまで馬鹿じゃねえだろって」
「また馬鹿って言った」
「
「もう、
「えへへ」
面白がってるのを
「おっほん」
「な、なに、か?」
「いや」
村長は目を
「話が長くなったね。そろそろお開きにしようか。話を聞く限り、特に問題はないようだし。
ここへ
ふたりはお互いの手を握り合う。
「うん。これから、よろしくお願いします。村長」
「お世話になります」
「君達は自分達が何者なのか、どこから来たのか、気にはならないのだろうか」
「私は、
「私も。
言い切るふたりに村長は頷いた。
「そうか」
家を出てからも村長は言葉をくれる。
「力を使う練習もしてみるといい。きっと、できるようになるよ」
「私はかつて、君達を見たことがあるよ」
今、村長の眼前に広がるのは遠い昔に見た光景。今はもう見ることのできない、遠い遠い昔の情景。地面を
「……」
村長は記憶の風景から目を
「完! 全! 復! 活! 私!!」
「完全じゃないから」
「痛いよ。
「無茶されちゃ困るからね。
「はい……」
それでも、
「うおおぉぉ! 今、
「良いわよ。走るだけなら」
「!」
「ゼッ……ハッ……」
「ずっと寝てたんだから体力が落ちてるのは当然よね。大人しく、少しずつ、体力回復に
「
さっきまでの無敵感、解放感はどこへやら。なけなしの体力を使い切って
「それにしても
「
「
「これは
「そうよね。愛よね。愛」
「アイ……」
「さて、
「案内ですか?」
「どこか行くの?」
「これからも
歩き出した
「準備出来たって連絡来てね。とは言っても軽い掃除と
「これから、わ、私達が住む家ってことだよね?」
「そうよ」
少し緊張してどもってしまった
「
「嫌なんて言わないよ」
「言わないです」
「ふふ。ふたりはそう言うと思ったわ」
「でも、余裕がないなら私達が住む家にも誰か住んでたんじゃないの?」
誰かの家を取ってしまったのではないかと心配する
「いいのよ。これであの子も決心ついたみたいだし」
「あの子?」
「決心ですか?」
「お互い好き合ってるのにどうにも自信がなかったみたいでね。さっきはみんな誰かしらと住んでるって言ったけどその子はずっとひとりだったのよね。
「それは……本当に大丈夫だったの?」
「大丈夫よ。もう一緒に暮らし始めて「もっと早く一緒に暮らしてれば良かった!」って本人が言ってるんだから」
「ああ。そうなんだ」
「はい。着いたわよ」
「すごい」
「だね」
「
家の外で
「村に井戸はひとつだけよ。この前見たわよね」
「はい」
「ここを少し進むとね、少し広い道に出るの。その道に
「はい」
「何かあったらすぐに来るのよ」
「何から何までありがとうございます」
「いいのよ。これから長い付き合いになるわ。遠慮なんてしてられないわよ。それから、今食べ物は配給制でね。朝だけ……」
「後であの茶葉分けてあげる。ふたりは少し新しい家でゆっくりして。じゃ、また後でね」
「これからはここが私達の帰ってくる場所になるんだね」
「そうだね」
「私が
「
「おお」
「ご両親と三人。本当に幸せそうだったよ」
「そっか」
「そうか」
「
「ん?」
「少し村の中を歩いてみない?」
きっと
「うん。行こう。あ、でも
「まだ時間はあるよ。きっと。根拠はないけど。入れ違いになったら
「それにしても配給かあ。食料不足なんだっけ。村長は
「実際、村の人に会ってみないことには分からないね」
「畑を作ってる人がいるって言ってたよね」
「言ってたね」
「ちょっと行ってみようよ。意味もなくぶらぶら歩くよりさ」
「そうだね。じゃあ、そうしようか。村の外れって
「村の外れ……って?」
「村の外れ」
「初めて聞いた時はピンと来なかったけど、本当にこの村、基本的に嵐の中なんだね」
「みたいだね。
「でも、村の中あんまり風強くないよね。砂も殆んど飛んでないし」
「そうだね」
「なんでだろう?」
「不思議だね」
「分かんないことは考えても分かんないや。やめよう」
「そうだね」
「しっかし、ここはどこだろう……」
「どこだろうね……」
ずっと同じような建物が並ぶ上に人っこひとりともすれ違わない。
「
「見ず知らずの私達にとっては道二本も行けば未知の世界だったね」
「お、ダジャレ」
「ぐ、ぐうぜん……」
「と、とにかく
「そだね」
「さ、行こう。
「あ、待ってよ。
再び歩き出したふたりはすぐに立ち止まることとなる。行った先に人影があったのだ。ひとりのご婦人が道を歩いていた。
「すみません!」
思わず大きな声になってしまって
「す、すみません……。急に大きな声出しちゃって……」
「いいえ。確かにびっくりしたけど大丈夫よ」
笑って許してくれたご婦人に
「ねえ。あなた達もしかして、
「え? はい。そうですが」
「知ってるの?」
「知ってるわよう! もちろんよ! 井戸の話!
「で、どっちが
「この子です」
「
「私の自慢の友達です」
「あなたが!」
ご婦人は
「ありがとうね。ありがとうね。村に来てくれて本当にありがとう!」
ご婦人の興奮が収まった頃を見計らって
「畑? 畑に行きたいの?」
「え? うん」
ご婦人はとても言い辛そうに自分の手を
「あっちよ。村の
あまりの言いように
「何かあるの?」
「あるというか、ないというか……。
ご婦人にお礼と別れを告げて、目的地のハッキリした
「私はすっかりついでだったね。くふふ」
「笑い事じゃないよ」
「でも、そのお陰で厄介者
「
「あはは」
「もう」
不機嫌になりながらも一緒に目的地に向かってくれる
その光景を前に
「
「あ、うん」
「そう言えば
「言ってたね」
目の前に広がるの小さな畑だった。村の
「
「あ、はい」
再び
「あの絶望は危険だ。あの人の言った通り、当てられそうだ」
「もう、当てられてるよね」
「なんで
「畑作りに精を出したことがないからかな」
「なるほど」
「なんとかしたい……。なんとかせねば……。この畑はさすがに見てるの辛い」
本当に軽い気持ちでちょっと見に来るだけのつもりだった
「あー、君達……。勝手に畑に入らないで欲しいんだが……」
「ちょ!? 何やってるのキミ!?」
「飾り棚」
「へ?」
「飾り棚が必要」
「カザリダナ?」
「これは吊るして育てる野菜です!」
瞬間、男性は雷に打たれたような顔になった。
ザワザワという声に
「何事?」
つい最近まで、なんなら今日の朝まで
「ああ、
おばちゃん村人が
「なになに? なんなの?」
「いいから見てごらんなさいよ。驚くから!」
「これは……」
「どうゆう……」
言いかけて
「あの子達。家にいないと思ったらこんなところに……」
「すごいのよ!」
「え、え? なに?」
おばちゃんが
「あの子が言った通りにしたら見る見る畑の苗の様子が変わってね!」
おばちゃんの話を要約すると、畑の発案者の男性が慌てた様子で村
「へえ」
「
しかし、その肝心の少女は今、畑の
「畑仕事は病み上がりにはそりゃ無茶よね」
なけなしの体力を使い切った
「
そして、畑の修復に
「探したわよ~」
「すみません。ちょっと村の中を見て回ってすぐに戻るつもりだったんですけど」
「まあ、いいわ
「私は全然大丈夫ですよ」
「まったく知らないところに来て、しかも日が浅い。しかも注目も浴びている。大変じゃない訳ないわ」
「ありがとうございます。何かあったらすぐに
「ええ。そうしてちょうだい。さて、
「私なら大丈夫ですよ~……」
いつの間にやらヨレヨレながらも
「あら。
「はい」
「は~い……」
「待って、待ってくれ!」
「お兄さん」
引き止める声に振り返れば畑の発案者の男性が駆け寄って来ていた。男性は
「わっ! ちょ、ちょっと!? どうしたの?」
「ありがとう……。ありがとう! 本当にありがとう! 君の言った通りに続けてみるよ。また、見に来てくれると嬉しい!」
涙を流し、鼻の頭を赤くしながら笑う男性に、
「うん。また来るよ。じゃんじゃんバンバン見に来るから!」
「
男性に手を振って畑を後にした道すがら、
「嬉しそうだね。
「そうだよ。すごく嬉しいの。
「そんなに?」
「そう!」
今にも踊り出しそうな
冷たい風が吹いて明羽は肩を震わせた。
「冷えて来たね。
「だね。早く帰ろう」
帰ろうと言って、少しの違和感を覚えたのを
小さな家に着いて
「疲れた」
「少し歩くつもりが結構な運動量になったもんね」
見慣れない天井を
「すごく、不思議な気分だ」
「うん?」
「私達、少し前までここじゃないところにいた。あそこにいるのが当然だと思ってた。まだ、そんなに経ってない筈なのに、すごく昔のことのような気がする」
「この数日初めてのことばかりだったから」
「先生……。アサツキ先生に伝えたいよね。私達、今元気だよって。先生の言った通りだったよって。いい人だったよね。私達が人間じゃないって知っても黙っててくれた。先生のお陰で……」
黙った
「
「
「
「
「おばさん達のことは私だってすごく気になる。でもね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます