第42話

「先輩、何を食べて生きてるんですか?」

 そんな大げさな言葉が、天寧の口から発せられた。


 キスの後、天寧をそのまま押し倒し二回戦目に突入した。もちろん今度は私がリードをする。誕生日だから特別に甘く優しくしたつもりだけど、終わった後には二人して抱き合いながら眠ってしまっていた。

 このまま微睡みながら朝を迎えるのもいいけど、さすがにお腹空いたよね。

 私は冷蔵庫を開けて飲み物を取り出し、そこで空っぽの冷蔵庫を見た天寧の言葉だった。


「これ食べてる」

 冷蔵庫の中は飲み物だけしか入っていないが、冷凍庫には品数豊富な食品が詰まっているんだよ、お勧めはパスタだ。

「美味しいから、一緒に食べよ」

 レンジで温めてお皿に盛り付ければ完成。

「あ、ほんと美味しい」

「でしょ」

「でも先輩、野菜不足では?」

「そお?」

「私、作ってもいいですか?」

 なんて? それって手料理ってこと?

「あぁ、迷惑じゃなければ……ですけど」

「うん、それは全然迷惑じゃないよ」

 むしろ嬉しい。

「良かった、勝手にキッチン使われるの嫌な人もいるから」

 確かに、私は誰かを家に泊めるのも天寧が初めてだし、もしも天寧以外の人がキッチン使うって言ったら断るかも。

「よし、明日は一緒に買い物行こうか」

「やった」

 満面の笑みって、こういう顔のことを言うんだよね。

 

 私は、バスの中で初めて天寧の笑顔を見た時から、心を奪われたんだと思う。

 だって今、とっても幸せだもの。



※※※



「サトーちゃん、先輩のところ行かなくていいの?」

 蘭ちゃんが声をかけてくれた。

 相変わらず先輩は人気者で、大学最後の日もみんなに囲まれていた。

「うん」

「写真、撮ってあげるよ?」

「ありがと。でも私、この後先輩を独り占めするからさ、今は大丈夫」

「うわ、サトーちゃんも言うようになったねぇ、ふふ。じゃお先に帰るね」

「はーい、またね」



「天寧、お待たせ」

「あ、先輩卒業おめでとうございます」

「ありがとう、行こうか」

 こうやって帰り道を一緒に歩くのも最後かぁ。

「先輩、袴姿すてきです」

 半歩後ろを歩きながら見惚れていた。

「最初は恥ずかしかったけど、着て良かった」

「着てくれて良かったです」

 最初はスーツで出席するって言ってた先輩だけど、袴姿が見たいと言った私の言葉に応えてくれた。

「似合ってます」

「そ?」

 照れた顔も可愛い。


「そうだ先輩、今日何食べたいですか?」

「そうだなぁ、まずは卵焼き」

「どっちの?」

「だし巻きもいいけど、やっぱりあっちかな」

「甘いやつですね?」

「うん、だって好きなんだもん」

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