突然の事故2

 交通事故での診察は、健康保険適用外らしい。近くの病院へ行った俺は、そこでえらい高い診察料を見せられて、びっくりした。お医者さんは、

「特に悪いところはありませんね。レントゲンだけ、一応撮っときましょうか」

と数分ほどの診察とレントゲン撮影だけで終わってしまっていた。まあ、俺自身、何ともないと思っていたので、予想通りっちゃあ予想通りだが。


 さっさと会計を済ませて帰ろうとしたのだが、

「桜居さん!」

と呼び止められて、何事かと思った。


 振り返るとそこには、辰田明が立っていた。何でここに? と不思議に思ったが、辰田明の格好を見ると、どうやらここの看護師をしているみたいだ。


「病院に来てくださり、ありがとうございます。どこも悪い箇所はございませんでしたか?」


 辰田明は、そう俺に訊いてきた。


「ああ……、特に異常はありませんでしたよ」

俺がちゃんとお金は払って下さいね、というより早く、

「診察料はお支払い致します。ご負担お掛けして申し訳ありません」

と言って来るので、

「はい……」

としか答えられなかった。


「もう少しで、お昼休みになりますので、よろしければ、少しお話しませんか?」

そう言う辰田明。俺は、

「少しなら……」

と何を話すんだろうかと考えながら、辰田明が昼休みになるのを待った。


◇◇◇


 昼休み、辰田明の誘いで近くのそば屋に来ていた。辰田明をまじまじとみてみると、俺とさほど歳も変わらないように思えた。


「桜居さん」


 辰田明が俺の名前を呼んだ。


「はい、なんですか?」


 俺は、辰田明が何を言ってくるのか分からず、身構えた。


「ここのそば、美味しいんですよ!」

そういう辰田明に俺は拍子抜けした。


「へー、そうなんですか」


「そうなんですよ!私はよく月見そば食べますね。」


「じゃあ、俺も同じやつ頼んでみようかな……」


「はい!」

辰田明はなんだか嬉しそうに月見そばを注文していた。


「あ、お金はけっこうですから!私に払わせて下さい!」


「いや、そういう訳にも……」


「いえいえ、桜居さんには手間を掛けさせていますから、その手間賃です。」


 相手は加害者、俺は被害者。そう考えると、奢られても良いのかもしれない。そう思った俺は、

「では、お言葉に甘えて……」

そう言って、お昼を奢ってもらうことにした。


◇◇◇


月見そばは絶品だった。


 そばを食べている間、俺は何気無く辰田明に歳を訊いてみた。


「23歳です」

そう答えた辰田明。俺とは、2歳違いなのか。


「桜居さんて、出身は何処ですか?」

辰田明がそう訊いてくるので、俺は、

「ここではないですね。どこだと思います?」

 そう聞き返した。


「広島県ですか?」


「凄い! 当たりです!」

一発で当てられた俺は、これは何かあるな、と怪しんだ。


「もしかして、辰田さんも広島出身だったりします?」

そう聞いた俺に、黙って頷く辰田明。もしかして、忘れてるだけでどこかで会ったことがあるのか?


「あの……、ところで話ってなんですか?」

なんとなく知り合いのような気がして来た俺は、とりあえず本題を訊いてみた。


「あの……、達川翔タツカワショウって覚えていますか?」

達川翔……、達川翔……、あっ!

「小学校まで一緒のクラスだったやつです。中学から転校していなくなった」


「はい、その子です! 私、その達川翔の姉なんです!」


 そー言えば、居たわ、そんなやつ。達川とは、よく遊んでた覚えがある。お姉さん、そう言えば、メイちゃんとおばさんに呼ばれてた。


「へー! そんな偶然あるんですね! 達川、今は何処に?」


「死にました。」


「へ?」


 達川が、死んだ?


「原因は、何なんですか?」


「交通事故です……」

交通事故……。


「あの子、翔は16歳になってすぐに原付免許を取ったんです。トラックとの交通事故に遭って……」


 達川が交通事故で死んだ? 達川と楽しそうに遊んでいた頃を思い出す。


「そうなんですか……」

俺と明さんの事故は本当に軽かったから、その事実に呆然とする。


「桜居さん。桜居さんがよろしければ、ぜひ翔の墓を見舞って欲しいんです。どうですか?」

断る理由もないな……。


「ぜひ、見舞わせて下さい!」

俺は達川を思い出しながら、そう言った。


◇◇◇


「今日は、付き合って貰ってありがとうございました。また、お電話させて頂きますので……」


「はい、今日はご馳走様でした。それでは」


 そば屋を出た俺達は、病院の入口前でそう言う明さんと別れた。


 しかし、偶然仲の良かった友達のお姉さんと、交通事故に遭うこともあるんだな。達川のやつ、交通事故で亡くなってるっていうし……。お姉さんが、俺をひき殺さなくて本当に良かったな……。


 原付を運転する手に力がこもる。


 さて、とりあえずバイク屋行って、テールランプの修理をして、達川のお姉さんと保険会社の電話を待っているかな。

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