3章
衛藤からの忠告
少し時は流れて、5月4日、薄雲が少し張った晴れ。
長距離バスに乗って、衛藤がやって来た。坊主に近い短髪の衛藤は、白シャツの上にブルーグリーンのコーディガンを羽織り、黒のスキニーパンツという出で立ちだ。俺は、白青ボーダーシャツに黒ジャケット、下はグレーのチノパンというスタイルである。
「よー、一輝。元気してたか?」
相変わらずの軽い感じの衛藤だ。
「ああ。それなりにしてる。来てくれて、ありがとな!」
「愛しの一輝の為なら、たとえ火の中だろうと、水の中だろうと来てやるぜ!」
「ははっ、何だよ! それ!」
いつもの調子で話していたが、衛藤がいきなり真顔になって、
「達川のことは、残念だったな……。人間、死ぬときは死ぬんだな」
悔しそうにそう言う。
衛藤も、友人の達川が死んだことを受け止めきれていないようだ。そんな衛藤に俺はこう言った。
「ああ……。じゃ、先に墓参り行くか?」
「そうしようぜ! 今回の一番の目的になったから」
「ああ」
当初の予定では、衛藤と俺がオススメする映画を観に行く予定だったが、墓参りを優先して行くことになった。
◇◇◇
最寄り駅から歩いて10分、達川の眠っているお墓に到着した。『辰田家の墓』と書かれた墓石をみて衛藤は、
「信じられないな……」
そう言った。
「俺も達川のお姉さんに言われるまでは信じられなかったよ。でも、お姉さんには会えたが達川には、会えていない。これは、真実だ!」
俺は、自分にも言い聞かせるようにそう言った。
「そうか……、お前、達川に会えていないもんな……。そうだよな……。達川、そっちで元気でやってるか? お前に会いに来たぞ!」
衛藤は、墓石に線香を立てながら、話し掛けるように、そう言った。
俺は、そんな衛藤を黙って見守りながら、墓石に手を合わせた。
「もう一度、成長したお前に会いたかったけどな……」
衛藤がぽつりと言った。俺だって、と俺は衛藤にそう言おうとしたが、衛藤が続けて言った。
「どうせ、いつかは皆そっち行くけどな。まだ、当分行くつもりはないけどな。まさか、幽霊になって、この世をさ迷ったりしてないだろうな?」
笑って衛藤はそう言った。衛藤らしいその言葉に、俺も笑顔になった。
「さて、帰りますか~」
「達川のお姉さんには、会えないんだよな?」
「ああ……、残念ながら、仕事中」
帰り道、衛藤と俺の話題は、明さんのことになった。
「達川のお姉さん、美人だったか?」
「俺にとっては、超美人だった。実は、付き合いたいと思ってる」
「へ?」
俺のこの発言に、衛藤は驚いた顔をした。
「お前、それ、本気で言ってるの?」
「本気。今度会う時に告白しようかなとも思ってる」
「そうか……、まあ頑張れや」
「もち! 俺の自惚れかもしれないけど、お姉さんに気に入られてると思うんだ!」
「お前って、今までに彼女居たっけ?」
「中学時代に一人」
「キスとかした?」
「いや、ただ話して手を繋いだだけだった」
「それだけ?」
「ああ」
それを聞いた衛藤は、俺に向かってこう言った。
「いくら、経験ないと言ってもな、キスとかを女性の側からさせるなよ! 受け身になるな! お前がリードするんだぞ! わかったな!」
衛藤は割りと真剣にそう言うので、
「ああ……、わかった」
少し弱腰になりながらも、俺はそう言った。
「達川のお姉さんが男性経験あるかはわからんが、一般的には男性が女性をリードするのが常識だからな!」
そんな常識初めて聞いた、と思ったが、衛藤と言い争いになるのも嫌なので、
「そうか……」
と、俺は頷いた。
「まあ、だからといって、がつがつ行って引かれたら、お前に悪いからな。とっておきを伝授してやろう」
「とっておき?」
さも恋愛マスターのように話してくる衛藤に、少しうんざりしながらも、恋愛経験の少ない俺にとっては参考になると思い、黙って聞いた。
「お前、映画好きだったよな?」
「ああ、趣味は映画鑑賞だからな」
「映画鑑賞に誘え! 言っとくが、映画館では観るなよ。お前の部屋でだ! 良いムードになりそうな映画の一本や二本、お前なら知ってるよな! その時だ!」
つまり、
「俺の部屋に誘って映画鑑賞していて、良いムードになったらキスしろ、と?
」
「ああ、流れに乗ってその先もやるのも良いかもな!」
明さんと、付き合ってもいないのに、そんなシチュエーションまで考えてくれる衛藤。
「お前、彼女とか居たっけ?」
俺は、一応衛藤に彼女の有り無しを訊いてみた。
「いや、全てラノベの情報だけど」
はぁ、やっぱりそうだよな……。
「まあ、頑張ってみるよ! 先ずは、恋人関係にならないとな。明さんに彼氏居るのかもわからないけど」
「はぁ? 彼氏いるのかもしれないのかよ! まあ、略奪愛は逆に燃えるよな!」
ラノベ脳の衛藤の忠告はほどほどにして、あまり参考にしない方が良いのかもしれない。
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