第49話

「栞菜先輩、今日は何が食べたいですか?」

 バスを降りて、スーパーへ向かおうとしていた。

「作らなくて良いよ、早く二人きりになりたい」

 買い出しの時間も惜しいらしい。

 それはまぁ、私も同意だけど、でも。

「ダメです! 最近ちゃんと食べてないでしょ? ちょっと痩せた気がするよ」

「え、わかるの?」

「どうせ冷蔵庫の中は空っぽなんだから、サッと買い物済ませましょ」

「……それもわかるんだ」

 若干拗ねてる先輩を連れて歩き出した。



「ちょ、今作ってるから、もう少しだけ待ってて」

 まだ作り始めたばかりなのに、背中にくっついてくる。

「やだ、ご飯は後でいいから」

「ダメですって」

 会えない時にもずっと思っていた。

 忙しい時には食事を疎かにしてしまう人だから、私に出来ることはこれくらいしか思いつかない。

「やだ!」

「もう、わがまま言わないで」

「天寧はーー」

 あれ、涙声になってる。

 驚いて振り向く。

「天寧は寂しくなかったの?」

「え?」

「私にずっと会えなくても寂しくないんだよね、学校生活楽しそうだもんね、いいよね学生は」

「何言ってるんですか、寂しいし会いたいよ、でも私はーー」

「何よ」

「栞菜ちゃんに会えない日はずっと思ってた、次に会える時まで頑張る自分でいようって」

「うぅ……天寧のそういうところ、嫌い」

 は、なんて?

 嫌い?



 一瞬で頭の中が真っ白になって、何をどうしたか覚えていない。

 たぶん、先輩の部屋を飛び出したんだろう、いつの間にか自分の部屋へと戻っていた。

 何がいけなかったんだろう、嫌われるようなこと言ったつもりはないけど。

 先輩に嫌われたら、これからどうすればいいんだろう。

 ただただ呆然と、佇んでいた。

 


※※※


 私がその言葉を言った瞬間に、彼女の表情がなくなった。

「あ、違う、そうじゃなくて」

 必死に弁明しようとしたけれど、彼女の耳には届いていない。目の焦点も合っていない。

「天寧、待って! 行かないで」

 もちろん、その言葉も聞き入れられず。



 まただ、またやってしまった。



「ねぇ、どうしよう。天寧が出て行っちゃった」

 私が泣きつけるのは姉しかいない。

「は? 何したの、喧嘩?」

「嫌いって言っちゃって」

「はぁ? あんたの、いつもの天の邪鬼かぁ」

「どうすればいい?」

「すぐ追いかけなさい」

「え、でも」

「このままでいいの? ずっと去るもの追わずでいたら、大切なもの失っちゃうんだよ! いい加減変わらなきゃ」

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