第60話

「なんかそれって、週末婚みたいだね」


 蘭ちゃんと紫穂ちゃんがやってきて、私はパスタを作り、みんなで食べながら近況報告なんかをしていたら、私と先輩の関係について紫穂ちゃんの爆弾発言が飛び出した。

 週末……婚? 婚って婚姻・結婚・婚礼・求婚etc……の婚、だよね。

「え、待って。そんなんじゃないよ」

 とても驚いたから、いつもより大きな声が出ていた。

 一瞬の沈黙と、私を見る3人の目。え、なに?

 蘭ちゃんは純粋に驚いているみたい、紫穂ちゃんは面白がってるような、そして栞菜ちゃんは……

 でもそれは、すぐにいつものみんなに戻っていて、また別の話題へと移っていった。


「じゃあ私たちはそろそろ」

「え、もう?」

 程なくして、蘭ちゃんと紫穂ちゃんが帰り支度を始める。

 紫穂ちゃんは私の耳元で小さな声で囁いた。

「新婚さんのお邪魔はしないから」

 蘭ちゃんは口パクで、頑張れ! と言ったようだ。

 え、え?


「それでは先輩、お仕事頑張ってください」

「ありがとう、またいつでも遊びに来てね」

 手を振り合っている。

 私にはまた学校で会えるけど、先輩とは名残惜しいのだろう。


「さて、片付けようか」

「片付けは私がやるから栞菜ちゃんはお風呂入ってきて」

 明日にはもう帰ってしまうのだから、ゆっくりして欲しい。お風呂に入っている間に、片付けとベッドメイキングも済ませた。交代で私も入浴を済ませる。

「今日は私は下で寝るね」

 シングルベッドでは狭いので、時々は床にマットを敷いて寝ている。

「なんで?」

「今日はゆっくり眠って……って、え?」

 なんで?

 驚きすぎてフリーズ、体も言葉も固まってしまった。

 栞菜ちゃんが泣いている。


 フイっと泣き顔を見せないように枕に顔を伏せているが、細い肩が震えている。

「はっ」私は我に返って、慌ててベッドの上へ。

「どうして」

 なんで栞菜ちゃんが泣いているのかわからないけど、私のせいだということはわかる。

「ごめん」

 さっきから私の心がキュッと何かに掴まれているように苦しい。

「触っていい?」

 どうすればいいかもわからないけど、私がどうしたいかはわかる。

 背中にそっと触れる、呼吸に合わせて手を動かす、静かな時が流れる。

 少しだけ、締め付けられた心が緩む。

 もう少し近づきたくなって頬を背中へくっ付ける。触れている部分からじわりと温かさが伝わってきて、心地よい温度と好きな人の匂いで視界がぼんやりする。心の奥底から湧き上がる思いーー好き、大好きーーあぁ、なんだか力が抜けていく感覚。

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