告白、そして……2
「ホントに、よく来るんですね!」
明さんが、笑顔でそう言った。
「やっぱり、馴染みの店って来やすいんですよ。勝手もわかっているし。辰田さんは、馴染みのお店とかありますか?」
「この前に行ったそば屋さん、馴染みのお店ですね! 月見そば、美味しかったことないですか?」
「めちゃくちゃ美味しかったです! また行きたい!」
テンション高めにそう言う俺に、明さんはますます笑顔になった。
「そういえば、翔の写真、持ってきましたよ!」
そう言って、手提げバッグの中から小さなアルバムを取り出した明さん。
「わっ、ありがとうございます! 見ても良いですか?」
「どうぞ! その為に持ってきましたので」
写真の中に写っていた、達川翔は間違いなく俺の知っている達川翔だった。
「これで、翔の姉だとわかって頂けましたか?」
達川翔のお姉さんというのは、間違いない。だが、今となっては俺にとってそんなことはどうでも良かった。
「はい! 間違いなく俺の知っている達川翔です!」
「良かった……。前に会った時にお見せ出来れば良かったのに、うっかりしてました」
明さんは更にバックから何かを取り出した。
「これ、翔が私の16歳の誕生日の時に買ってくれたヘアピンなんです! このヘアピンを見る度、翔のことを思い出すんです。」
「誕生日、昨日だったんですよね?」
「えっ、どうしてご存じなんですか?」
誕生日の話題が出たので、思わず訊いてしまった。お好み焼きすら食べていないし、雰囲気もへったくれもないが、ここでプレゼントを渡してしまおう。
「実は、うちの大学に、木原巳依というのが居りまして」
「まあ! 巳依ちゃん! 桜居さんと同じ大学だったのですね!」
「学部学科も一緒なんですよ。更に、辰田緑子准教授の居る研究室で卒論を書いています」
「緑伯母さんもご存じなんですか! すごい偶然! それで、どちらかが私の誕生日を言ったのですね」
「はい、辰田緑子准教授からお聞きしました。それで、俺も辰田さんをお祝いしたいとプレゼントを持ってきました。」
そう言って俺は、ショルダーポーチから、スマホケースを取り出した。
「辰田緑子准教授がスマホケースを探していると聞いて、俺のセンスで買ってみました。気に入って下されば、幸いです」
明さんは、びっくりしたのか、何もしゃべってくれない。俺は、砂時計の砂が落ち始めたかのように、しゃべり続けた。
「俺、プレゼント以外にも辰田さんに言いたいことがあります。辰田明さん、俺は、貴女のことが好きです! 何を言ってんだと思われるかもしれませんが、大好きです! 俺、最初に交通事故でぶつけられた時、大したことなかったし、面倒ごとは沢山だと思って立ち去ろうとしました。ですが、辰田明さん、貴女は引き留めましたね。その時は、なんとも思っていなかったんです。貴女を気になり出したのは、達川翔の姉だと知った時からです。妙な偶然もあるものだと思ってました。それから、お墓参りに行き、回転寿司屋に行きましたね。翔のことで今も苦しんでいる話をしてくれた時に、俺の胸にもグッと来るものがありました。貴女に何度も電話を掛けた時には、嫌われたのではないかと悩みました。貴女が電話に出てくれた時は、本当に嬉しかったです。お互いの休みの日を交換し合って、更に好きになりました。今日の会える日まで、貴女のことばかりが頭に浮かびました。それくらい、貴女のことが本当に好きです。どうか付き合って下さい。」
しゃべり終えた俺は、明さんからの言葉を待った。
「……下さい」
「えっ」
「返事をするのに、少し時間を下さい。プレゼント、ありがとうございました。大事に使わせて頂きます。私も、桜居さんのことはずっと気に掛けてました。翔のように、大事故にすることがなくて、本当に良かった。桜居さんとおしゃべりするのは、本当に楽しいです。だからこそ、少し時間を下さい。私も、桜居さんのことは好きです。ですが、私は交通事故の加害者です。桜居さんは優しいから、もう許して下さってるのかもしれませんが、私は私が許せません。加害者である私と、被害者である桜居さん。そんな二人が本当に付き合っていけるのか? わだかまりが残っているのです。」
そう言って、話すのを止めた明さん。お好み焼きが出て来て、俺は、
「……、食べましょう」
「はい」
不思議な雰囲気の中で、お好み焼きを食べた。
お好み焼きを食べながら、
「告白、嬉しかったです」
明さんが話す。
「俺も、明さんの気持ちが知れて、嬉しかったです。俺、待ってます! 明さんの気が済むまで待ってます!」
俺は、照れながら、お好み焼きを食べた。明さんも、食べ方は上手くて、俺が教えてあげるまでもなかった。
お好み焼きを食べ終わった俺たちは、
「この後、どこか行きます?」
「桜居さんの告白の返事を考えたいので、今日は帰らせて頂きます。今日はお好み焼き、とても美味しかったです。ありがとうございました。気持ちが固まり次第、ご連絡させて頂きます。」
「わかりました」
そう言って別れた。
どこか距離を感じる明さんのしゃべり方は、加害者としての責任を感じていたのだ。それに比べて、被害者の俺は、そんなことも考えずに、明さんへの想いを膨らませて。
今日のことで、明さんへの気持ちが冷めるようなことは全くなく、けれど、どこかで俺も被害者として明さんへの責任をもっと問い詰めた方が良いのかなと不思議な気持ちだ。
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