第56話
「明日の夜から雨が降り出すみたいだね、明後日は一日中雨かぁ」
お風呂から上がったら、天寧がお天気のアプリを開いて呟いていた。
「残念だったね」
「え?」
「実家の方で予定もあったんじゃないの? 台風のせいで早く帰ってくることになっちゃって」
「ううん、そうでもないよ」
「もしかして、私と会いたくて帰りを早めたとか?」
「え?」
「えっ」
なんだ、違うのか。天寧も私と同じかと思ったのにな。
「あっ」
なんともバツの悪い顔をする。
本当にこの子は正直だ、まぁそんなところも好きなんだけど。
なんかごめん、なんて言うから。
「謝られると振られたみたいでヤダな」と、珍しく笑いを取りにいく。
「栞菜ちゃん、好き」
「うん、知ってる」
スッとベッドに入り込んで、顔を近づける。
いつもの言葉と、いつもより長めの口づけで、心がぽかぽかになる。
「ねぇ天寧、なにかあった?」
どこがどうというわけではないけど、今日はいつもと違う感じがしてそっと聞いてみた。
寄り添っていたから、天音の体がビクリと動いたのを感じた。当たりか……
「もし悩みとかあるなら……あぁ、言いたくなったら言ってね」
いくら恋人でも踏み込んで欲しくない領域もあるだろう、でも心配してるってことは伝えたい。
顔は見えないけど、ギュッと腕に力が入ったからそれが返事かもしれない。
たまにはこうやって抱き合ったまま眠るのもいいね。
その日は雷の音で目が覚めた。
「けっこう降ってるね」
「台風、近づいてるね」
二人ベッドの中で微睡みたくて、天寧に手を伸ばすが、スルッと抜け出されてしまった。
「え、起きるの?」
「もちろん」
「こんな日に?」
「こんな日だから」
「うぅ、起きたくないな」
「栞菜ちゃんが起きたくなるように、美味しい朝ごはん作るから。目玉焼きと卵焼きどっちがいい?」
「ん〜、卵焼き」
「了解」
しまった、これで出来上がったら起きなきゃいけなくなっちゃったな。
まぁでも、天寧の卵焼き食べられるなら起きるかぁ。
これが幸せってやつなんだよね、きっと。
「少し風が強くなったね」
「そうだね」
「怖くない?」
さっきから雨が窓を叩きつけるような音がしている。
「栞菜ちゃんがそばにいるから、怖くないよ」
「なら、ずっとそばにいてあげる」
なんだか今の言葉、プロポーズみたいだななんて自分に突っ込みながら、食後のコーヒーを飲んでいた。きっと天寧は照れているに違いないなんて自惚れながらふと見ると、真面目な顔で何か考え込んでいた。あれ、想像した反応と違うじゃないかと心配になる。
「どうかした?」
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