第46話
「うわー」
先輩のお土産は、写真で見るよりかなり可愛いくて。
「食べないの?」
「可愛い過ぎて」
食べてしまうには気が引ける。
「なら、私が」
「あっ」
先輩にひょいっと取られてしまった。
「はい、あーん」
反射で口を開けてしまい、スポンジケーキが入ってきた。
咀嚼すると甘いクリームとバナナの味が口内に広がる。
「おいひぃ」
そう言うと、先輩は目を細めて笑う。
ずっと見つめてくれている先輩を見ていたら胸が締め付けられた。
「うぅっ」
「え、そんな泣くほど美味しいの?」
違う、そんなんじゃない。
「先輩が……好き」
「え、うん、ありがと」
「先輩……」
「どうした、何かあった?」
よっぽど悲壮感が漂っていたのか、先輩が真顔で心配している。
「先輩、一昨日の夜はどこにいたの?」
「ん?」
「栞菜って呼ばれてた」
「はい?」
「誰と一緒にいたの?」
「え、お姉ちゃんだけど」
「お、ねえ……さん?」
「うん、言ってなかったっけ」
知らない、お姉さんがいることすらも。
「なぁに、私が浮気でもしてたと思ったの?」
「いえ、そこまでは思ってないけど」
なんだお姉さんか、それなら名前で呼ぶのも納得だ。
「もしもし」
気が抜けてぼんやりしていたら、いつの間にか先輩が誰かに電話していた。
「うん、彼女と話してくれない? うんそう、実の姉だって証明して欲しいのーー実はそうなのーーうん、わかった」
え?
先輩がこちらを向いた。
「天寧、お姉ちゃんと話してくれる? 顔が見たいって言うからビデオ通話でいい?」
「へ?」
「はい」
返事も待たずにスマホを握らされ、画面には綺麗な女の人が映っていて。
「きゃー可愛いねぇ、ごめんね、栞菜って面倒くさい性格でしょ? 根はいい子なんだけどねぇ。あ、貴女のこと大好きなのは間違いないからね、いっぱい惚気聞かされてーー」
「はい、もう終了!」
私は一言も言えぬまま、先輩にスマホをもぎ取られ、強制終了された。
「うるさいお姉ちゃんでごめん」
「いえ、私の方こそ疑ってごめんなさい」
私の事をお姉さんに話してくれていたなんてーーそしてそれを受け入れてくれるお姉さんもーー嬉しい。
「私はちょっと嬉しかったよ」
「え?」
「妬いてくれたんでしょ?」
「ああ……」
恥ずかしい。
「それに、一瞬敬語じゃなくなったじゃない? 距離が縮まった気がしてさ」
「あ、スミマセン」
「嬉しいって言ってるのに! 敬語じゃなくてもいいし、名前で呼んでもいいんだよ」
先輩、優しい目をしているな。
いいのかな?
「じゃあ、栞菜先輩って呼んでもいい?」
「ん……いいよ」
いつかは、先輩が取れてちゃんと呼べるようになりたいーー好きな人の名前を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます