第51話
「今日ね、ようやく大きな仕事が一つ終わって、やっと会えるって思ったら嬉しくて、時間見たらまだ学校にいるんだろうなって思ったら、少しでも早く会いたくて学校へ向かったの。思い出してたのは、天寧と出会った時のこととか、その後のこととか、懐かしいなって思ってたら天寧が出てきて。そしたら『天寧先輩』なんて呼ばれて、嬉しそうに手なんか振ってるし、なんか無性に悔しくなって。天寧ったら、あの頃より可愛くなってるし、その子はずっと天寧のこと見てたし、あれは絶対勘違いなんかじゃないーーあ、ごめん。嫉妬だっていうのは分かってるんだけど。天寧は、私なんかと違って素直だし本当にいい子だから、みんなに好かれるのは当然なんだけど、だけど何だか嫌で。だから、つい、嫌いなんて言っちゃって」
許してくれる? と言う先輩の真剣な眼差しを受けてなお、不思議な感覚だった。
今日一日の、先輩のいろんな顔や行動や諸々……
そうか、先輩らしくないんだ。
今までの先輩では考えられないようなことをしてる、でも、それはきっと私のためにしてくれたこと。
「栞菜ちゃんが、こんなに喋ったの初めて見た」
「うぅ……」
見るからに狼狽えていてそれも新鮮だったけど、さすがに可哀想になる。
「違うの、嬉しいんだよ。追いかけてきてくれた時点で、もう許してる」
「ほんと?」
「というか、許すもなにも、ショックだったけど怒ってたわけじゃないもの」
「別れるとか言わない?」
「言うわけない、私は栞菜ちゃんしか見えてないもの」
「天寧」
「栞菜ちゃん、一つお願いがあるの」
「なに?」
「抱きしめて欲しい」
そう言うと、先輩は優しく微笑んだ。
「おいで」
そして手を広げてくれた。
「あったかいね」
あぁ、好きだなぁ。先輩の腕の中は、やっぱり安心できる。
「今日はうちに泊まってく?」
「うん」
「ベッド狭いけど」
「いいよ、なんなら今から」
そこは、先輩らしい。
「いやいや、まずはご飯でしょ」
「あぁ、安心したらお腹空いた」
「作るから待ってて、オムライスでいいよね」
「うん、ケチャップでハート書いてね」
「子供か」
ようやく見られた先輩らしい笑顔。
リクエストされる前に考えていた、ケチャップでLOVEって書いてあげよう。
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