迫る約束の日2

 5月23日木曜日、晴れ。


 今日は、ゼミのプレゼン資料を作る為に朝から大学の研究室に篭っている。


 疲れて伸びをすると、バイトの時以外は必ず居るんじゃないかと思う追分が目に入った。


「追分、新しいスマホケース見せてくれよ」


 俺は、華さんが紹介してくれたショッピングセンターのスマホケースがどんなものか確かめたかった。


「ああ、桜居。これだよ、見てくれ」


 追分はそう言うと、カバンからスマホを取り出した。幾何学模様の刺繍の入ったそのスマホケースは、確かに見たことがなかった。


「そこの店の人、趣味でスマホケースを自作しているらしい。腕は確かだ。オーダーメイドのスマホケースも作れるみたいだぞ!」


 追分はにやりと笑った。


 オーダーメイド出来るのは嬉しいが、約束の日は明後日だ。正直、そんなことをしている暇はない。だが……、


「既製品もこんなアレンジあるのか?」


「ああ、あるぞ。ちなみにオーダーメイドのスマホケースは1週間位掛かるらしいぞ。」


 華さんが紹介してくれたショッピングセンターのスマホケースの種類は凄いみたいだが、やはり、オーダーメイドのスマホケースの方が良い気がしてきた。


 俺は、絵心はそれなりにあると思っている。オーダーメイドのスマホケースを作るにあたって、デザインは自分でしようと思った。ズバリ、テーマは『子猫のお家』だ。子猫の足跡を幾つか付けて、その先にはマカロンドーム型の子猫のお家をデザインする。手帳型を選ぼうと思っているので、表と裏を目一杯使ってデザインしようと思っている。手帳型なら、カードを入れることも出来るし、機能性もあるだろう。


 5月25日に渡そうと思っていたが、いきなり、


「誕生日プレゼントです!」


って渡すのは、なかなか勇気が必要だ。


 ここはひとまず、明さんと恋人関係になってから、


「実は誕生日プレゼントを準備していました」


みたいな感じはどうだろうか?


「誕生日から少し経ちましたけれど、俺の気持ちを受け取って下さい!」


 こんな感じに明さんのことを思ってますアピールをすれば、明さんの好感度も上がるのではないだろうか。


 こんな妄想話ばかりやっていても明さんとの関係は変わらないが、確実に約束の日は迫ってきている。


 ゼミのプレゼン資料の作成はテキトーに終わらせて、スマホケースのデザインを良いものにしておかないと。


 約束の日に、明さんの誕生日プレゼントにこんなもの作ってます、って言った方が良いかな? あまりにもあからさまに良いところを見てもらおうと頑張ってますというのが見えて、良くないかなあ?


 普通に会って話して別れるだけなんて、もうがまん出来ない。どうやら、俺は思っていた以上に明さんのことを好きになっていたようだ。明さんのことばかり浮かんできて、どうすれば良い関係が築けるだろうかということが頭の中に浮かんでくる。これでフラれたら、どうなるんだろうな……。


 ◇◇◇


 5月24日金曜日、晴れ時々曇り。


 今日は明さんの誕生日。


 ショートメールでお祝いメールを送りたい所だが、気持ち悪いと思われたら嫌だしな、と思って止めた。ゼミは、テキトーに作った割には好評で、追分に、

「なんでお前そんなことが出来るの?」

と、驚かれた。


 趣味と研究を兼ねているのが、良かったのかな、と我ながらプレゼン上手いなと自画自賛しつつ、ゼミは終わった。


 その後、追分から、

「そろそろ、隠してること話せよ!」

と、核心をつかれて、

「わかったよ……。実は……好きな人が出来た。その人と付き合いたいと思ってる」

と白状した。


「まあ、そうだろうな。そんな感じはしてたよ」


 追分は前々から怪しんでいたようで、自分からは聞かず、俺が話すことを待っていたそうだ。追分は俺の白状を茶化す様子もなく、真剣に聞いてくれた。追分が友人で良かった、と心から思った。


「上手く行くと良いな!」


 追分のその言葉に、俺は背中を押された感じがした。


◇◇◇


 喫茶食堂『三日月』は今日も上々の客入りだった。


「約束通り、今月のバイト代、はずむからなー」


 バイト終わり、文吾さんからそう言われ、

「ありがとうございます」

 と元気よく返した。


 帰り際、華さんに、

「例のショッピングセンター、今日行ってみます」

と言うと、

「そっか~、あそこ良いからね~!」

とお店を褒めていた。


 帰り道、いつもは素通りしているそこに、今日は寄ってみた。


 中に入ると、町のホームセンターのような雰囲気だった。店内を少し歩き回ると、それを見つけた。


 『スマホケース』と表示されたそのエリアは、店内の1/10は占めているだろう広さだった。


 これは凄いな……。


 思わず、溜め息が漏れる位のラインナップに感心した。オーダーメイドをやってるって言ってたから、どんなものかと思っていたが、想像以上に良かった。俺は、オーダーメイドしようと思っていたが、止めた。俺のデザインなんかより良いデザインがものすごくあるのだ。


 悩んだ末、月と猫2匹が寄り添う手帳型のスマホケースを買うことにした。3500円でお釣りが来た。


 プレゼント用のラッピングをしてもらって、意気揚々と店を出た。


 これなら、バッチリだ。きっと明さんに喜んで貰えるはずだ。

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