好きな人の名前を
第43話
先輩は卒業し、私は進級した。
環境が変われば、もしかしたら私たちの関係性も変化があるのかもしれないとの不安もあった。具体的には、会う時間が減るとかーー最近はよく喋ってくれるようになったけど、元々口数の少ない先輩とのコミュニケーション不足はまぁまぁな問題だと思うから。
結論から言うと、私の不安は杞憂に終わっているーー今のところは。
先輩は、ほぼ在宅ワークで週に一度出社するスタイルらしい。なので私が学校帰りに部屋を訪ねれば会えるからだ。
今までは週に一度だった逢瀬は、週に二度になり三度になり……
いや、私だって最初は遠慮してたんだよ、いくら在宅ワークでもお仕事で疲れているだろうと思って先輩の部屋に寄らずに帰ったりしてたのに、そんな日は先輩からのメッセージが届くのだ。
「今日は来ないの?」
「お腹空いちゃった」
などなど。
そして私はいそいそと先輩の部屋へと通うのだ。
つまりそう、らぶらぶなのです。
「やっぱり天寧のご飯、美味しい」
「先輩は、いつも通り綺麗です」
向かい合って微笑み合いご飯を食べる事が日常になりつつあって、多幸感にぼんやりしてしまう。
ふと見ると、先輩が見つめてる。
「もう卒業したんだから、先輩じゃなくて名前呼んでよ」
「ふぇ? せ、先輩は先輩ですから」
「えぇぇ、つまんないな」
「えっと、考えときます」
名前を呼ぶ? 考えただけで恥ずかしいーーというか、恐れ多いよ。
でも。
先輩がお皿を洗って、私が拭く。
いつものルーティン、最後のお皿を拭き終わる。
先輩は軽くシンクを洗っている。
「か、栞菜……さん」
先輩の動きが止まって、こちらをゆっくりと向いた。
心なしか顔が赤い、それ以上に私は真っ赤だと思うけど。
「やばっ」
小さく呟いた先輩は手を拭いてから抱きしめてくれた。
「嬉しい! けど照れるね、それにーー」
「なんですか?」
「いや、なんでもない。やっぱりまだ先輩呼びでいいかも」
「へ?」
先輩が言ったのに、なんで?
「呼ばれ慣れてなくて変な感じっていうか、そういえば友達からも苗字で呼ばれる方が圧倒的に多いからさ」
そうなのか、確かに私も先輩と呼ぶ方が慣れているけど、いつかはその特別な呼び方をしたいなぁ、とも思うんだけどな。
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