第61話

 気付いたら、いつもの朝だった。

 狭いベッドで向かい合い、しっかり抱きついている。

「あぁ……」

 昨夜のことを思い出し、思わず声が漏れる。情けないーー傷ついて泣いていた恋人よりも先に、私寝落ちしたんだ。

「起きたの?」

 いつも通りの優しい声だった。

「ごめんなさい」

「ん、何が?」

「先に寝ちゃって……呆れてるよね」

「あぁ……ふっ、可愛い寝顔見られたから許してあげる」

 思い出し笑いみたいだ、私、寝ている間に何かした? あ、そんなことより。

「昨日、なんで泣いてたの? 私のせい? ちゃんと言ってね、私鈍感だから言ってくれないとわからないから」

 笑顔が少し真剣な表情に変わる。

「そういうところ……あぁ、天寧のせいじゃないから。ただちょっと、悲しくなっただけよ」

「なにが?」

「私は……そのつもりだったもの」

「ん?」

 言いにくそうに少しの間が空いたのは、私がわかってあげられなかったから呆れたのかも、えっと昨日は何があったっけ、もしかして。

「紫穂ちゃんが言ってたアレ」

「あ、週末婚ってやつ?」

 そういえば、あの時悲しい顔してたっけ、一瞬だったから気のせいだって思ってた、なんで気付けなかったんだろう。

「あんなにハッキリ否定されちゃったらね」

「いやあれは、だって、まだ学生の身分だし」

「そうだよね、天寧はまだまだ、これからいろんな出会いもあるだろうし、遊びたいだろうし、縛っちゃいけないよね」

「え、え? 違うよ、そういう意味じゃなくてーー」

 やだ、そんな風に思ってたの?

「私まだ、経済的にも自立してないし頼りないしーー」

 誤解だよ。

「だから、まだそんなんじゃないって言ったけど、いつかは栞菜ちゃんとって思ってるーー」

 分かってよ。

「他の誰かじゃなくて、栞菜ちゃんがいいの。私が栞菜ちゃんを幸せにするから」

 あれ、なんだかプロポーズみたいになっちゃった、しかも上から目線で恥ずかしい。でも私の本気度を伝えなきゃ。


 栞菜ちゃんは途中から、手で顔を覆ってしまっていた。やっぱり私の発言はイタかったかな?


「本当だったんだ」

 ようやく顔を見せてくれた栞菜ちゃんは笑顔だった、良かった。

「ん? 本当って?」

「昨夜、私に言ったこと覚えてないんでしょ?」

「え?」

「やっぱり! 寝ながら喋ってたもの」

「なんて?」



 私は寝ぼけながら、何を喋ったの?


「最初はね、好き大好きって言い続けていて」

 マジか、恥ずっ。

「本当に? って聞いたら、本気だよって言ってね」

 それは、本当のことだ。

「なら結婚してくれる? って聞いたらね、私が栞菜ちゃんを守ります、幸せにしますって言ったのよ」

 すでに寝ながらプロポーズしてたとは。

「なんてことを……穴があったら入りたい」

 思わず口にした言葉に、あぁコレってこういう時に使うのかと場違いな事を考えていた。一種の思考停止かな。


 栞菜ちゃんの手が私の頬に触れる。ひんやりしていて気持ちいい。

「真っ赤だよ」

 でしょうね、さっきから顔だけ異常に火照っている自覚はあります。


「寝ぼけていて、覚えていないのは不本意だけど、それは心からの言葉だから」

「じゃあ、もう一度言ってくれる?」

 よく見ると、栞菜ちゃんの頬も薄っすら赤みがかってる。やっぱり、まつ毛長いなぁなんて思いながら言葉を探す。

 私の心からの気持ちを言い表す。


「愛しています」


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