明さんとの繋がり2
それからも、自己紹介と研究テーマの発表は続いていき、俺の番となった。
「広島県からきました、桜居一輝と言います。趣味は映画鑑賞で、最近観た映画は"キングダム"です。この映画は、同名の漫画が原作でありまして、紀元前3世紀の古代中国の春秋戦国時代末期を舞台にして、後の始皇帝となる秦王政と、秦の武人である主人公・信の活躍を中心に描かれている中国時代劇であります。ところで、研究テーマですが、先程紹介させて頂きましたように、映画が好きですので、"映画に投影される日本社会"をテーマに研究させて頂こうと思います。映画が日本に登場した1896年から始まり、現在に至るまでにどのような映画が創られ、日本社会とどういう関わりを持っていたのか、映画からわかる日本情勢、などを調べて行きたいと思っています」
教授から、2,3の質問を受けたが、それなりに準備していたので、どもらずに答えることが出来た。
◇◇◇
皆が発表を終え、今日のゼミは終了となった。
皆の名前と研究テーマを覚えるつもりでいたが、辰田准教授のことが気になって、他のことがあまり頭に残らなかった。
明さんの母親、という訳ではないと思うが、年齢的にはそうでないとも言えなくもない。俺は、パソコンを立ち上げて、辰田准教授のプロフィールを見ることにした。
当然だが、この大学に所属している者しか閲覧は出来ない。小田原研究室のページに辰田准教授の情報は載っていた。
「なになに……、あっ広島大学大学院社会科学研究科の博士号を取ってる。で、そのまま研究生として、広島大学大学院に所属、か……。こっちの大学には、10年前に配属、これは達川が小学6年で引っ越したのとも合うな……。もしかして、明さんのお母さんなのか?」
調べれば、調べるほど、明さんのお母さんのような気がしてきた。他に辰田准教授の情報がないか探してみたが、明さんとの繋がりを示す情報は見つからなかった。
もっと情報が欲しい。
こういう時、頼れるのは追分しか居ないので、まだ研究室に残って作業をしていた追分にあたってみた。
「えっ? 辰田准教授について、何か知らないか、だって? ネットで調べろよ。」
そう突き放してくる追分。
「頼む、追分、この研究室のことも研究してたんだろ。ネットに載らないような情報が欲しいんだよ!」
俺は、追分に何かないかと迫った。
「わかった、わかったから、顔を近付けて来ないでくれ。そういや、辰田准教授はずっと独り者らしいよ。研究に没頭してて、婚期を逃したらしい……」
「追分! そうだよ! そういう情報だよ! 辰田准教授は独り者だった。確かな情報か?」
「ああ、辰田准教授の姪というやつが言ってたから確かだよ。」
そうか、辰田准教授はずっと独り者か……。じゃあ、辰田准教授が明さんの母親説は消滅したな。俺は更に追分に尋ねた。
「じゃあ、辰田准教授に兄弟姉妹は居るのか?」
「しつこいな! 辰田准教授に直接聞くか、姪に聞いてくれ! 俺は、これ以上の情報は持っていない!」
追分に、そう冷たくあたられた。
「すまん、追分。今度、バイトシフト入れない時に代わってやるから」
「本当だな?」
「ああ、本当だ」
「わかった。とりあえず、俺はもう知らないから」
「わかった。最後にその姪ってやつは、名前は何で、どこのやつだ?」
「知らないか?
木原、あのよくしゃべる騒がしいやつか。
確かに、明さんに似ている気がしないでもない。
香川研究室って、俺が入りたかった研究室じゃないか。
辰田准教授よりも、木原に聞いたほうが良いな。
「わかった。ありがとう」
俺は、追分に礼を言い、木原を探ることにした。
もし、辰田准教授が明さんのお母さんの姉妹なら、自動的に木原は明さんの親戚ということになる。この繋がりは、かなり大きい。
木原の居る香川研究室は、同じ階の一部屋挟んだ向かいにある。セキュリティはあまり厳しくないので、研究室が違っていても、ここの学生ならば学生証をかざせば、ロック解除される仕組みになっている。
木原巳依は鎖骨に少しかかるくらいのセミロングの髪の長さで、茶髪に染めている。服装はスゴくラフな格好で、ルームウェアのような上下に、サンダルを履いている。木原は俺よりも成績が良いので、俺はあまり強く木原に話しかけることが出来ない。香川研究室も今日がちょうどゼミの日だったらしく、木原や他の香川研究室の学生も何人か居た。
「木原、ちょっといいか?」
俺は、木原を見つけると直ぐに声を掛けた。
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