第57話
【天寧side】
なんで分かるんだろう、普段通りに接していた自信あったのに。私が悩んでること言い当てられ、それを無理に聞き出そうとしない優しさ。
自惚れてもいいのかな、私のこと大切に思ってるって。
「あのね」
私も栞菜ちゃんのこと大切に思ってるから、きちんと話そうと思う。
「一個上の従姉妹がいるの」
「うん」
「実家へ帰省した時に会って少し話して、就活の大変さを切々と語られて、私に向かって今すぐ就活した方がいいよって言うの」
早い人は6月くらいから始めると言う。
「天寧の希望は決まってるの?」
栞菜ちゃんと出会った頃は、まだ先のことなんて何も考えていなかった。そんな話もしたから心配しているのだろう。
それでも今は、自分なりに何がしたいのか考えて答えは出ている。
「うん、それは決まってる。行けるかどうかはわからないけど」
「なら、その従姉妹の言う通り早めに準備する方がいいよね」
「そうなんだけど」
「実家で何か言われたの? 地元に戻って欲しいとか」
あ、まただ。なんで分かっちゃうんだろう。
大学三年の夏に帰省すれば、そりゃそういう話にもなるよね。
「あんたが一人で都会で暮らせると思ってるの? こっちで就職した方がいいんじゃない? 就職出来なければお見合いでもすればいいし」
悪気がないのは知っているけどその言い方はどうなの? 親にとってはいつまでも私は何にも出来ない子供なのだろうか。
「私は……」
心配そうな顔の栞菜ちゃんがこちらを見ていた。
「私は天寧が決めたことなら応援するよ。たとえば距離が離れたとしても、休みの日には会いに行くし。気持ちはずっと天寧のそばにいるから」
普段は言葉が少ない栞菜ちゃんだから、素直に信じられる。付き合い始めた当初は不安もあったけど、積み重ねてきた信頼関係もある。
素直に、嬉しい。
距離が離れてもーーその言葉が私の心に沁み渡る。
本当は私が栞菜ちゃんに言うべき言葉で、少し前から考えていたこと。
本人は否定していたけど、私のために引越しをしなかったのは明らかで、そのために無理をしていること、今まで私は気付かないふりをしていた。
「ありがとう、凄く嬉しい。私も同じだよ、どれだけ離れていても心は栞菜ちゃんと一緒にいるから」
安心したような、優しい笑みでウンウンと頷いている。
「私も夢に向かって就活頑張るから、栞菜ちゃんもお仕事頑張って! そのためには東京に引越しした方がいいと思うの」
「うんうん、って、えっ?」
「一度遠距離恋愛ってしてみたかったし、あ、引越し準備も手伝ってあげるからね」
「天寧?」
「私は栞菜ちゃんを信じてる。だから考えてみて」
「ん、わかった」
夏休みが終わると、栞菜ちゃんは引越し準備から手続き等々、私は情報収集からのインターンシップ申し込み等々、お互い更に忙しくなったけど、充実した日々を送っている。
二人の未来のために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます