店探し
5月5日のバイト終わり、俺は明さんに連絡を入れた。
2コール目に、
「はい」
いつもの落ち着いた調子の明さんの声がした。
「こんばんは。今、バイト終わりました」
「お疲れ様です」
「友人の衛藤と達川の墓参り、行ってきました」
昨日、予定通りに達川の墓参りに行ったことを伝えた。
「そうですか。迷わずに行けましたか?」
明さんがそう訊いてくるので、俺は更に詳細を伝えた。
「はい。電車を使って、お墓までは行きました。花立の花とシキビを替えときました。」
「ありがとうございます」
「あの……、衛藤と話してたんですが、まだ、達川が亡くなっていることが、信じられません……」
俺のこの話に、明さんはしばらく沈黙した後、こう返事があった。
「……今度お会いするときに、翔の写真でも持って行きましょうか?」
「え? ありがとうございます! ぜひ見させていただきたいです!」
そうなのだ。衛藤と話していて俺も達川が死んでいるという実感が沸かなかったのだ。そもそも、明さんが達川のお姉さんであるというのも、ずいぶん昔の話なので、ぴんときていなかったのだ。
「そうですよね。私もウッカリしてました。なんの証明もなしにいきなり翔の姉だと名乗り出て、弟は死にました、なんて言ってもなかなか信じられないですよね。わかりました。翔の写真、何枚か持って行きます。」
写真を見せて貰えるのは、とてもありがたいと思った。これで、本当に達川が亡くなっているというのを納得出来る。
「それで、会う日ですが、いつにしましょうか?」
明さんのその申し出に、俺は決めていた内容を伝えた。
「あの……、5月25日土曜日の11時半からとか、大丈夫ですか? 案内したいところがあるんです!」
「ええ、大丈夫ですよ! わかりました。25日土曜日の11時半からですね! 場所はどこですか?」
「大学の駐車場に停めてもらえます?」
「はい、大丈夫です!」
「ありがとうございます! 当日、よろしくお願いします。では、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
ばっちりだ。予定通りだ。実は昨日、衛藤と計画を練っていたのだ。
~回想始め~
あの後も、俺と衛藤は、明さんの話で盛り上がっていた。
「それで、お前、達川のお姉さんと会う約束したのかよ?」
「それが、食事をする約束してたんだけど、良いお店が思い付かないんだよ……」
俺は、次に会う食事デートのお店が決まらないことを話した。
「達川のお姉さん、車で来るんだろ?」
「ああ……」
「それじゃ、大学周辺のお店の方が良いんじゃないか? 遠出するのも疲れるだろ?」
「そうだよな……。衛藤、お前、どこか知ってる? 知るわけないよな……」
俺はダメ元で衛藤にどこか良い店が知らないか、訊いてみた。
「ふふふ……、一輝、俺は何でも知ってるぞ! 前にお前のうちに来た帰りに、良い店見つけたんだ!」
「えっ? そうなのか?」
意外にも、衛藤は良い店を知っているらしい。
「男女で食事をするのに、良い店なのか?」
「ああ……、男女で食事するには良いんだろうなというお店だよ」
俺は衛藤に導かれて、その店まで連れて来られた。
「ここだ!」
「えっ、ここってお好み焼き屋じゃないか」
お好み焼き屋『市楽』、広島風お好み焼きが売りの俺もよく知っている馴染みのよく行くお店だ。
「一輝、お前は食事デートを難しく考えすぎだ!」
「そうなのか?」
衛藤の話がまた始まった、と思いながら、俺は話を聞いた。
「レストランの予約をしておいて、サプライズ演出をしたりするのは、付き合ってからだ。スムーズに会話が出来るか、お店への配慮やマナーが行われているか、これが重要なのだ!」
「なに情報だよ」
「ネットの情報だよ! でも、案外合ってると思わないか?」
「確かに、慣れない店に行って、失敗するよりもよいかもな!」
「だろ? 食事マナーとかを気にする女性って、結構多いんだぜ? 敷居の高い店のマナーなんて知らないだろ? その点、広島出身のお前にとって、お好み焼き屋のマナーは知れたもんだろ? 達川のお姉さんをリードしてやれよ」
「お好み焼き屋なら、確かによく分かる……。というか、この店、俺もよく行くから!」
「そうなのか? まあ、そういうことだ! という事で、今日はここで昼飯にしようか!」
◇◇◇
俺と衛藤は、この店に行く日を決めていた。
「平日はやめておいた方がいい!」
「どうしてだ」
「大学に車を停めにくいだろ? 混んでる可能性も高いんじゃないか?」
「確かに。まあ、『市楽』は俺も平日にはよく来ていたし、大学生が利用しやすいかもな……。」
「今日はゴールデンウィークだから、人も多いが、大学生は少ない。やっぱり、来るなら休日だろう」
「わかった。5月25日土曜日なら、俺も明さんも休みだ。」
「そこが良いだろうな。食事の後は、何か決めているのか?」
「いや、食事の予定しかないが……」
「せっかくだし、カフェでも誘ったらどうだ?」
「食事の後にカフェに誘うのか?」
「案外、スイーツは別腹だったりするぞ! まあ、話が盛り上がったら、どうだ?」
「わかった」
~回想終わり~
この計画、結構イケるのではと自分的には思ってる。明さんに俺の魅力が伝わるといいな。
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