お互いを信じるということ

第54話

【栞菜side】


「あぁもう、なんでこんなに暑いの、ただいま」

「そりゃ、夏だからねぇ、おかえり」

 部屋の中はエアコンが効いていて快適だ。

「お腹空いた」

「はぁ……あんたって子は全く」

 そう言いながらもキッチンへ立つ姉。

 私が唯一、自分をさらけ出し言いたいことを言える相手。家族だから当然と言う人もいるが、両親にはそれが出来なくてどうしても壁を作ってしまう私には、姉の存在は絶大だ。

 それでも。

 最近は天寧にも、自分を偽らず自分の気持ちを伝える事が出来るようになってきた。天寧に限っては、自分自身よりも信じられる、そんな存在だ。


「ねぇ、少しは手伝おうって思わないの?」

 キッチンからの声に、少し考え行動を起こす。

「えっ、珍しい」

 私が手を洗っていると、本気で驚く声がした。

「少しくらい出来ないとって思うから」

「ふぅん、だから?」

 今度はニヤついた声だ。

「だから、教えて!」

「素直でいいねぇ、変われば変わるもんだね」

 じゃアレ取って、コレ切ってなんて指示をされて、その通り動く。

「大根と人参は短冊切りでお願い」

 短冊?

 手が止まった私に気付いた姉は驚いていた。

「もしかして知らない?」

「誰も教えてくれなかったもの」

「そっかそっか」

 何故か嬉しそうな姉。

 はい、こんな感じだよって見本を見せてくれたから、真似をして切ってみる。

「おぉ、上手いじゃない、あんたは昔から手先が器用だからねぇ」

「そぉ?」

「そうだよ、何やらせてもそつなくこなしてさぁ、羨ましいって思ってたよ」

 そんな風に思われてたなんて知らなかったな。

 昔の思い出を話しながら手を動かして、そのうちに料理が出来ていく。

 なんか、こういうのもいいなぁ。


「明日からお盆休みでしょ、帰らなくていいの?」

 二人で作ったご飯を食べ、片付けをしながら聞いてきた。

「うん、天寧も実家に帰ってるし、実は少しだけ仕事持ち帰ってるんだ……あ、迷惑?」

 出社する必要はないから自分の家でも仕事は出来るし、迷惑だったら帰った方がいいか。

「私は別にいいよ、家に誰かがいてくれた方が安心だしね」

 姉はサービス業だから、夏休みは別の日に取るらしい。

「それでも……」

 何か言いたげな姉は真顔になっていた。

「仕事忙しそうだから、そろそろこっちに引っ越した方がいいんじゃない? 最近疲れてるみたいだし、体力的にも経済的にもさぁ」

「あぁ……うん」

 いろいろ心配してくれているのはよく分かっている。

 入社当初より出社日数が大幅に増えており、今後もきっと増えることはあれど減ることはないだろう。

「あの子なら、大丈夫じゃない?」

「え、どういう意味?」

「遠距離でも平気でしょ」

「天寧だから?」

 確かに天寧の性格なら、最初は寂しがっても案外大丈夫な気もするけど。

「違うよ、あんたがよ。あの子のおかげで栞菜が変わったのが分かるから、あの子のこと信頼してるのが分かるからよ」


 やっぱり姉には敵わない。

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