第59話
「ふぁぁ、ちょっと寝てもいい?」
片付けが終わったら、栞菜ちゃんは大きなあくびをしながらベッドへ横になった。
「じゃ、私は向こうでレポート書いちゃうね」
「ここでやれば?」
「音がうるさいよ? ノートパソコンだからキッチンでも出来るから」
ワンルームの我が家でも、ゆっくり休んで欲しい。
「天寧の奏でる音なら気持ちよく眠れると思う。ふふっ」
何故か嬉しそうに。
「ねぇ今のフレーズ良くない? 天寧の小説に使ってもいいよ」
なんて言う、優しくて可愛らしい人。
「あ、うん。使ってみようかな」
好きな人が立てる生活音は心地良い響きがある、それは私にもよくわかる。
お言葉に甘えて、栞菜ちゃんの顔が見える位置にセッティングをして作業を始める。数分もしないうちにスゥスゥと寝息が聞こえてきた。
普段から寝不足なんだと思う。先週も同じように眠そうにしていたので尋ねてみたら、平均睡眠時間は4時間程だと言い、アプリを見せてくれた。可愛いキャラクターがぐぅぐぅ眠っているものだった。
「4時間も眠れば大丈夫だよ」と言っていたけれど、無理して会いに来てくれているのかもしれないな、無防備なのに綺麗な寝顔を見ながらそう思った。
レポート作成の目処が立って片付けている間に、栞菜ちゃんも起きたみたいでゴソゴソしていた。近づいていくと両手を差し出すから起こして欲しいのかと思って手を取ると「違う」と首を横に振る。そのまま手を引かれて栞菜ちゃんの胸へと飛び込んだ。寝起きの体温が私を包む。
「あったかいね」
「天寧も一緒に寝よ」
そうしたいのは山々だけど。
「そろそろお昼だから何か作らないと」
「もうそんな時間か、結構寝ちゃってたね」
「疲れてるんじゃない? ねぇ、無理してない?」
「無理って?」
「毎週欠かさず会いに来てたら疲れが溜まるんじゃない? たまにはゆっくり休んで欲しい」
栞菜ちゃんが真顔になって首を傾げる。
「ここで休んでるよ?」
「ん、でも……」
「あ、もしかして迷惑?」
「そんなことはないけど」
「ごめん気付かなくて、私がいたら天寧の自由がなくなっちゃうよね」
「そんなこと、ないってば」
「友達と遊んだりもしたいでしょ」
「それは……だったら、ここに呼ぶし」
「えっ?」
「だいたい遊ぶのは蘭ちゃんや紫穂ちゃんだし、なんなら2人とも先輩に会いたいって常々言ってるし、もちろん栞菜ちゃんが良ければだけど」
「いいじゃん、呼ぼうよ! 善は急げ、今日はどう?」
「そんな急に……」
で、メッセージを飛ばしたら来るって言う、突然なのに凄いな。
栞菜ちゃんにゆっくり休んで欲しいって思ってはずが、なんだか不思議な展開になった。でもまぁ、これはこれで嬉しいな、いつの間にか栞菜ちゃんは張り切って部屋を片付け始めていた。
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